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第1話

「はい、オーダー入りました」

「喫煙席待ち4組です」

「3番まだお冷いってません」

「ただいまお伺いします」

「ありがとうございました」

「日替わり終了です」

「ランチタイム終了しました」


お昼のファミレスは戦場である。短い時間に一度にお客様がいらっしゃるのでお店は大変なことになっている。お腹が空いて1秒でも早く食べたいお客様の気持ちと、1組でも多くお客様をさばきたいお店の気持ちが混ざり合ってお店全体から湯気が出ているような感じだ。冴子もその戦場に身を置いている戦士の一人だった。一応店長という肩書きはあるのだが、やっている仕事といえばアルバイトのそれと全く同じであった。


「ふう、やっと一息つけるわ」


冴子は事務所に入り、ドリンクバーのホットコーヒーのブラックを持ってきてタバコに火をつけた。


「店長、アルバイトの面接できた佐々木さんという方がお見えになっていますが、、、」

「あっそう、禁煙席の一番端に座ってもらって。アイスコーヒーを2つ置いておいてちょうだい」


そうだ、今日はアルバイトの面接の日だった。ランチタイムは忙しいから2時以降に来てもらうようにしたんだっけ。

時計の針は2時10分を指していた。もうちょっと遅く来てくれてもいいのに、、、冴子は自分らしからぬ思いをしてしまったことに一人苦笑いをしてろくに吸っていないタバコを消し、ブレスケアをシュッとひと吹きしてからフロアに出た。


「こんにちは、はじめまして」

「こっこんにちは、よっよろしくお願いします」

「そんなに緊張しなくていいですよ。さぁお掛け下さい」


まだあどけなさの残る男は23、4歳といった感じだろうか、いやまだ学生かもしれない。世間知らずのボウヤといった所かな。

冴子は一人勝手に男の第一印象を決めつけて話し始めた。


「じゃあまず履歴書を見せて下さい」

「はい、、、あっあれっ、ん?ちょっと待って下さい」


男は自分のカバンをゴソゴソし始めた。あーあ、なんか段取り悪いなぁ。メチャメチャ慌てているよ。でもなんかかわいらしいわね、フフッ。

冴子のおもいっきり上から目線など気付く様子もなく男は履歴書を探した。しばらくして男は叫んだ。


「あっありました、ありました。ここに!」

「そんなに叫ばなくても見ればわかりますよ。汗かいているわよ。はいどうぞ」


そう言って冴子はおしぼりを渡して、アイスコーヒーを勧めた。こんなに慌てているようじゃ不採用かな、、、


「落ち着きましたか?では名前と年齢をお願いします」


男はしばらくおしぼりを顔にあてて深呼吸をひとつしてから冴子をじっと見つめた。


「改めまして、佐々木一馬と申します。年齢は23歳、会社員をしております。今回は深夜のアルバイトを希望しています」

「社会人ですか、、、ウチも社会人を何人か雇ったことはありますが基本的には学生さんがメインなんですよ。社会人の方だとなかなか続かないんですよね。佐々木さんは大丈夫ですか」

「それは社会人、学生というよりもその人個人の問題じゃないんですか。私は目的があって働きたいので軸がブレることはありません。ちなみに発言もブレません」

「そっそうですか、あなたがそこまで言うのなら、、、わかりました。まだ何人か面接がありますので、明日の夕方6時までに採用、不採用を連絡させていただきます。本日はありがとうございました」


一馬が帰った後冴子は事務所でさっきの面接を思い返していた。おしぼりを当てた後のあの変身ぶりは何だったのだろう。仕事が出来るのか出来ないのかよくわからない感じだわ。でもあの変身した後の感じは悪くないわね。久しぶりに使い物になるかしら。あれこれ考えながらタバコに火をつけ、ぬるくなってしまったコーヒーを一気に飲み干した。


次の日になってもお店の忙しさは変わらず戦場となっていた。冴子が一息をついたのは夕方4時になってからだった。そうだ、アルバイトの面接の結果を連絡しないとだわ。冴子は昨日までの履歴書を眺め、一馬ともう一人、そしてキッチンを何名か採用することに決めた。


週末のファミレスは特別な場になる。普段来店しない家族連れが中心になるので1組1組の滞在時間が長くなる。その結果入店をお待ちになるお客様が多くなり何かとトラブルが発生しやすいのだ。冴子は新人バイト君たちのデビュー戦を土日に設定した。土日の方が新人君たちがどの位動けるかを試すには一番よくわかるからだ。その分リスクは大きいのだが、、、

二人が出勤するのは土日共午前10時半から午後3時半までだった。一番忙しいランチタイム2回戦だ。冴子は出勤してきた二人に渇を入れ始めた。


「えーと、佐々木一馬さんと後藤純也さんですね。今日と明日は1週間の中でも一番忙しい時間帯です。その中でウチの仕事の流れを覚えてもらいます。わからないことは無理してやらなくてもいいです。こちらから指示をだしますので出来るだけテキパキと動いてみて下さい。厳しいかもしれませんがよろしくお願いします」


「店長の悪い癖が始まったよ。いきなりランチタイムじゃ辛くてすぐに辞めちゃうよ。もっと時間をかけて丁寧に教えてあげればいいのに、、、」


周りのバイトの人たちはいつもの店長の対応に半ば慣れっこになっていた。バイト同士で新人君たちが何日で辞めるか賭けが行われていた。1日で辞めると賭ける人しかいなかったので今回の賭けは成立しなかったようだ。

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