まるでバッドEND
いつもの━━とはちょっと違う放課後の教室。
玉砕から一週間ほどが過ぎた。僕は……あれから二人には会っていない。
もちろん姿を見かけることはあるが、お互いになんとなく遭遇を避けているので会話は無い。
その間に二人には大変な事が起きているらしい。━━特に鷹子に。
あの事件の後、鷹子は無理に男子に対抗するのを止め、髪を下ろし、本来の控えめな自分へと戻った。(まあ、時折今までの癖で手を出しそうになったり、一人称も『ボク』と『私』が混ざったりするが)
何しろ「もと」がすこぶる美人なので、強気のカモフラージュが無くなれば見事な黒髪ロング美少女の出来上がり、というわけだ。
もっとも、今度は美人過ぎて遠巻きにされているのを本人は今までの行動のツケだと思っているらしく、イマイチ自覚が無いそうだが。
そして……逆にそれまでやや猫かぶりだった優季ちゃんはそのサバサバした性格と豊かな感情表現がクラスに受け入れられつつあるらしい。
そうして二人は性格逆転ペアとして結局仲睦まじく……。
「その二人が何だかケンカしてたみたいだよ~~?」
「なぬ!?」
「というか、この↑本当にバッドENDみたいなクドクド淡々としたモノローグはなんなの真一?お話終わっちゃうよ」
「愛美はまたそういう……じゃなくて!ケンカ?あの二人が?」
「うん、たぶん」
何だ?何があった?今度こそ二人はお互いを理解して本当の親友同士になった筈だろ?
僕は思わず椅子から立ち上がり━━かけて。
「いや、でも……」
行くのか?藤間真一よ。
「行かないの?そんなに気になるなら行けばいいのに。ここで考えてたってらちが明かないよ?」
またしても正論。このところの愛美はわりと容赦ない。
「ぬぐぐ……」
気になる。めっさ気になる。
「じゃ、質問を変えるけど、真一は優季ちゃんが好き?」
「…………」
「それとも嫌いになった?」
「それは無い。あり得ん」
フラれたからって嫌いになるとか、さすがにその程度の気持ちではない。……それじゃ何が引っ掛かってウダウダしてるんだろう。
ここで選択肢は━━。
1《やはり行かないで教室に残る》
2《それでも行く》
「……アホか」
僕は椅子から立つ。
「うんうん。そうこなくちゃね」
「考えても分からないならブチ当たるしかない」
教室を出ようとする僕に、愛美は両手の日の丸の旗(どっから出した)を振って送り出す。
「当たって木っ端微塵だよ!」
「玉砕より酷いなおぃ!?」
「あ、真一?」
「ん?」
「前━━」
ぽすっ。
何だか懐かしいシチュエーションのようで前とは違う感覚が胸に。
「あ、すいませ……先輩?」
「って、優季ちゃん!?」
下からの声に見下ろせば、こちらを見上げる優季ちゃんの顔が。
「何でここに……?」
「えっと、あの……そのですね」
真っ赤になって身をよじらせるが、優季ちゃんの台詞は要領を得ない。
「おのれ藤間のくせに…………」
「神聖な学舎であの野郎~~」
「ちょっと愛美!ダンナが堂々と浮気してるわよ?」
「……大嫌い」
何だか背後からものすごい負のオーラが浴びせられているのだが。
……いや待てよ?
すっぽりと腕の中に納まる、華奢とすら思える身体を僕が抱きしめて、お互いに見つめ合って……。あれ、このシチュエーションってまるで……。
「キスの一歩手前?」
にゅっ、と横から愛美が顔を覗かせた。
「ぬおっ!」
「ひゃあ!」
二人して瞬時に離れる。
しまった!優季ちゃんの納まり感が良くてほぼ無意識に腕を廻してた!
「と、とにかくですね!お話があるので来て下さ━━」
「おわっ!?」
優季ちゃんが慌てて僕の袖を引っ張ると体がぐらりと傾いだ。なるほど、意外に力が強いと思っていたら、これはリハビリの賜物なのか。
「って、優季ちゃん危ない!」
「え?━━きゃ!」
僕は優季ちゃんを巻き込んで倒れこみ━━いかん!このまま倒れたら僕の手が優季ちゃんの胸をわしづかみにしてしまう!
「させるかっ!」
とっさに僕は手を横にスライドさせて━━結果、支える物が無くなった!(馬鹿だ)
ごいんっ☆
「んぎゃっ!」
見事に僕のオデコと優季ちゃんのオデコが見事にごっつんこ。一瞬目の前に火花が散った。
「あたたた……大丈夫か優季ちゃん?…………あれ?優季……ちゃん!?」
返事が無い。チカチカする目を凝らすと━━。そこには大の字で伸びる優季ちゃんが。
「あわわ……衛生兵!衛生兵~~~~!!」




