第九話 強欲
う、うーん?どこだ、ここは?
目を開くと、知らない場所にいた。洞窟?だろうか。とても広い。俺が寝ていたのは、どうやら、枯れ葉で作られた寝床のようだった。
辺りを見た。俺以外にもう一匹、獣がいた。大きさとしては、俺より少し小さいだろうか。だが、九本ある尻尾がとても大きく、それが本体なのではないかというほどだった。それは、間違いなく、狐だった。色合いとしても、そこに違和感はない。白毛と黄金色の毛で覆われている。
『名称:スプリンダ 性別:雌
種族:魔賢九尾 闘級:A
レベル:67/150 状態:健常
パラメータ
筋力:5724 体力:5821 魔力:6280 技巧:6162 敏捷:6012
スキル
特性:【魔獣の感覚:lv.8】【再生:lv.6】【強欲の罪:lv.3】【直感】【無詠唱】【消費魔力半減】など多数
戦術:【獣魔咆哮:lv.7】【爪牙術:lv.8】【疾駆:lv.7】【隠密:lv.10】【暗殺:lv.9】【鞭術:lv.9】など多数
魔術:【狐火:lv.10】【魅了:lv.9】【光熱魔術:lv.7】【氷雪魔術:lv.8】【雷霆魔術:lv.7】【闇黒魔術:lv.8】【回復魔術:lv.7】【強化魔術:lv.5】【鑑定:lv.8】など多数
耐性:【魔獣の毛皮:lv.6】【光熱耐性:lv.8】【氷雪耐性:lv.7】【雷霆耐性:lv.7】【闇黒耐性:lv.9】【支配耐性:lv.7】など多数
称号:【森の主】【強欲の魔王】【狡知の詐欺師】【傾国の才女】【知識欲の権化】など多数』
「ガウ?!」
その能力を見て、思わず驚愕の声が出た。
「ン、ンン?」
その声によって、身動ぎするスプリンダなる狐。
あ、え、起きちゃう!?このラスボス何?!
頭の中、パニックの俺を現実が待ってくれるわけもなく、狐はパッチリと目を開いた。
「クワ〜」
呑気に欠伸を一つ、身体を伸ばし、お座りの姿勢となってから、やっとこちらを見た。
『起きたみたいだね。あたしはスプリンダ。強欲の魔王であり、この森の主だよ、よろしく』
『よ、よろしくお願いします……』
『んん?なんで、怯えてるんだい?魔力はちゃんと隠蔽してるし、威圧系のスキルだって、切ってる筈なんだけどなぁ。それにあんたも、魔王なんだからさ、もっと堂々としなよ』
『……俺が魔王?』
『そうだよ?だから、あたしは、あんたをここに連れ込んだんだからね。覚えてないのかい?』
え?と、とりあえず、能力を見るか。
あっ、ある。他にも、新しいスキルが幾つか。えっと。
『【魔獣の感覚】
魔獣の優れた六感により、気配と魔力を感知する。
【支配】
下位の存在を支配することができる。
【忿怒の罪】
〔破壊〕の権能。
【再生】
異常な速度で、肉体を治癒する。部位欠損も時間を掛ければ、治癒する。
【獣魔咆哮】
魔力を伴い物理衝撃と化した咆哮。
【槍術】
槍を使った戦闘術。角の扱いにも、適応される。
【獄炎】
自然に消えることのない地獄の炎を操る。
【魔獣の毛皮】
物理的攻撃、魔術的攻撃に耐性を得る。
【支配無効】
支配系スキルを無効にする。
【獄炎無効】
獄炎系スキルを無効にする。
【孤高の主】
もう、誰も失いたくはない。そう願い、何者よりも強くなることを誓った。【支配】【支配無効】を獲得。
【忿怒の魔王】
おめでとう、君は人類の敵対者だ。【忿怒の罪】を獲得。』
【能力閲覧権】もレベルアップで、三つ上の闘級まで、閲覧可能になり、さらに、物品の鑑定も可能になった。
しかし、【孤高の主】か。そう、だったな。きょうだいは、死んだ、死んでしまった。俺が、俺のせいだ。
あのとき、別れて行動するなんて、ことに、しなければ。あんな、あんなことには……。
いつの間にか、ポロポロと涙が溢れた。
獣って、泣けるんだ。
『え?ちょっ、ま、なんで泣いてんのさ!?あんた、なんなの!え、魔王になりたくなかった?え、何、ホント、待って!!え?!』
急に泣き出した俺に、スプリンダが狼狽する。それを見て、少し落ち着いた俺は、返事をした。
『いえ、違います。魔王になった切っ掛けを思い出したから。きょうだいたちの死を、嘆いて、それで、その仇への怒りで……』
『そうだったのか。なるほど、随分、悲しげな咆哮だと思えば、そういうことだったか。ふふふ、群れ思いの主だったのだろうね。でなければ、いや、これは野暮な話か。さて、これからどうする?あたしとしては、生きてもらいたいね。せっかくの同類だ。だから、ここに連れ込んだわけだしね』
そう言って、スプリンダは俺をまっすぐと見つめた。
そうだな、俺は強くなりたい。あのとき、確かに誓った。称号は、事実を誇張なんてしていないんだ。
『俺に魔術を教えてくれ』
……
街の郊外に位置する冒険者ギルド。それに併設された治療院のベッドで眠る男がいた。
クウである。偶然、通りがかった従魔師の少女によって、応急手当を施され、彼女の従魔の猪の背に揺られ、なんとか間に合い、街で本格的な治療を受けたのだった。
ギルド、期待の星だったクウの思わぬ負傷に、この事態をギルド幹部も重く考え、イジュラの森は現在、一定の実力を持った冒険者以外の入場を禁止されていた。
元々、イジュラの森が平穏であったのは、大昔に住み着いたどこぞの強欲の魔王によって、暮らしやすい森を形成されたからであるが、そのような事実は、時の流れのなかで忘れ去られ、今は童歌に、狡賢い狐の魔物のお話が登場する程度の認識であった。
そのため、危険な魔物が現れたのは、かなりの異常事態であるのだ。
「ぐっ……うぅ……」
寝苦しげに唸るクウ。その唸りが頂点に達したかに思われた時。
「あ、ァァァァァアアア!!!?!」
と叫び声を上げ、飛び起きた。
「ん……はぁはぁはぁ……ここは?」
辺りを確かめるクウの元に、先ほどの叫び声を聞いた治療師が慌ててやってきた。
「おう!クウさん、お目覚めになられたのですね、よかったです」
「俺は、腹を貫かれたはずだが」
「はい、偶然、森の中を歩いていた従魔師の少女に助けてもらったようですよ。覚えていませんか?」
「いや、覚えていないな」
「そうですか?まぁ、意識は朦朧としていたようですからね。はい、お水です」
「あぁ」
しばらく、されるがままにアフターケアを施されるクウ。その後、冒険者ギルドの職員に状況を尋ねられ、一本角の狼について報告。ギルドは、早速とばかりに、討伐依頼を出したが、ついぞ、その狼が討伐されることはなかった。いつしか、その狼自体、森で目撃されることもなくなった。
クウは、その後、数日を経て、退院を果たした。
「アイツは、俺が殺す。必ずだ……」
暗い情熱を燃やし、一人の剣士は研鑽を積み重ね、宿敵の姿を探し、旅に出た。