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[三 美杉長政] ドラゴン襲来

 林道を抜け、平坦な道を進み続けると、街が見えてきた。城も見えるので、城下町と言える。


 街の外周の一部は壊されていた。歩いている人に話を聞くと、ドラゴンに破壊されたらしい。えぐり取られるように壊され、地表のそこここが焦げてもいた。その様子から、ドラゴンの圧倒的な力が想像できる。


 長政は、特に何も考えていなかった。とにかく戦ってみる。足りないものがあれば、戦っている最中に、得るものがあるだろう。オークの時と同じに。

 最後なので、クリアのためならば、リタイアを恐れる気もなかった。


 金がそこそこ貯まっていた。遊々が幸せ顔で、貨幣袋をジャラジャラさせていた。とはいえ、ゴールド換算すれば、一万ゴールドも貯まっていない。十万ゴールドを所持する実績があったが、獲得を目指すのは現実的ではなかった。今後に備えて、装備に投資するほうが良い。持ち歩き続けても荷物なだけである。


 遊々以外で情報収集に精を出している間、遊々に装備の買い物を頼んだ。

 公平は高級そうなスーツ。遊々がピエロをイメージした衣装。羽瑠はステージ衣装のような姿だった。

 長政も着替えて、遮蔽カーテンから出た。


「で、なんで俺は、こんなんなんだよ」


 長政は長ランとボンタンのセットだった。昭和のツッパリ用の変形学ランだ。何かの映像で観たことがある。


「長政ちゃん、髪型も変えよう。リーゼントリーゼント」

「やらねーよ。俺をなんだと思ってるんだ。騎士だぞ」


 ドラムロールのあとに遮蔽カーテンが上がり、この格好で登場する者の気持ちがわかるか。つか、なんで防御力があがるんだよ。気合補正ってなんだよ。装備の詳細を見ながら思った。


 と文句を言いたい気持ちがあったが、意外と悪くない気がしてきた。問題は、剣と盾を持つとアンマッチ、ということくらいだった。


「で、武器は?」

「ごめんなちゃい」


 遊々が身体を縮こまらせ、上目遣いで見てきた。視聴者数が二桁単位で増えていく。

 なんだ。この遊々を観たいのか。じゃあ、公平を観よう。どこだ。


「なぜ謝る?」


 公平を探しながら、理由を問うた。


「お金、使い切っちゃった」

「ああん?」


 なんでこいつにお金を預けたんだろう。

 戦利品を積極的に収集するのが遊々だ。それでいつの間にか、財布役みたいな意識になっていた。


「お菓子も買いたかったんだけどねーんんんんん~~~」

「好きなだけ食えよ、おら」


 遊々の頭を押さえ、口に饅頭を押し込むと、情報収集を再開した。

 大きな城下町だ。石造りの家屋が多い。道行く人々の衣服は、どこか西洋の大昔を思い起こさせる。古典的なゲームの世界のようだ、と長政は思った。


 大通りがいくつか交差していて、その一角のスポンサー区画にいた。始まりの広場同様に、スポンサーが様々な物を売っている。そこだけは、ゲーム内でありながら、別世界に見えた。

 近くにはE&Eもあったので、これで行き帰りは楽になった。


 他の冒険者も見かける。途中の道が違くても、ドラゴンを倒す目的がある以上、この城下町に辿り着くということだ。

 城下町の名前を通行人に訊くと、ネバギブの街と聞いた。城はネバギブ城で、ここはネバギブ王国らしい。なんだろう。ネバーギブアップと言いたいのだろうか。諦めるな。しかし、NPCはドラゴンの脅威に諦め気味だった。


 仲間と合流すると、城に向かった。

 城門で門兵に誰何(すいか)され、冒険者だと素直に答えると、案内を申し出された。素直に受けた。


 城門から城内に入るまでの間、大広場で訓練をする兵士が見れた。一心に槍を突き出している。腹に響くほどの掛け声が心地よかった。その掛け声に、遊々も声を掛け合わせている。


 リーダー格と思われる兵士を見た。全身に鎧を纏っていて、これで馬にでも乗っていれば、理想の騎士といった身なりだった。鎧は相当に重いだろうが、馬に乗ってしまえば、動けないわけでもないはずだ。


 城内に入ると、騒々しさを感じるようになった。おそらく文官だろうか。紙束を手に走り回っている。民が列をなしている部屋もあった。陳情を受けているようだ。

 遊々が物珍しさに、はしゃぐような声をあげている。羽瑠は挙動不審気味で、公平は落ち着いた観光客のようだった。


 騒がしさが気になったのは、謁見の間に近づくまでの間だけだった。扉の前で少し待たされると、中に入れられた。

 ビクついて入ってこなかった羽瑠は、手をひっぱり入れた。


「ずいぶんと簡単に、王様に謁見できちゃいそうですね。不用心なことで」


 公平が空気を読まずに、そんな言葉を漏らす。無視した。

 王様に会えるというのに、どこか緊張感に欠ける。


 荘厳な雰囲気の室内。石窓から差し込む陽射しが眩しく、神聖な場のようにも感じられた。

 玉座に座る国王らしき人物と側近がいる。さらには右にも左にも騎士が控えており、勝手は許さないと言わんばかりに、睨みを効かせていた。


 適当なところで歩みを止めると、長政は片膝を床について畏まった。後ろで他の面々も長政に習っている気配がある。


「おお。勇者達よ、よくぞ参った。我が国は今、ドラゴンの脅威に晒されておる。貴君らのような強者達の助力を歓迎しよう。ドラゴンを討伐した暁には、褒美は思いのままぞ。我が国の助けとなってくれ」


 側近曰く、ドラゴン迎撃戦に参加してくれ、とのことだった。迎撃傭兵部隊としての参加で、つまりは自由に動いて良い、というお達しだった。


 ロールクエストを初めて三日。ついにドラゴンとの対決だった。倒せばゲームクリアとなる。だが、ゲームをクリアしてしまうのが、いくらか寂しいような気もした。

 活躍の場がなくなってしまう。剣を振る場がなくなってしまう。味方を守る場がなくなってしまう。

 そんな寂しさは感じても、クリアを目指さない、という選択肢はなかった。ゲームをやり続けたいのではない。ゲームをクリアしたいのだ。


 城下町に戻ると、落ち合う場所を決め、聞き込みのために手分けをした。

 モンと一緒に歩いた。普段は消えているが、モンスターがいなければ、呼べば出てくる。

 他にま行姉妹もうしろを付いてきている。今回のように手分けしたとしても、パーティリーダーから離れない。


 NPCを見かけると、適当に話しかけてみた。

 人工知能の出来は見事と言う他ない。こちらが話した内容に合わせて反応してくる。だからこそ、NPCではなく、人として見ることも出来た。


 モンは、その辺りでちょっと物足りない。普段はお知らせマシンと化しており、人間らしい会話をしようとしても、どこか機械的で抑揚に富んでいない。


「ドラゴンだってよ。楽しみだなあ」

「陰ながら応援していますよ、ノイアー」

「おう、見とけよ。花咲かせてやらあ」

「はい、見ています」


 仲間には、ドラゴン関連を中心に情報収集するよう、手分けする前に話し合っていた。弱点が分かるとなお良い。


 長政が聞いた限り、ドラゴンを恐れる人が多い。弱点もよくわからない。

 ドラゴンが嫌がる部位として、逆鱗とやらがあるらしい。だが、怒らせるから触ってはいけない、という話を聞けたくらいだ。どうやら顎の下あたりに、それはあるらしいが、結局の所は弱点ではない。


「てーてってーーーててってってってーおういえぃ。実績ニ『百人会話』を獲得しましたよ」


 十数人会話したあたりで、モンが実績獲得を知らせてくれた。

 これでいくつ目の実績獲得か。五つだ。十あるうちの半分でしかない。他がどうなっているか知る由もないが、優勝が狙えるとは思えなかった。長政達だけでドラゴンを倒せば、わずかに可能性が出てくるか。


 不意に、身体が揺れたような気がした。地震。違う。なんだこれは。

 また揺れた。少しだけ揺れが大きくなったか。いや、近づいている。

 どこかから鐘のなる音が聞こえてきた。けたたましく鳴り響いている。


「敵襲っ、東門にドラゴン襲来ーーー」


 来た。歩いている方向が東だ。まだ距離があるのか、外周壁に遮られてドラゴンを視認できない。しかし、地響きは近づいている。向かい風が長政を打った。

 兵士の動きに逆流するように、集合場所に駆け戻った。皆集まっている。


「よし、行くぞ」

「本当に行くんですか?」


 気合を入れたところで、公平から疑問が呈される。首が落ちそうになった。

 長政がアクセルを踏むと、ブレーキを踏むところが公平にはある。

 しかし、今行かない、という選択肢はない。クリアするために、ここまで来たのだ。


「公平。力の抜けるようなことを言うなよ」


 公平ってこういう奴だよな。




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