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[四 美杉長政] 正規ルートじゃない

 兵士の流れについていった。やはり東の門に向かっている。


 門を抜けると草原が広がっており、所々に高木がある。半ばから折れたものや、黒焦げの草木もあり、初めてのドラゴン襲来でないことを感じさせた。


 兵士が集結して隊伍を組んでいる。その正面には、見上げるほどの大きさのドラゴンがいた。


「トカゲみたい……」


 羽瑠が呟いた。

 ドラゴンは、ゲームで見た知識しかない。どのゲームでも特徴は捉えているが、その詳細な姿はまちまちである。

 眼の前のドラゴンは、一言で表現するならば、二足歩行するトカゲだろうか。翼も持っているが、トカゲだと思うと、飛びそうには見えなかった。

 そして、その大きさは、トカゲの比ではない。圧倒的だった。


 ドラゴンの他、多数の飛行生物がいた。アナライズをすると、ワイバーンという名前だった。大蛇が手足と羽を持ったような姿だが、こっちの方が、よっぽどドラゴンぽいビジュアルだ。大きさは、オーク程度だろうか。翼が広げられていると、オークよりも大きく見える。


「美杉君。ほんとに、あれと戦うの……?」

「じゃないとクリアできないだろ」


 敵性の存在は、他にはいなさそうだ。ドラゴン一体と多数の飛来するワイバーン。それらが敵の全てだ。

 長政が思ったのは、ワイバーンに乗れないか、ということだった。ワイバーンに乗れれば、竜騎士の気分が味わえそうだ。


「僕が聞いた話によると、ドラゴンは人を食べるために、ここまで襲いにくるそうです。お腹いっぱいになると、襲うのをやめて帰るようですよ。食われてみますか?」

「だってよ、羽瑠」

「嫌だよ……」

「進んで食われてやれば、いくらかでもこの国の存続が伸びるかもだな」


 無論、長政に食われる気はない。

 弓兵が斉射を始めた。最前列には、大盾を持った兵士が弓兵を守っている。

 何匹かのワイバーンが墜落した。そのワイバーンは、地上の槍持ち兵士がとどめを刺していた。


 ドラゴンは、矢をものともしていない。その巨大な手で兵士を叩き潰すと、その死体を口に運び咀嚼していた。

 遊々が、声にもならないような吐息を漏らしていた。自分を重ねているのだろうか。


 正面は城の兵士が多く、あまりスペースがない。向かって右側に、冒険者の集団が回り込んでいる。その中央に堂安翔也のパーティがいた。

 堂安翔也のパーティは、激しい魔法攻撃を繰り出しながらワイバーンを倒し、着実にドラゴンに近付こうとしていた。


 堂安翔也が、いざ、とドラゴンを見据えたところで、異変は起こった。

 ドラゴンが咆哮をあげる。腹に響くような咆哮だった。次には、ワイバーンが冒険者たちの周囲から飛び去った。明らかに何かが始まろうとしている。


 何が始まるのか。


 石と石がぶつかるような音が聞こえてきた。一回、二回。

 三回目でドラゴンが火を吹いた。その火炎放射が冒険者達に向けられる。かなり広範囲に届きそうだ。


 冒険者達は散開していた。しかし、正面の堂安翔也パーティは逃げない。半球の半透明なドームが出現し、堂安翔也のパーティを覆った。オーク砦で見たことがある。

 先頭で二人、仲間を守るように盾を構えた。

 遠目に、ドラゴンの火炎放射が直撃したように見えた。数秒、炎に晒され続けた。

 放射が終わると、燃える高木、煙をあげる半球ドームがあった。堂安翔也達は、無事のようだ。

 しかし、他のパーティの逃げ遅れた者は、いくらか死亡したかのようだった。生き残った者も、舞い戻ってきたワイバーンに追い打ちされて死亡していた。


「んー、えげつない炎だねー」

「左からドラゴンの後方に回り込もう。いくらかワイバーンも少ない」

「今の火炎放射を見て、よく戦意を保てますね」


 公平は言ったが、特に恐れているような口調ではなかった。羽瑠のように、恐れおののいているわけではない。


 大きく回り込んだ。長い尻尾に取り付いているパーティがいる。硬い鱗に邪魔をされ、剣撃は効果をあげていないようだった。そのうちに振り落とされた。


「んー。スリングで戦える相手なのかなあ?」

「ま、やってみよう」


 進んだ。飛行中のワイバーンは、遊々とま行姉妹で攻撃する。落ちてきたところを、長政と公平でとどめを刺す。それで倒せた。


 地上戦であれば、オークより難易度は低い。盾さえあれば、噛みつきも火炎も防げてしまうのだ。防ぎながら近づいて、剣をぶっさせばいい。

 しかし、ま行姉妹の矢がなくなると、遊々のスリングだけでは落とせなくなった。近づかれて接敵するのを待つしかない。


「この際、襲ってこないワイバーンは無視しよう」


 少しずつ移動し、ドラゴンの尻尾に辿り着いた。

 剣を振り下ろす。弾かれた。鈍い音がするだけで、刃が食い込まない。遊々のスリングは言わずもがな。短剣も刃が通っていない。名刺交換は皮膚に傷をつけたが、大したダメージにはなっていないだろう。相手にもされていない。


 ドラゴンが身動ぎをするように、尻尾を少し動かした。その動きで吹き飛ばされた。土埃が舞う。

 立ち上がると、他のパーティの傍まで下がった。ワイバーンは飛来しているが、他のパーティが相手をしている。


「文字通り、歯が立ちませんね」

「んー。この戦い方は、正規ルートじゃない気がするよ」


 公平と遊々が言う。

 なんだよ正規ルートって。だが、ニュアンスは伝わった。


 羽瑠が疲れて粗い呼吸を繰り返し、その場に座り込んでいた。普段、フロートムーバーを使いすぎなのだ。だから体力がなく、長く走れない。


「どこか、柔らかい部位はないのか?」

「鱗に覆われていない場所でしょうね」

「それってどこだよ」

「こういう時は目だよ。目」

「あのなあ。目ってあの高さだぞ」


 長政は指をさした。はるか上空。二十メートル。いや、三十メートルあるか。かなり高い位置だ。マンションの階層で例えれば、七~八階建てといったところか。

「這い登るか?」

「いやいやいや、無理無理。無理ですよ。いくらなんでも高すぎますよ。それに、いくらシステムに守られてるとはいえ、不測の事態で落下事故になったら大惨事ですよ」

「え、守られてるの?」


 遊々は真面目な顔だった。マニュアルを呼んでいないのだろう。確かに、予習をするようなタイプには見えない。長政も、ロールクエストでもなければ、事前に知識を得ることなど、しなかったはずだ。


「はい。セーフティバンドを付けていれば、変な落ち方をしない限りは、重力制御と衝撃制御で、急な衝突からは守られています。車のオートブレーキとかエアバッグのようなものですね。ただし、プレイヤーの体力は減りますから、重力負荷は増えるはずです」


 会場内は、様々な制御装置が設置されているはずだった。それらの制御とアイシステムを合わせることにより、多様なスキル効果を実現したり演出している。専門知識がないので、細かい仕組みについては、長政もわからない。


「じゃあ、行けるね。あそこ」

「うん、聞いてませんよね、遊々さん」


 長政も遊々と同じ考えだった。


 しばらく、ワイバーンと戦った。段々と襲ってくる数が増えている。


「きゃーーー! いやあーーー!」


 羽瑠に襲いかかっているワイバーンを、剣で切り上げ払う。ライトアップされなくとも、放っておくと襲われる。弱そうで格好の的なのだろうか。


「離れるな、羽瑠」

「だだだ、だって」

「ちょっとは自分で考えろ。何が出来るかを、な」

「そんなことを言ったって……」

「遊々を見ろ。スキルが役立たずだから、ビー玉みたいな弾を撃ってるだけだぞ。それでもな、多少は貢献してるんだよ」

「失礼なっ」


 憤慨した遊々が、長政へ向けてスリングを撃ってきた。それは盾で防いだ。


「ふはは、まだ折れちゃいなさそうだな」

「あったりまえだよ」

「僕は開戦前から折れてますが」


 公平は、ま行姉妹に守られながら、やはり名刺を差し出している。ただ、ワイバーンは空からくるので、ま行姉妹が守れないこともしばしばある。すると公平は慌てて回避することになる。名刺を差し出すことによるスキル消耗も積み重なっているようで、身体が重そうにも見えた。


 やる気のある長政と遊々。意気消沈の公平と羽瑠。パーティの構図としては、そうなっている。

 どうすれば状況を打開できるのか。どうすればクリアできるのか。長政は考えながら戦っていた。


 ふと、羽瑠の歌声が聴こえてきた。


「ある日ー、森の中ー、ドラゴンにー、出会ったー。花咲くもーりーのーみーちー、ドラゴンにーでーあーったー。ドラゴンの、言うことにゃ、お嬢さん、お逃げなさいって言ってるよーーーきゃーーーっ」


 何か考えた結果、歌しかなかった、ということだろうか。敵の注意を引いて、さらに襲われている。


 長政との反対側から、羽瑠に襲いかかるワイバーン。まずい。

 長政は、二歩の助走で跳躍し、羽瑠の横を抜けた。長ランの裾が舞っている。勢いのままワイバーンの横っ面に盾を打ち付ける。鈍い音が響いた。続けざまに剣を突き刺し、息の根を止めた。


「なんで突然歌うんだよ」

「出来ることをやったのにっ」

「歌ってどうすんだよ。しかもあんな歌詞で。笑わす気か」


 ワイバーンは空を飛ぶので、正面だけが注意すべき方向ではない。真上からの飛来もあるし、横からも滑るように突然襲ってくることもある。

 自然と、長政を壁にするように、メンバーは動くようになっていた。周囲のパーティとも連動し、背後を預けたりもする。


 壁役は多忙を極めた。左でワイバーンの攻撃を防いでいたと思ったら、右からも襲ってくる。誰かが撃ち落とすまで、その状態が続いてしまう。時には直撃し横転してしまうこともあった。それでも即座に立ち上がった。長政の壁が機能しなくなると、パーティは崩壊しそうだった。


 羽瑠の危機は、今まで通り突然訪れた。突如周囲の明かりが抑えられ、後方から光を感じた。

 振り返ると、予想通り、スポットライトに照らされる羽瑠がいた。全てを無視してワイバーンが群がってくる。危機的な光景だった。


 長政は羽瑠を守ろうとした。しかし数が多い。

 羽瑠がワイバーンに襲われる……かと思いきや、腕を掴まれ、空に浮上していった。

 またか。




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