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[三 美杉長政] フォーメーション、四人羽織

「ちょっと、ちょっと待ってください。考えたんですけど、寝込みを襲いにいけばいいと思うんですよ」


 城門を出たところで、公平が言った。


「なんだその悪魔のような作戦は」


 頭を攻撃する作戦。それを公平に伝えたら、呆れた表情をされた。次には止められ、代案を提示された。


「ドラゴンだって、生物です。厳密にはきっと機械仕掛けなんでしょうけど。そういう細かい生態にも、ある程度こだわる開発者のような気配があります」

「あのな。ゲームなんだよ。開発者の存在を持ち出すなよ」

「そうだそうだー」

「遊々さん……」


 遊々はやる気だった。だが、その心は読めている。スキルを使いたいのだ。


「それにな、俺たちは迎撃部隊なんだよ。迎撃の中で活路を見出さなくてどうする。いや、もう、見出だせてるんだよ」


 公平が頭を抱えた。


「あそこまで、どれほどの高さがあると思ってるんですか。三十メーターくらいありますよ。それをスキルに頼って、動くドラゴンを登っていくと? 正気とは思えませんよ。身を守ってくれるのは、セーフティバンドと得体の知れないスキルのみですよ?」

「スキルだから大丈夫だろ」


 軽い口調で長政が言うと、公平がさらに呆れた顔をした。


「ちょっと待って下さい。システム開発に携わっている身として言わせてもらいますけどね。スキルっていうのは、開発者が作っているんですよ。つまり。つまりですよ。不具合があってもおかしくないんですよ。下手したら大怪我じゃ済まないですよ」


 公平がまくしたてると、羽瑠が息を飲む気配を感じた。生きるかどうかは、羽瑠次第といったところがある。


「本当によくブレーキかけるなあ。遅刻の罰を受けてもらおう思っていたが、そんなに嫌なら来なくていいぞ。羽瑠は強制だが」


 羽瑠が涙目を見せると、公平は大きな溜息をついた。何か、諦めたようにも見えた。


「罰というなら、それは甘んじて受けましょう。挑むなら挑むで、それも仕方ありません。ですが、もう少し作戦を煮詰めましょう。目ん玉攻撃するってだけでは、無策に過ぎます。危険なだけです」

「よし。じゃあ、そうしよう」

「撫でるのだけは譲らないよ」

「誰もとらねーよ」


 最年長の社会人というだけあって、難癖をつけるのはうまい。だが、言われてみると、確かにその通りではある。改善出来るのであれば、それはそれでいい。


 細かい話を詰め、やっと再出発するまでに、十分程かかった。

 作戦の大筋は変わらない。今度こそ。


 戦場に向かうと、敗戦一色なのが遠目にも分かった。昨日よりも酷いことになっていて、戦っているのは、もはや城の兵士達だけだった。


 離れた場所から、座って戦場を眺める一団があった。

 堂安翔也。

 目が合うと、手を上げて挨拶をされた。


「何をやっている?」

「諦めて戻ってきたところさ。あれは無理だ。みんな引き上げてるよ」


 ほほう。


「随分とドラゴンが暴れているようだな」

「ああ。触れてはいけないものに、触れてしまったようだ」


 ドラゴンは、遠目にもはっきりわかる程に、激しく暴れていた。その影響か、ワイバーンの数はかなり減っていて、数匹が飛んでいるだけだった。


「じゃあ、俺らは行くから」

「この状況でかい? きっと、ドラゴンを倒す救済イベントがあると思うよ」

「その前に倒す」


 堂安翔也が、軽く頭を振った。


「まあ、健闘を祈るよ」


 戦場に向かった。近づくにつれ、緊張が高まってくる。

 冒険者達が討伐を諦めている今、舞台が整っているとしか、長政には思えなかった。完全に独擅場だ。

 もちろん、ドラゴンを軽視してはいない。その脅威の程は、身にしみている。


 やれるはずだ。やってやる。


 自分の両手を見る。震えていた。緊張しているが、恐れてはいない。だから、武者震いのはずだ。自分に言い聞かせた。


「いいですか。まず、炎を吐かせましょう。昨日計測した通りですと、五分間隔で吐かれています。放射をやり過ごしてからの五分が勝負です」

「おーけー」


 ドラゴンに認識をされた、と思った。目が合ったような気がしたのだ。

 途中で大盾を拾った。三枚。公平に一枚持たせた。


「よし、ここでワイバーンと戦うぞ」


 ドラゴンの尻尾攻撃が届かないギリギリの距離だった。離れた横側では、城の兵士が奮戦している。


 ライブカメラ飛来の通知があった。

 ついでではなく、初めて自分のパーティが注目されている。それ以上は、気にしなかった。いつも通りでいい。


 ワイバーンの相手をした。すでに数は少ない。ドラゴンに気を払いながら、慎重に戦った。火炎放射を待っている。

 そして、ドラゴンが強烈に咆哮した。怒りの咆哮。空気が震えていた。

 気力を振り絞り、ドラゴンに吠え返す。他のメンバーは、耳を塞いでいた。


「よっしゃ、負けてねえっ」

「何にですか。声の大きさで、とか言わないでしょうね」


 正解。


 石を打ち鳴らすような音。ドラゴンからだ。ドラゴンの注意がこっちに向いていると感じた。

 ワイバーンが射線上から逃げ出した。倒せそうだったワイバーンも蹴り飛ばして逃した。全てのワイバーンに死なれると困る。


「来るぞ。フォーメーション、密着縦列だ」


 長政のうしろに、羽瑠、遊々、公平と密着して並ぶ。

 大盾を地に突き刺し立てる。二枚横に並べた。最後の一枚を、公平が上に被せる。これで耐える。耐えてみせる。


 二回目、三回目の石打の音。ドラゴンが火を吹き始める。その炎がこちらに向けられ、勢いを増す。強い衝撃がきた。

 大盾を構える手に、ありったけの力を込めた。

 耐える。守る。負けない。


 火炎放射の衝撃は途切れることなく、大盾を通じてその手に感じ続けていた。凄まじい圧力だった。押される。しかし、長政の背には、三人の支えがある。


 やらいでか。


 視界が赤くなってきた。身体が重い。大盾を三枚にしても、これほどか。それほどの怒りなのか。

 膝が地についたその時、視界が暗くなった。すぐに明るくなった。これは、突発ライトアップか。


「ごめんなさいごめんなさい」

「いいや、いいタイミングだ」


 火炎放射が止むと、長政は地に伏した。だが、終わらない。


「まだまだあッ」


 立ち上がり叫んだ。そして一歩。

 羽瑠と共にスポットライトで照らされる中、地を踏み鳴らし、拳をドラゴンに突き向けた。

 ライトが熱い見せ場を演出している。このためのスキルだったのではないか。そうとも思えた。


「待ってろよ」


 今、倒しに行ってやる。


「てーてってーーててってってってーおういえぃ。実績九『視聴者の力』を獲得しましたよ」


 モンが出現し、知らせてくれた。

 視聴者数を見てみた。長政だけで二万人を超えている。


「っしゃー、コメントもオープンにしたらァ。モンっ」

「かしこまりました」


 すぐにコメントが映り始めた。音声も聞こえる。操作が終わると、モンは消えていった。


『お?』

『俺ら解き放たれた?』

『キターーーーーーーー』

『生きてるぞ!!!!』


 コメントにかまっている暇はない。


「饅頭ターーーイム」


 衣服のポケットから饅頭を取り出し、四人で掲げた。かぶりつく。甘い餡が口内に広がり、視界の色と重力負荷が回復していく。


「う、また卵……。あんこが見当たらない……」


 美味いだろ。

 荷袋から縄を取り出した。公平の胴とで結びつながる。命綱となる予定だ。


「よし。フォーメーション、四人羽織」


 まず羽瑠を背負う。左側から遊々に抱きつかせた。右側には公平。公平には大盾も一枚持たせた。その状態で、長政は剣だけ片手に持った。

 完成。


『かっけーーー……くない』

『肉武装やん』

『合体したwwwww』

『密着羨ましす』


 なんとでも言え。こっちゃそれどころじゃない。重すぎる。


「ぐおおおお、重すぎるわあああ。はよ、はよ」

「あー、あー」


 声の調子を整えるとか、そういうのいいから。確かに大人数が聴くけれどよ。


「忘れてしまいたーいこーとがー、今の私には多すぎるー。私の記憶のなーかにはー、笑い顔は遠い昔ー」


 聴いたことがある曲だなー。

 ぼんやりとした光に覆われる。身体が急に軽くなった。これなら、動ける。


『なに? 何が始まるの?』

『初見は黙って観てろ』

『舞い上がりなぁ』


 羽瑠のライトアップは消えていない。長政達は、ライトに照らされ続けていた。これなら、長政がワイバーンを呼ぶ必要はなさそうだった。

 火炎放射から退避していたワイバーンが、また襲うために戻ってきている。


「っしゃー、行くぜー」

「ごーごー」

「なんでこんなことに」


 一匹のワイバーンをターゲットに定めた。

 ドラゴンの挙動に注意しつつ、跳ぶように走った。

 突撃してきたワイバーンを、ジャンプで避けた。そのワイバーンを足場にして、さらに跳躍する。ターゲットのワイバーンの足を掴む。

 手に持った片手剣で、ワイバーンの胴を突付いた。ワイバーンは、突付かれる痛みから逃げるように舞い上がっていく。


 公平が、情けない声で悲鳴をあげていた。相当な恐怖があるのは理解できる。揺らされると、不安が特に募る。

 急上昇し、ドラゴンの顔が横に見える高さになった。あとはドラゴンに乗ればいい。


『高いぞ』

『うおおおおおおお』

『怖くて観てられねえ』

『下見るなよ。絶対下見るなよ。絶対だぞ』


 下を見た。地面までは相当に距離がある。落ちたらタダじゃ済まない。しかし、怖がっている視聴者がいると、自分の恐怖を紛らわせることが出来た。


 ドラゴンが翼を羽ばたかせ始めた。一回、二回。ワイバーンが突風を避けようと、さらに空高く舞い上がった。

 どこまで高度を上げるのか。

 長政は、ワイバーンから手を離すかどうかを迷っていた。これ以上高く飛んでも意味がない。しかし、ドラゴンの頭上を落下地点とするには、いくらか位置がズレている。

 時間との戦いでもある。どうにか落下地点に近づく必要があった。


「きゃーーーとんでとんでとんでとんでとんでとんでとんでとんでとんでーーーー落ちないで落ちないで落ちないでえええええええーーーーううーーーーうーううーうーーー」


 羽瑠の歌唱は、もう歌というより、叫びに近い。


「今、落ちたら、痛みを感じることもなく、ですよおーーー」

「おまえら、首を絞めすぎ。苦しい」

「んんんんーーん、風が気持ちいいねえ」


 上昇は止まらない。落下地点も遠い。

 どうするか。




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