表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

[四 博雄道三] 夢を創れええええええええ

 アラートが鳴り響いていた。パトランプが室内を照らしている。


「どうなっているのですか?」


 配信業社のスタッフが訊いてきた。動画配信サービスを行っている会社だ。俗に言うインターネットテレビである。ロールクエストの放映権を持っている。

 地上波の放送事業者からも人が来ているが、こちらは冷静だった。こういうパニックを予想していたか、ハプニング慣れしているのか。


 配信業社の質問は無視した。知りたいのは道三も同じだ。

 会場では、美杉長政のパーティが、上空へ舞い上がっているところだった。


「残電力が急激に減っています。三十%……二十八%……下げ止まりません」


 オペレーターの一人が、焦った口調で言った。

 やはり電力か。


「どこが消費している?」

「制御盤です。重力、衝撃制御盤が、電力を激しく消費しています」


 汗を拭う開発部長へ顔を向けた。


「調査をしてみないと、なんとも言えません」


 こういう時、責任者は容易には障害と認めない。実際の作業は下請け業者がやったのだろうが、受け入れテストは当然やっているだろうから、本当に障害であれば、責任は逃れられない。

 状況的には、障害だろうと思えた。一定条件下で発生する障害。条件が何か。


「残電力のモニタリングは継続。開発には解析を急がせろ」


 刹那、会場が暗くなった。


「システムの稼働系、落ちました。第一待機系に切り替わりました」

「残電力、更新待機中。……待機中。……出ました。また下がっています。消費量、増加しています」


 ワイバーンの数が減っていて、電力消費は減少してもいいはずだった。それが逆に上っている。なぜ上がるのか。


 ふと、ライブモニターを観た。美杉長政のパーティは、まだ上昇を続けている。急激に電力消費が跳ね上がったのは、この上昇を始めてからだった。


 まさか、これか?


 昨日も似た状況下で、消費電力が跳ね上がっていた。これが原因だとすると、高度が上がれば上がるほど、状況は悪くなる。

 背中を冷たいものが流れた気がした。


 重力と衝撃の制御距離が遠くなると、加速度的に電力消費量が上がる。それはありそうだった。重力制御は、元々多量の電力を必要とする。しかも、制御範囲まで限定している。対象の重さが影響している可能性も考えられた。四人という人数は、仕様上の想定外の可能性もある。


 いずれにせよ、現時点では想像にしかならない。解決策を見出す必要がある。


 このパーティの作戦会議は、道三も観ていた。開発で想定した方法ではないが、成功すれば、攻略を成す可能性が十分にある。

 可能性があるのに、システムの都合で潰してしまいかねない。そんなことを許してたまるか。


「彼が掴まっているワイバーンを制御できるか? 飛行を制御したい」


 開発部長に訊いた。


「今ここにいる人員では出来ません」


 呼んでいる時間的余裕はない。だから、他の方法で乗り切るしかない。

 頭が混乱していた。とにかく、ハード関連に疎い頭を振り絞り、出来ることをやるしかない。まだ出来ることはいくらでもあるはずだ。


「水力発電を動かせ。フィールドオブジェクトのリポップを止めろ。同期処理の間隔を延ばせ。各種制御は、三十タイル四方無人を条件に省エネ対応。いや、落としてしまえ。ライブエリアの稼働を最優先だ。侵入禁止化を忘れるなよ」

「落としてしまっては、運営に支障が」

「休電でいい。彼らが高度を落とすまでの一時的な対処とする」


 開発部長がわずかに反応した。何を考えているかは、よくわからない。

 ハードの障害か。運営の想定漏れか。それとも関連部署の連携ミスか。色々考えられたが、今はそれを究明する時間がない。


「電力会社にも一報を入れておけ。一時的なものだ、とな。それから、医療班は下で待機するよう伝えろ」

「既に待機中です」


 現場の音声が、即座に返ってきた。最悪のケースの対応は出来ている。

 思いつき次第、他にも指示を飛ばし続けた。統括者を経由し、オペレーターとエンジニアが、声を掛け合いながら対応していく。


「博雄社長、危険なのではないですか?」


 配信業社スタッフだ。動揺が顔に出ている。リアルタイムで配信しているので、生々しい事故は映したくないだろう。逆に映したいという輩もいるだろうが。


「何がでしょうか?」

「電力が落ちると、あの者らは落ちてしまうのでは?」

「そうですな。落ちるでしょうな」

「危ないではないですか」

「そのためのセーフティバンドです。とはいえ、あの高さから落ちたら、良くて大怪我でしょうな」


 実際には、エアレシーバーなどの機器を用い、下で受け止める対応をするので、よほど落ち方が悪くなければ、無傷のはずだ。受け身の講習が活きる。

 そういったことを説明してやる気はなかった。このスタッフが納得するかどうかの話でしかないからだ。どうせ一回の説明で終わらない。


「でしたら、今のうちに、中止した方が良いのでは?」

「それは最後の手段ですな。今は、やれることをやります」


 アラームとパトランプは鳴動を続けており、室内のけたたましさは続いている。このパトランプの鳴動が、切迫した雰囲気にさせている。


 また、会場が一瞬暗くなった。


「第二待機系に切り替わりました。もう、あとがありません」


 オペレーターの報告は、悲鳴になりかけていた。


 道三は、上着を脱いだ。常磐が受け取る。

 発電自転車。この自転車をこぐことで、前には進まないが、発電がされる。これが、どれほどの足しになるのか。まさか使うことになるとは。

 跨ってこぎ始めた。低い振動音が伝わってきた。

 自転車に乗るなど、いつぶりだろうか。


「君らも、突っ立ってるだけなら乗りなさい。たまには運動もよかろう」


 雁首を揃えていた部長達に言った。丁度人数分の自転車がある。

 片足ずつ体重をかけ、自転車を加速させていく。五人で脚を動かした。


「残電力、二十%。ダウンまで残り十%です」


 施設の最低限の稼働を維持するため、残り十%で中枢以外のシステムは自動でダウンしてしまう。それはロールクエストの続行不可を意味する。だから、もう余裕はない。


「八%……七%……減少速度は遅くなりましたが、まだ止まりません」


 発電自転車がトップスピードに達した。もう脚が限界だ。他の部長も激しい息切れをしていた。


「博雄社長、もう危険です。やめて下さい。現実的な対応をなさるべきです」


 道三には、喋る余裕はなくなっていた。必死にこぐ。それだけだ。いや、新たな対策がいくつか思い浮かんだ。


「全照明の輝度を三十%落として下さい。空調は停止。映像AIも一時休止。すぐにお願いします」


 常磐だった。

 常磐の指示に従っていいのかと、統括者だけでなく、オペレーターとエンジニアもこちらを振り返った。頷きを返すのが精一杯だった。


「四%……三%……」

「博雄さんっ」


 ええい、うるさい。もう止める気はないのだ。

 対して、テレビ局スタッフの方は、全く動じずに冷静だった。落ち着いて状況を見ている。そちらには視線を向けなかった。

 喋る余裕はないが、代表として、決意表明をする必要がある。


「私達はな。私達ゲームクリエイターはな。現実を創っているんじゃない。夢を創っているんだ!」


 だから、夢を壊すことはできない。

 力を振り絞る。限界以上の力を。今。


「しゃちょおおおおお、私はどこまでもついていきますぞおおおお」


 開発部長に続き、気合を発する他の部長の声も聞こえた。


「システムダウンまで、一%です」

「うおおおおおおおおおおお」

「夢を創れええええええええ」


 どうなった。ゼロが来てしまうのか。来てしまったのか。

 足を必死に動かしていた。息は絶え絶えで、それでも身体は酸素を求める。手足に力が入らなくなるのも、もう間もなくだろう。


 倒れそうだ。これ以上こげない。


「下げ止まっています。下げ止まりました」

「二%、三%……回復に向かい始めています」


 多くの安堵の声が聞こえた。

 美杉長政パーティが落下を始めている。大盾を団扇代わりに、落下ポイントを調整してもいる。


 耐えた。持ちこたえた。これで山は越えたはずだ。

 道三は、激しい呼吸をしながら、まだ発電を続けていた。山を越えたとはいえ、予断を許さない状況は続いている。


 美杉長政パーティが自由落下を始めた。事前の作戦にない行動だが、状況に対応するための“あえて”と見受けられた。


 他に、今出来ることは何か。

 そうだ。


「映像AIシステムを復帰。そして、全ビーカメを集結させて下さい。彼らを対象に、映像プログラムを集中モードに。演出強化を図ります」


 そう、それだ、常磐君。

 ビーカメ操縦者が、きたこれとばかりに、元気よく返事をした。

 複数の視点からライブすることで、彼らのあらゆる行動、表情がライブされる。さらに映像カットインなどの演出でも、視聴者を魅せる。状況は最大限利用するべきだ。


 あと。


「バックグラウンドの音楽を切り替えて下さい。曲名は、ネバギブの死闘」


 よろしい。

 ただの秘書なのに、いつの間に様々な知識を得たのか。恐ろしい。

 そう思うと、常磐が振り向き、僅かに首を傾け微笑んだ。これでよろしいですか、とでも言いたげだった。

 その常磐が、道三の上着を整え、腕にかけ直した。


 舞台は整えた。

 あとは、頼んだぞ。クリアしてくれよ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ