序
神さまがこの世界にいるなんて信じたことはなかった。
日本人のほとんどは仏教徒だっていうし、初詣に神社を赴くことはあるけれど、だからと言って神さま仏さまが私に奇跡を与えてくれるなんて思っていたわけじゃなくて、ただ、みんながそうしているからそうしていただけなんだと思う。一月前まで顔も覚えていなかった母親と兄のお墓参りをするときだって、そこに彼らはきっといないんだろうな、なんて勝手に空々しさを感じていた。
もちろん、神さまを信じている人がいることは知っていたし、その人たちのことをどうこう言うつもりはないんだけど、見たこともない、会ったこともない、なにをしてくれるわけでもない神さまを見つめ続けることを不思議に思っていた。
でも、そんな疑問が解決するよりも先に、私は神さまと出会ってしまった。
神さまはずる賢くて、口がうまくて、怪しげに笑った。
神さまは温かくて、優しくて、私を抱きかかえた。
そして、本当の本当の神さまは世界の外にいて、みんな探しているらしい。
実際に会ったところで私が彼らを拝むようなことはなかったし、授けられた奇跡は私を助けてくれたけれど、最初から関わらなければそんな事態に陥ることもなかったようにすら思える。
神さまに触れて、その奇跡を授かったことが幸運だったのか、その答えを私はまだ計りかねている。
私はいつもそう。
なにをしても、なにを見ても、結局なにもかもわからないままだ。
『これは決められていた未来なのだから』と彼は言った。
私の命は一から百まで神さまの奇跡でできていて、どこまで行っても私はそれから逃れられない。
私は弱い人間だから、辛い生なら奇跡なんていらないって思ってしまう。
でも、たとえそれが苦難の道への片道切符だったとしても奇跡を欲する人もいる。
彼女は神を信じ、神を崇め、神の奇跡を求めていた。
私はそれが美しく、そして苦しく感じる。
誰よりも奇跡を見つめているのに、与えられないというだけで苦しめられるのは、私と正反対の生なのかもしれない。
けれど、せっかくだから、こんな風に物語を始めよう。
今回は、私と同じように神さまの気まぐれに振り回された女の子の話だ。