黒○のバスケじゃありません
体育館にホイッスルが響く。
今日はたまたま一年の女子と体育が被ったようだ。しかも種目も同じバスケで。
その中でも一際目を引くのは━━。
「ヨロシク!」
「はいっ!」
ポニーテールを揺らし彼女が跳ぶと、ボールはふわりと一瞬浮かび、キレイにリングを通り抜けた。
同時に上がる黄色い歓声。その中に。
「ナイスシュート!鷹子ちゃ━━ん!」
すっかり人気者になった鷹子への、ほぼ悲鳴のような甲高い声援にも埋もれずに声を張り上げているのはもちろん優季ちゃんである。
猫っかぶりを止めた彼女にはもはや恐れるものは何も無い、といった感じで応援にも熱が入り、鷹子も恥ずかしそうにしながらもそれに応えるのがまた微笑ましい。
鷹子はそもそも運動神経が良いらしく、それに加えてのあの上背なのでバスケとは相性が良いようだ。ただし、本来の争い事や闘争心といったものには欠ける性格から部活には参加していなかったのだが。
一方、僕はというと。
ひょい。
「あれ?」
「ほい、パスカット」
簡単に相手チームが通そうとしたパスに割り込んで頂き、ゴール下の味方Aにボールを回すと彼は見事にシュートを決めた。
「ナイスシュート」
「??━━おお」
不思議そうな顔をする彼に親指を立てる。
さらに。
「パスだパス!」
ゴール下で味方がシュートを阻まれている。
「くっ……」
「こっちこっちー(棒読み)」
「━━!頼む!」
少し離れた場所でフリーになっていた僕にボールがパスされ、僕はそのままシュートする。━━が、ボールはリングに掠りもせずにボードに当たり明後日の方向に━━じゃないんだな。
「いただき!」
今度はそのボールを正面から受け取った味方Bがシュートを決めた。
「お~~ぱちぱちぱち」
「……なあ、真一ってやけにフリーになる瞬間が多くないか?」
「良いところに気付いたね味方Cくん」
「ほっとけ!まあそれでチームが勝ってるんだが、何でだ?」
「フッ……」
僕はここぞとばかりにメガネをクイッと上げて言った。
「説明しよう!僕はそもそもクラスで影が薄い殆ど『ぼっち』な存在なので、何処にいようとも気付かれにくいのだ!」
「おおっ!凄いみたいに聞こえるがかなり痛い台詞だ!」
「だからパス回しに徹して味方のシュートチャンスを増やすから、結局得点が増えるわけ」
「それはそれでわりと凄いと思うんだが……。やっぱりお前運動部に入ったら?」
「いやそれは、初めから真剣に部活に打ち込んでいる人に申し訳がないから」
「……お前さん、何か変わったよな」
「そうかな。━━ん?」
視線の先では優季ちゃんがこっちを見ながら待機中のクラスの女子に何やら肘でつつかれていた。すると━━。
「先輩、ナイスアシストー」
さすがに恥ずかしいのか大声ではなかったが、しっかり聞こえました。
お返しに軽く手を振ると真っ赤な顔で周りに冷やかされだした。
「うんうん愛い奴め」
それからは優季ちゃんはメンバーチェンジ等で入れ替わる女子や鷹子らと会話をしつつ見学(基本体育は参加できないので)していた。
最近はクラスの女子との関係もなかなか良好のようだ。
━━でも。でも、だ。どうしても僕には気になる事があった。
鷹子のいるチームが再びコートに出ていく。それを優季ちゃんは拳を突き上げて(実に漢らしいぞ優季ちゃん) 送り出すのだが━━。
照れ臭そうに笑って鷹子がコートの方を向いた瞬間。
一瞬。ほんの一瞬の出来事だ。
優季ちゃんの手が力なく下ろされ、笑顔を浮かべていたはずの表情が━━消える。
それは本当に僅かな間の事なので、他の人は気づかないだろう。もしかすると優季ちゃん本人も自覚していないかもしれない。
でもだからこそ僕は時おり優季ちゃんが見せるこの仕草や表情が気になるのだ。
僕はそれから、「爆発しろ!」とか言われてなぜか敵味方関わらずにボールをぶつけられまくりながらその事をずっと考えていた。




