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この直後に異世界召喚したところ感謝されつつ死ぬほど恨まれた話

作者: は

タイトルでオチを語るスタイル。




 余生はエロマンガ島で過ごしたい。

 白檀の木を植えて牛を育てて暮らしたい。

 おっぱい。

 おほー、ホルスタイン祭りじゃあ。


 などと叫びながらデスマーチを幾度か乗り切ったところ、会社勤めが面倒になった。

 そもそも在宅仕事で幾つかの会社から仕事を頂戴していたのだが、オカルト色満載のプロジェクトをうっかり受注した御得意様に泣きつかれて始めた通勤生活である。

 義理は果たした。

 ドレスコードのある職場は面倒だ。

 セーフティーシャッターとか超訳わかんねえ。


 等々。

 いわゆる一身上の都合という奴である。

 僕は悪くない。

 フリーランスに戻るだけである。リマスター版なんぞ知るか。宇宙空間に漂う血まみれヘルメットはどこに消えた。元々約束していたプロジェクトも完了した訳だし、正社員雇用は福田常務の猛烈な反対によって流れてしまった。後は残ったメンバーで対処できるはずである。フリーに復帰するのを知ってか以前からの御得意様より問い合わせの連絡が届いており、僕としても円満に退職できたと思っている。

 思っていたんだ。




▽▽▽




 引っ越しを終え晴れて自由業(フリー)に戻ったはずの月曜の朝。

 会社からの電話を受けて通信環境を整えながら、僕はモニターの向こう側で土下座する女性からのメッセージを再び口にした。


「仕様、変更。です、か」

『ごめんなさい伊藤先輩っ! また、です!』


 モニター上の彼女は土下座したままだが、PCに併設したプリンターからは無慈悲なまでの勢いで新しい仕様書が吐き出されている。


「それで納期は」

『……二日前(・・・)です』


 モニターの向こう側でざわざわと野次馬達のどよめく声が聞こえた。


「え」

『ですから、二日前です。営業の両澤が「伝説の伊藤センパイならこの程度の仕様変更ラクショーっすよ」ってクライアントに安請け合いしまして』

「その営業の両澤というのは」

『……先輩への仕様変更を連絡しないまま、その、遅めの夏休みということで土曜から、海外に』


 やべえよ、やべえよ。

 周囲の声を拾ったのか、元同僚達の声が聞こえてくる。福田常務がコネ入社した甥っ子が相当の問題児であるという話は耳にしていたのだが、自分に関わることになるとは正直考えたくもなかった。


『私達も仕様変更の報告が無く、今朝になって先方から話が伝わり。その』

「……この仕事片付けたら」

『先輩?』

「この仕事片付けた等、東京まで行ってその駄乳を揉む」

『へ』


 古い民家を改装し通信環境だけは整えた畳張りの仕事場。窓の外では羽化したばかりの蝉がやかましく自己主張を始めている。


『待って下さい。先輩のご実家から東京までって、片道4時間以上』

「だからどうした! 仕事をする、乳も揉む。宣言した以上は実行する! その胸の谷間を洗って待ってろ」

『い、伊藤せんぱああいっ!?』


 僕の宣言にモニターの女が絶叫し、モニターにこそ映らないものの元同僚達が頑張れ伊藤、頑張れ頑張れと連呼する。

 がんばれ、がんばれ。

 がんばれ、がんばれ。


「それじゃ時間も惜しいから僕はこれで」

『どちくしょおお!』


 周りの蝉が一瞬静まるほどの絶叫を残して通信は途切れ、僕は印刷が終わった新しい仕様書を見た。細部変更どころか全く別物にしか見えないそれは、営業が先方にいいように振り回された結果でもある。


 なんだよV.A.B-NICシステムって。


 さて、通勤に時間をかけずに済むのが在宅仕事のメリットの一つだ。

 長丁場になることが分かっている以上、食料その他の確保は仕事の効率化でも重要だ。女子高生よりもオオクワガタとの遭遇率が高い田舎では、24時間営業のコンビニに気軽に行くことも難しい。

 幸い同居している祖父母は先日より町内の皆様と温泉旅行に出かけており、数日くらい多少無茶な仕事をしても心配をかける必要がない。無いはずだった。


「……あの、(みこと)おにいちゃん」

「サイテー」


 振り返ると、顔を真っ赤にした二人の女の子が立っていた。一人は小さめの重箱を、もう一人は野菜と果物を詰め込んだビニール袋を手にしている。

 どちらも僕が住む愛宕ニュータウンではオオクワより希少な現役女子高生だ。


「お母さんが、お弁当を作ったから持って行きなさいって」


 やや長めのボブカットの少女、大河原瑞輝がこっちをチラチラ見ながら重箱を掲げる。彼女の家も祖父が温泉旅行に出かけており、僕の家の事情は把握済みらしい。


「それより、下に何かはきなさいよ!」


 野菜の入ったビニール袋を振り回して恥ずかしそうに喚くのは、髪をサイドポニーにまとめた少女。出淵薫だ。こちらは両親が温泉旅行に参加したクチで、その間は瑞輝の家でお世話になっている──筈だ。旅行前に僕の祖父母が「チャンスだぞ尊」と意味ありげに笑いながら話していた内容が正しければ。


「ジョシコーセーの前で下半身丸出しとか、何考えてるのよ!」

「いやいやブッちゃん、僕いちおうトランクスはいてるじゃん」

「上半身とのギャップがキモすぎるのよ!」


 PCを用いて顧客(クライアント)との通信時、カメラに写る部分つまり上半身だけ正装するがついていたため、上はワイシャツにネクタイで、下は超適当に済ませることが多い。今日は朝風呂の後の緊急の連絡でもあったので、柄物のトランクス一丁ですね毛も見せ放題である。フリーランス時代の得意技ではあったが、案外きちんとできるものだ。


「セクシーだろう?」

「ノーコメント、です」

「通報したい」


 通報だけは止めてほしい。

 仕方ないのでハンガーにひっかけていたスーツの下半分を着用し、僕は食糧の確保に成功した。




▽▽▽




「無茶な仕様変更で、休みの予定がパァ……ですか」

「在宅仕事やってるんだから、仕事あるだけマシよね」


 卓袱台を囲んで弁当を食べる僕の前で、瑞輝と薫がおおよその事情を聞いて表情を曇らせていた。

 通信環境と仕事機材の確認を兼ねた軽い仕事を新しい顧客に提出し、それから二日ほど休む予定だったと温泉旅行に行った祖父母には伝えていた。それがどうして御近所に知れ渡ったのかについては、田舎だからとしか言えない。


「ははは大丈夫」


 僕には認めたくないものが二つある。入浴シーンの不自然な湯気と女子高生の涙だ。


「女子高生の手作り弁当を食べた僕に不可能はない」

「ち、違いますよ! 半分くらいお母さんが作ってて、私と薫ちゃんは卵焼きとオニギリくらいしか!」

「……ノーコメント!」


 先ほど以上に顔を赤くする瑞輝と薫。ああ、こんな姿は都会暮らしの頃は決して拝むことなど出来なかった。


「こんなクソ仕事なんて夕方までには片付くから、安心して遊びに行く場所を決めといて」

「え、あ、その。はい」


 わたわたと瑞輝は立ち上がり、空になった重箱を洗うべく台所に向かう。残っていた薫はサイドポニーに縛った髪を指に絡めながら何事かをぶつぶつ呟き、それから再起動したマシンのように跳ね起きて僕を見る。


「ね、ねえ。尊くん──いまの仕事終わったら、あのモニターに出てた女の人の胸……触るの?」

「絵に描いた餅は食えない」


 後輩の胸は非常に慎ましく、寄せても谷間が生じないというレアスキルの持ち主である。

 物理的に不可能なのだ。

 そして無理矢理それを揉もうというのであれば、それはもはやセクハラを通り越して立派な傷害罪である。

 僕の説明を聞いていた薫は少し不機嫌そうではあったが、納得したのか横に置いていたトートバッグを指さした。


「あたしと瑞輝、新しい水着買ったから。だから」

「おっぱい」

「……尊?」


 ああ。

 なんて貴い。

 なんて残酷な。

 一刻も早く仕事を片付けよう。夕方? とろすぎて眠気がでるわ。限界の先にある領域を誰にも彼にも見せつけてやらねばなるまい。

 僕はゆらりと立ち上がり、仕事道具であるPCに向き合った。

 変更した仕様書の内容は脳内に叩き込んである。

 有用な資料の内容もすべて覚えている。

 栄養の補給は万全。

 気力は充実。

 ならば。

 ならば!

 ならば!!


「おおおおおおっっぱああああああああい!」


 隣で飼ってる鶏が暴れ出すほどの叫び声をあげて、僕はキーボードを猛烈な勢いで叩き始めた。一字のミスタイプも許されないような精度と速度を維持しつつ、下書きなし一発清書の境地で、膨大な量のデータをまとめていく。


「おっぱい! 乳! この世で一番スゴい奴!」


 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。


「がんばれ、がんばれ、がんばれ僕の人生! 疲れても、おっぱいおっぱい叫んでいけ! おっぱいおっぱいおっぱいおっぱい!」


 様々な意味でのリミッターを解除した僕は、後ろで見ている女子高生二人の視線すらご褒美と感じながら、恐ろしいほどの勢いで仕事を片付けていった。

 思考速度に指の動きがついて行かない。マウスの反応速度すらもどかしい、そういうもどかしさを解消するためにも僕はおっぱいを連呼する。



『できた……んですか』

「できた。送った」

『まだ午前十一時なんですけどお!』

「知るか。その大胸筋マッサージチェアはどうでもいいから、代わりに営業の両澤をどうにかしてくれ」


 大胸筋という言葉にモニターの向こうの女性は顔をひきつらせるが、知ったことではない。

 周囲から残念そうなどよめきが聞こえたが、どうでもいい話だ。

 通信を終了し、心地よい疲労と空腹を実感しながら僕は今からなら昼食を済ませてプールに行けば丁度良い具合だと考え。

 思考が止まりかけた。


「あ、あの。お仕事おつかれさまです」

「……おつかれさま」


 そこには夏の果物があった。

 後輩がパッドを六十四枚重ねにしたところで到達できない境地の、質量のある残像。二次元ならば許されるけど三次元だと圧倒される凸と凹。市販の品ではもはや先端突起を隠す程度の布面積にしからならないのではと一瞬だけ心配したが、我が国のアパレル業界は僕の浅慮などとっくの昔にお見通しなのだろう。学校の水泳の授業で着用すれば大惨事必至だが、近場のプールならば小さなお子様達の第二次性徴覚醒を促す程度で済みそうだ。多分。

 いやあ、肉の暴力?

 それらを身につけた瑞輝と薫が恥ずかしそうにこちらを見ている。申し訳程度にバスタオルで前を隠そうとしているけれど、隠すべき場所を隠していないのでは逆効果です先生。


「あ、あのね。尊おにいちゃん、仕事中ずっとおっぱい触りたいって叫んでて」

「……触るだけなら」


 もじもじとしている瑞輝の後ろに隠れるように抱きついていた薫が、とんでもない爆弾を投下する。


「さわ?」

「タッチするだけです」


 薫に抱きつかれてバスタオルを落とした瑞輝が、バランスを崩しかけながらも懸命に主張する。

 でもそれって根本的な解決になってませんよね猿渡さん。


「さわ、わ?」

「瑞輝の胸の谷間、きちんと洗ってきたから。私も、うん」


 だから、いいよ?

 そう言われて我慢できるほど僕は人間が出来ていない。僕が愛宕ニュータウンに越してきたとき彼女たちがランドセルを背負っていたこととか、一緒にオオクワ穫りまくって小遣い稼ぎしたこととか、数々の思い出が走馬燈のように脳裏に駆け巡ったとしても。それでも、目の前の水菓子を前に飢えた人間がどこまで理性を失わずにいられるのか。

 失ってなるものか、僕は誇り高き人間なのだ。

 が。


「ちなみに瑞輝、驚異のJカップ」「か、薫ちゃんっ!?」


 ぐっばい理性、サヨナラ日常。

 きっとこれは仕事のしすぎで見た白昼夢だと呟きながら、僕は鼻血を吹き出しながら意識を手放すことにした。









【登場人物紹介】

・伊藤尊(ED)

 主人公。27歳。中学生の頃に量子通信技術の基礎理論を学び、飛び級という形で大学に。後にVRMMOの根幹技術ともなるV.A.B-NICシステムを開発した。本人としては在宅Webデザイナー程度のつもりでいた。本来であれば国や軍事関係の企業が放っておかないレベルの人材だが、学生時代の指導教官や同期たちが「ちっぱい系熟女サイコー」宗派だったため主人公と対立。業績を奪われる形で大学を追われた。以後は本人曰くテキトーに在宅仕事をこなしていたが、VR技術を実践レベルで構築できる貴重な人材として民間では重宝されていた。

 巨乳女子高生二名に迫られた直後に異世界召喚される。


・大河原瑞樹(週に8回)

 ヒロインその1、18歳。一応、女子高生。主人公の実家の近所に住んでおり、小さい頃から懐いていた。主人公が凄い人なのに報われないので可哀そう→私が養ってあげなきゃ!という超理論で幼い頃から花嫁修業に邁進する。大願成就前に主人公が異世界召喚された。


・出淵薫(週に12回)

 ヒロインその2、18歳。たぶん女子高生。基本的に瑞樹と同じだが、少しだけツンデレ気味。普通の恋愛物なら他の男と一時付き合ったりビデオレターを送ったりアイドルデビューしそうなものだが、小さい頃に主人公の唇を奪っているため他に目を向ける意思など存在しなかった。


・後輩(週に23回)

 ヒロイン?その3、25歳。主人公の古巣の大学でVR技術を学んでいたが、主人公の業績を奪って世界的名声を得ていた教授達の所業が発覚して大学内に粛清の嵐が吹き荒れたため民間に逃げ込んだ。彼女自身は主人公を尊敬しているが、会社内の力関係で無理を押し付けることが多くセクハラ発言の被害に遭うことが多い。


・福田常務&営業の両澤君

 会社の人。一部では蛇蝎の如く嫌われているが業界全体でみればむしろ善人に部類する。海外旅行から帰ってきた両澤君は福田常務にこってり絞られて状況を把握、慌てて主人公の家に直行して土下座しようとするも既に主人公は異世界に消えていた。


・V.A.B-NICシステム

 VR技術において義体(情報体含む)操作時に感覚のフィードバック処理……本来の肉体とは異なる形状、異物などの操作は脳機能の混乱と停止という危険性を潜在的に抱えていた。そのため初期のVRシステムは全身タイツのような密着型センサースーツを着用し現実の動きをトレースする形で遠隔地もしくは電脳世界内の義体を操作する方式をとらざるを得なかった。

 主人公が開発したV.A.B-NICシステムはこの問題を解決する画期的なものであり、四肢欠損した人間の高性能義肢義足、視覚障害者のVRシステムを経由した視覚獲得、無人自動車や航空機器の操縦などに道筋をつけた。ただコンセプトを持ち込んできた営業の両澤君いわく「電脳世界で美少女になって思う存分【検閲】したいおっさん」に頼まれて安請け合いしたものだった。それが停滞していたVR技術を百年分一気に進めるものだと両澤君が気付いたのは帰国後に福田常務おじさんにタコ殴りされた後のことである。

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[一言] ぷるんぷるんゆらしてるじぇーけーふたりの主人公を取り戻す大冒険をたのしみにさしてます
[良い点] 良かった! 無能営業の皮を被ったユニオンなんとかの手下なんて居なかったんだ! [気になる点] これ、残されたJKらしき二人が大変な事になるのでは
[良い点] これは酷い 頭の中でおぱおぱとリフレインしてじぇぇいぃぃぃ?!って叫んでしまった今日この頃
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