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澤村愛はめんどくさい

線引き

作者: 末摘花

  四捨五入されて切り捨てられる4の数字と、繰り上げられる5の数字の差を考えたとして。特に思い付かないのはわたしだけなんだろうか。あの澤村愛でさえ、なにも思いつきはしないのだろうか。

  朝日由宇と特別な、きっとオンリーワンであるはずの呼称。全国に何万と朝日という苗字の人物は存在していて、由宇という名前の人物だって、確かに存在している。ありふれた同士を組み合わせて、かぎりなく無限に近い有限なものを作り出すのは人間だ。幼馴染みがそう言って聞かせてくれた。もしかしたらみんな誰かの代替品なのかもしれないね。その言葉がとても怖かった。

「0と1じゃ全然違うから、」

  その日の愛は聖書を読んでいて、御簾納雪名と神様について話をしていた。そこでいつの間にか物事の差に脱線して、文字列から目を話さぬままに、彼女が続ける。

「あるとないじゃ違うし、少しでもあるならそれは存在している」

  だから四捨五入に納得ができていないらしい。それはわたしも同じだけど、そういう、なにか大きな決まりにわたしたちの意思は必要ないんじゃないかと思う。何故人が生きるために酸素が必要なのかとか、何故植物の光合成に、太陽の光が欠かせないのかとか。その仕組みや根拠を知る必要があるとは思わない。けど、愛は思うのだ。心が踏みにじられていると感じるのだと言っていた。それはとても悲しく、生涯を歩む上での阻害にしかならない。

「5と6が同じ分類なら、4と5の違いってなに? 私はそれが知りたい。その分けられた明確な線引きが、どうしても分からないから」

  分からないことを分からないと言う。知りたいことを知りたいと言う。猫をも殺してしまいそうな好奇心は、いつかきっと、愛自身の首を締めていってしまうように感じる。分かりたいことと、解りたくないことの境界線でさえ、愛は知ってしまっているのだ。

  恋愛を醜いとたかが中2の女の子が考える。わたしはそんなことを考えたことがあるか? ある訳がない。同調圧力に殺されながら育ったわたしが、そんなことを考えるはずがない。

「……愛になりたかった」

  わたしは、切り捨てられる4の数字のように捨てられてしまいたかった。

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