うーまーいーぞーっ!!
「スミマセン。さすがにちょっと動揺してしまいました」
正座して優季ちゃんに平謝り。つまりは土下座。
「まあ、あたしも急いで着替えたりしてたから、こっちにも非があると思いますので仕方がないです」
と言いつつ枕を抱えてがっちり胸元をガードしていらっしゃいますが。
イカン、病人を興奮させてどうする。海より深く反省。
そういや鷹子からの攻撃が一切無かったが。
気になってチラリと見れば、優季ちゃん以上に真っ赤な顔で目を逸らしてしまった。
「鷹子?」
「すいません。その、慌てて着替えを出したのがボクだったので」
「ん?こういう時って体を締め付けるモノって着けないんじゃ?」
つまり、今の優季ちゃんは━━。
「先輩……。お父さんを呼びますよ?」
「スミマセンスミマセン。平にご容赦を!」
つい視線が。くそっ、僕も思春期真っ盛りなのか、僕のクセに。
━━コンコン。
「ほぎゃ!!」
た、タイミングが良すぎる!ビビった!まぢでビビった!!
「はーい」
優季ちゃんが返事をすると、ドアを開けて件の父親が登場した。
「ど、どうもです」
「おおお邪魔しています、おじさん」
鷹子と二人で超ビビり。
「……茶だ」
お盆がおもちゃにしか見えないような手で部屋の真ん中の小さなテーブルにお茶とコーヒーが出された。
「あ、いただきます。━━?」
あれ?
コーヒーのこの薫りと何よりこの色。
思わずコーヒーに手が伸び、そのまま一口すする。
「━━旨い」
これ、インスタントじゃない。ちゃんとドリップしてある。
これをこのレスラーみたいな父親が?と思って部屋を出ていく背中を目で追うと。━━なぬ?
「どうしました先輩?」
「いやだって、今確か━━」
あの巨漢が小さくガッツポーズしてましたよ?
「ああ、お父さんですか。先輩が素直に誉めてくれたのが嬉しかったんですよ」
「優季ちゃんの親父さんっていったい何者?」
「……実はですね」
「お、おう?」
「ごく……」
「極道!?」
「あ、すいません。何か緊張してしまって喉が」
「ぜってーウソだ!」
「……やっぱり仲が良い気がします」
お茶を飲んで落ち着いたのか、鷹子が突っ込んだ。━━というか、妙にお茶を飲む姿がしっくりくるな。
「冗談です。本当はコックです」
「もうその手は━━はい?」
「だから、コックさんです」
こっく?
「……捻ると水が出る」
「蛇口じゃないです」
「ゴ○グ?」
「何ですかそれ?」
余裕でハンマーを受け止めそうなんだが。……つーか。
「コック……」
あの強面にコックさんの帽子を被せて━━ダメだ。想像できん。
「先輩?何かちょっと失礼な事を考えていませんか?」
「大丈夫だ。すごく失礼な事を考えてようとして限度を超えた」
「……本人には言わないでくださいね?あれでもお父さん、わりと繊細だから」
「繊細……」
改めてコーヒーを手に取る。カップはもちろん、ソーサーまでしっかりと温めてある。鷹子のお茶も良い薫りが漂っていたから、恐らく同様にきっちり淹れてあると見た。
「もしかして、けっこう良いお父上?」
「もしかしなくとも良いお父さんです。あたしにはすごく優しいんですよ」
そう言っている優季ちゃんの笑顔が優しそうです。━━となると。
「なんで鷹子はそこまでビビってるのさ」
「げほっげほっ!いきなり話を振らないでください!」
鷹子が思いっきりむせてしまった。
「大丈夫?鷹子ちゃん」
「そうだ、大丈夫かタカりゃん」
「その呼び方は止めてください。まあ、なんと言うか、色々と。無理に連れてきておいて何ですが、気にしないでください。別に嫌っているとかそういうのではないですから」
「はあ。ま、鷹子がそう言うなら」
「はは……。お父さんって、見た目で誤解されやすいから」
結局その後は今日のノートなんかを渡して僕らはおいとました。
だが……僕はこの時、もう少しだけ鷹子に対して踏み込んで行くべきだったのだ。もう、単なる知り合いでは済まされない所まで近付いていたのに、それでも僕は躊躇してしまい、後々後悔することになる。そしてまさか、優季ちゃんまでもが同じ様に後悔する事態になるとは思いもよらなかった。