違和感
ぴっ、ごとごとん。ぴっ、ごとごとん。
「学生の小遣いは常に火の車なんだけどなー」
そう言いつつも結局お茶とスポーツドリンクのボタンを押している自分は何なのだ。このままでは火の車が妖○力火炎車になりそうだ。
いつもなら昼の定位置であるおんぼろベンチで待っている二人の所へ向かうと、優季ちゃんが笑顔で手を振る。そして反対側の手はずっと鷹子の手を握ったままだ。━━と、いうか。
妙に鷹子が大人し過ぎる。顔色も心なしか……。
「ほれ、なけなしの小遣いで買ったもんだ。心して飲め」
「すいません先輩。ありがたく頂きます。━━はい、鷹子ちゃん」
「……ありがとうございます」
流石に苦笑しながら優季ちゃんは鷹子にお茶を渡した。自分の分は?と聞かないのは優季ちゃんなりの気遣いか。
「それにしても、さっきのは何だったんだ。よくあるのか?ああいう事」
「鷹子ちゃん、皆から頼られてるから。それを良く思わない男子とかも居るんですよ」
「あー、なるほどね」
それだけで何となく分かった。思春期真っ盛りの少年なんてプライドの塊みたいな所があるからな。━━って、殆ど同じ歳なのに達観し過ぎだろ僕。
「それはそれとして、優季ちゃんって実はモテたりする?」
「え、えーと、それはどうでしょう?ほら、あたしってこんなだから外見で騙されてるとかじゃないでしょうか?」
「ほうほう。否定はしないと。まあ確かに充分可愛らしいとは思うけど」
「鷹子ちゃん。変輩が口説き落としにきてるんだけど」
「む、そう返すか。なんか日に日に僕の扱いがぞんざいになってる気が……。さては教室では猫を被っていたりするんじゃないか?」
「さて、どうでしょう」
涼しい顔でジュースをこくこく飲む優季ちゃんだった。
「……そう」
「ん?」
それまで不思議と静かだった鷹子が俯いたままポツリと呟く。
「そう、そうだよ。優季は、とっても━━」
「あ……あの~~鷹子??」
な、何だか様子が変ですよ?
「あー、これはまた始まったかな?」
「優季ちゃん?何、そのいかにもなフラグ」
鷹子がお茶の缶を「カンッ」とベンチに叩き付けるように置いたので、思わず僕は一瞬びびった。
「そうだよ!優季は!」
そして。
「こんなに可愛いんだよ~~~~~~!!!」
がばぁっ!っと鷹子が優季ちゃんに襲いかかった!━━ように見えた。
ぎゅううううううう~~っと。優季ちゃんを胸にかき抱き、さらにはかいぐりかいぐり頭をなで回す。
「優季ってばこんなに可愛いのに!可愛いのに!可愛いのに!」
「うおっ!大事な事なので三回言った!」
というか、鷹子が壊れた!
「とっても可愛いのに!」
「さらに言った!?」
「鷹子ちゃん~~ジュースが零れちゃうよ~~」
対して優季ちゃんはやけに落ち着いて至極全うな事をぼやいている。いやこれは達観━━諦観か?
「で?何これ優季ちゃん?」
「ええと……愛情表現かな?」
「疑問形かい」
尚も豊かな胸の谷間に埋もれながら━━おぉ、流石にスタイルが良いだけにこれは何というか。
「あ。変輩がちょっとやらしい目で見てる」
「何ィ?」
「ひぇ!すみません!」
「センパイ。優季を汚らわしい目で見たら……」
いや、主に見てるのはどちらかというと鷹子の胸、とかいうツッコミは今はヤバい!
「み……見たら?」
「ツブシマス……」
「Yes,ma'am!!」
思わず敬礼。
鷹子恐ぇ!
結局。
何とか沙更ちゃんを振り切ったらしい愛美に見付けられるまで、僕は直立不動で鷹子の惚気(?)を聞かされる羽目になった。
ていうか鷹子、さっきの雰囲気はどうした。