お見舞い……のハズ?
「おお━━。これはなかなか」
僕と鷹子は二階建ての立派な家を見上げていた。かなりキレイで新築と言っても差し支えが無さそうな感じの一軒家だ。
因みに愛美は「大勢で押し掛けても迷惑になるから」なんて意外にまともな事を言ったと思えば「お呼びじゃないみたいだし……」と、肩を落として帰ってしまった。おいたわしや。
「それはさておき、鷹子サン。お前さんが病人みたいな顔をしてどうするんだ」
「……すみません」
いつもの元気は何処へやら。まさかここは妖怪屋敷とか言い出さんだろうな?
「では、タカりゃんよろしく」
「え?」
「とっととチャイムを押してくれ。いくらなんでも僕じゃ面識が少ないから場合によっては訝しがられる」
「そ、そうですね。では……」
そろ~りとインターホンのボタンへ手を伸ばす。……ここで『わっ!』とか叫んだらどんな反応が?と、一瞬考えたのはナイショだ。
ぴんぽーん。
やや間があって。
『…………』
反応無し?━━いや、何か気配がした気がする。
「あ、あの、鷹子です。優季さんのお見舞いに伺ったのですが……」
『…………(プツン)』
「居留守か?」
「いえ、違うと思います」
鷹子の言う通り、ガチャガチャと玄関の鍵を開ける音がしてドアノブが回った。そして━━。
キィィ……。
「ひうっ!」
「あ、こら!?」
鷹子が僕の後ろに隠れてしまった。そして僕の前には。
どおおおん。
正にそんな効果音と共に現れそうな男が一人。
デカイ。ゴツい。丸太のような腕にひげ面。鋭い眼光。━━え?何この巨漢は?
「……誰だ」
おお、声も見事に野太い。って逃避してる場合か!
「あの……こんにちわ。僕はですね、えーと?」
ヤバい。すんごくヤバい。よく考えたら女の子の住む家に男が来るってフツーに警戒されるに決まってるし、そもそも何と自己紹介すればいいんだ?
「こ……こんにちわおじさん。お久し振りです」
僕の後ろからそーっと鷹子が顔を出した。
「…………うむ」
それだけ?ねえそれだけ!?
「ええとですね、この人は私━━いえ、ボクの学園のセンパイで……仲の良い知人です。ボクに付き添ってくれました」
何か微妙な紹介だが、ここは合わせるか。
「……入れ」
と、巨漢の方は家の中へと入っていった。……第一関門はクリアかな?
それから「ここで待ってろ」と言い残して二階へ上がっていった。
「鷹子……」
「ハイ……」
「アレって……人類?」
「はい、優季の父親で━━って、せめて人間扱いしましょうよセンパイ!」
「いやさすがにインパクトがな」
「確かにそうなんですけど……」
『先輩まで来てるの!!』
「おわっ!」
今の声、優季ちゃんか?
『ちょ、ちょっと待っててもらって!!』
おーい、玄関まで筒抜けだよ?
そして父親が下りてきた。
「……ちょっと待てだそうだ」
そう言う背後の二階辺りから、どたばた音がしていた。……何やってんだか。
「やれやれ。なあ、鷹子」
「え?あ、はいセンパイ何ですか?」
「お前さんなら上がれるんだろう?上に行って片付けを手伝ってやってくれないか?病人があんまり動くもんじゃないだろう」
「……あ、そうか」
そして鷹子が父親をそうっと窺うと、こくりと無言で頷いた。
「それじゃ、失礼します」
鷹子は慌てて、だがしっかり靴を揃えて二階へと消えていった。━━って、あれ?この状況ってひっじょーに不味くないか??
「……」
「……(・・;)」
「…………」
「…………(ーー;)」
「……………………………………」
「……(誰か助けて……)」
「……娘は」
「は、ハイッ!」
向こうから話し掛けてきたぞ!?
「娘は……元気にしてるか?」
「ええと、ぼ、僕より鷹子……鷹子さんの方が詳しいとは思いますが、まあ、元気にやっていると思います」
「……(じろっ)」
「少なくとも僕の見た限りでは元気です!」
これ、学園での話だよな?頑張れ僕!脳みそフル回転で答えよ!
「……ちゃんと笑っているか?」
「あ、はいそれは━━」
いつもニコニコ━━と言い掛けた僕の脳裏に、初めて優季ちゃんと出会った日の泣き顔が何故か浮かんだ。
「僕はニコニコと笑っている顔ばかり見ています。ただ━━」
父親の眉がぴくりと動いた気がした。
「まだ、全開の笑顔は見たことがない気がします」
……って、何言っているんだ僕は??
「……そうか」
だが、父親はこれで会話は終わりとばかりに目を閉じた。
それからほどなく、鷹子が降りてきてこの奇妙なやり取りは終了した。