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True  作者: 山田助兵衛
19/27

お互いの真実━━優季(今度こそ)

「えっと、どこかの変輩のおかげで話が中断してしまったので改めて。あたしの事も話すね?」

「重ね重ね、サーセン……」

 斯くして、お話し仕切り直し。

 ちなみにさっきのどたばたはふらついた僕に驚いた優季ちゃんが駆け寄ろうとして下ろしたままの白タイツに足を取られ、自分が倒れた上に僕が乗っかってしまったらしい(さすがは元エ○ゲシナリオ)。

「あたしは……中学の頃は陸上部でした。走るのが好きで、他の人と競うのも楽しくて、部活ばっかりでそれ以外はわりとどうでもよかった。これでも県大会なんかで入賞したりもしていたんですよ?」

「わ、格好いいね優季ちゃん。何に出場して(で て)たの?」

「短距離━━100m走です、愛美先輩」

 何となくそうじゃないかとは思ったが、やっぱり短距離(スプリント)か。

「でも、凄いな。その体格で入賞とか」

「いえ、そうでもないですよ変輩?200mや400mならともかく、100mなら小柄な選手でも速い人はいます。要は足の回転を速くするピッチ走方が使えますので」

「そうなのか?」

「まあでも変輩の言うとおり、あたしは小柄過ぎたのであまり後半にスピードの伸びが無くて……。とにかく基本的に前半勝負でした。ただ……当時はあたしも上背が無い選手は短距離に向かないと思っていて、躍起になってスタートダッシュの練習をしていました」

「ほ━━……」

 思わず想像。スタートから飛び出す優季ちゃん。

「格好いいかも……」

「何を言っているんですか変輩。全然そんな事はありませんよ」

 苦笑する優季ちゃん。━━あれ?なんか本気で否定してる?

「ところで優季ちゃん?」

「なんですか変輩?」

「…………」

「変輩?」

「……すいません、そろそろ許してつかあさい」

「なんの事ですか?『変輩』」

 にっこり。

「………………いいえ、続きをどうぞ(泣)」

「━━それで何回か大会には出たんですが、やっぱり全国だともはやあたしじゃ通用しなくって……。それが悔しくてまた練習して。たぶんその頃から大分オーバーワーク気味だとか言われていたんですが、聞く耳持ちませんでした」

 と、不意に優季ちゃんは眉をしかめた。

「……そう言えば、この頃何故かたまーにですが、何を勘違いしたのかあたしに告白とかしてくる(やから)がいたりしましたね……」

「わ、わ、優季ちゃんやっぱりモテてたんだ?さすが~~」

「よしてください愛美先輩。女の子らしくないのが物珍しかったんじゃないですかね?ストイックだとかなんとか」

 あれあれ、まただ。何だか優季ちゃんって━━。

「すいません、話が逸れました。それで、大会直前のある日の帰り道でした。あたしが横断歩道を渡ろうとした時に、居眠り運転の小型トラックが突っ込んできて」

 ……うわ。

()かれちゃいました」

「…………」

「…………」

「…………」

 さらっと優季ちゃんは言ったけど、僕たちは皆言葉を失ってしまった。

「…………それで……どうなったんだ?」

 なんとか言葉を絞り出して、僕は先を促した。

「特に左足は酷い有り様だったらしくて、お医者さんからは走るどころか一生まともに歩けないかもしれない、と言われました」

「それじゃ、歩き回るのも辛いんじゃないのか?」

「う~ん。違和感はだいぶありますし、肌寒い日なんかは傷む場合もありますが、必死になってリハビリした甲斐があって日常的な範囲ならそんなには……」

 日常的。つまりは走るのは絶望的になる。

「先輩?大丈夫ですか?」

「え、僕?」

 どちらかと言うと心配されるのは優季ちゃんのほうでは?━━と思ってると、優季ちゃんの手が僕の頬にそっと宛がわれた。

「ずいぶん顔色が悪いですし、さっきもちょっと様子が変でしたよね?気分が悪くなったのなら申し訳ないです。何でしたらこの話はまた今度に━━」

「いや、大丈夫。ちゃんと聞くよ」

「ならいいんですが……。ん?どうしたの鷹子ちゃん?」

「どうした、愛美?」

 気が付けば二人とも妙に気まずそうに視線を逸らして落ち着かなさげにしていた。

「?」

 とりあえず状況を確認。優季ちゃんが僕の頬に頬に手を宛がい、その上に僕が自分の手を重ねて彼女と向き合っている。━━あれ?これってまるで……。

「!━━ええええと、話を続けるねっ」

 一瞬早く気付いた優季ちゃんがすうっ……とさりげなく(のつもりらしい)手を引っ込めた。

「それで、治療やらリハビリやらでまる一年学校に行けなくて。ようやく復学しても周りは去年まで後輩だった殆ど知らないクラスメートばかりで、あたしの事は腫れ物に触るような感じで距離をつかみかねているみたいで。何より……あたし自身が当時は抜け殻みたいになってしまって」

 好きな事ができなくなって、か。

「そうなってから気付いたんですけど、あたしって走る以外にこれといって取り柄がなくて……。それを見かねたお父さんがわざわざ地元から少し離れたこの学院を進めてくれて、なんとか入ったんですけど……ここでも当初はやっぱり日々をぼーっと過ごすしかできませんでした」

 そこで優季ちゃんはふぅ……と息を吐き、顔を伏せた。

 こんな彼女に、僕は何と声を掛ければ━━。

「あれ━━?でもでも、お話に鷹子ちゃんが出てこないよ~~?」

 ……愛美(こいつ)愛美(こいつ)でなかなかに空気を読まんヤツだった。

「愛美。少しは雰囲気というものを読め」

「えー?真一がそれを言う?」

 ぐはっ!

「ぬぅっ、墓穴を掘ったか!」

 と、またしても話が脱線しかけた時。

「━━そう、そうなんです」

「え?」

「ん?」

 俯いていた優季ちゃんがぽつりと呟いた。━━ような気がする。そして身体が小刻みに震えていた。

「えーと、優季ちゃん?」

 なんだか様子がおかしい優季ちゃんに恐る恐る声を掛けるが。

「━━そんな時でした。あたしは……あたしは……」

 聞いてないねこれ。

「鷹子ちゃんと出会ったんです!!」

 ぱんぱかぱーんとどこかでファンファーレが鳴った━━気がした。

「それはもう、女神さまもかくや、という衝撃の出会いでした」

「……今度は優季ちゃんが壊れたぞ」

 ドン引きモノの僕らをよそに、優季ちゃんはそれこそ女神でも降臨したのか、というように瞳を輝かせてどこかを見上げている。

 ━━というか、本人目の前にいるんですが。

「そんな……ボクなんて、大女で怪力で、優季みたいに可愛らしくなんてないもの……」

「あたしなんかを比較にしちゃダメ!あの時変な男子(ヤツ)に捕まっていきなり遊びに誘われたりしてもう面倒だなとか思っているところに鷹子ちゃんが颯爽と現れて、あたしを『彼女(ゆい)はボクの物だから』ってさらっていって━━」

「思い出補正がすごいよ!?ボクは『この子と先約があるから』って言って連れ出しただけで……」

「それでもあたしを助けてくれたでしょ?」

「あ、うん。優季、困ってたみたいだったし」

「どこの誰かは忘れたけど、ぼーっとしてたあたしをなんだか大人しくて誘いやすいとでも思ったらしくて」

「え?その男子って、さっき優季とケンカ(?)してた人だよ?」

「あれ、そーだっけ?」

「本当に覚えてないの?」

「や、どうでもいい奴の事なんていちいち覚えてられないし」

 女の子って、時々残酷だ。いや、知ってたけど……。

「とにかく!そのままあたしを本当に遊びに連れていってくれて、たくさんお喋りして買い食いなんかして……あんなに楽しかったのは久しぶりだった。それで最後に『どうしてあたしを誘ったの?』って聞いたら『クラスでもずっと元気が無かったから、なんだか放っておけなくて。迷惑だったかな?』とか遠慮がちに言われて。ああ、この子は気遣いのできるとても優しい素敵な女の子なんだなって」

「そんなこと……。ボクこそこんな可愛らしくて一緒になって付き合ってくれる友人ができて嬉しかったのに」

「可愛い?いや、無い無い、鷹子ちゃんが美人なのは本当だけど」

 ひらひらと困った顔で優季ちゃんが手を振る。……またか。

 話を聞いていてさっきから気になったのがこれ。どうも優季ちゃんは自分を卑下し過ぎていないだろうか?

「ちょっといいかな」

「はい、何ですか変輩?」

「ぬっ!まあ、その呼び方はいい。それよりもだ」

 じ~~~っと優季ちゃんの顔を見つめる。

「な、何ですか?」

 小柄な体躯。小さめの顔には意思のはっきりとした瞳。最近はころころ変わる豊かな表情。さして長くはないが、サラサラした髪。

「鷹子。ちょっといいかな?」

「はい?何でしょうか、センパイ」

「優季ちゃんって可愛いよな?」

「は?急に何を!?」

 慌てる優季ちゃんを手で制し、再度鷹子にたずねる。

「鷹子はどう思う?」

「……可愛いですよ、すごく。女の子としてもとても素敵だとボクは思っています」

 一瞬面食らったような表情をしたものの、鷹子はふんわりとした笑顔で答えた。

「うんうん」

「ちょっと変輩!何を一人で納得しているんですか?」

「うむ。この際言わせてもらうが、優季ちゃんは自覚が足りん!」

 びしっと優季ちゃんを指差す。

「いや、意味が分かりません。そもそも素敵な()というのはこういう女の子のことをいうんですよ?」

 今度は優季ちゃんが鷹子をびしっと指し示すが。

「人を指差すんじゃありません」

「コラァ変輩!なんで自分だけ棚上げなんですか!」

「あ、あの……優季?またセンパイのペースに乗せられてるよ?楽しそうだけど」

「うむ、実に楽しい」

 いや本当に。優季ちゃんとのこんなやり取りがなんだか楽しくてしようがない。

「それと……悪いんだけど、今回だけはセンパイに賛同するかな。ボクももっと優季は自信を持っていいと思う」

「いや鷹子ちゃん……そうは言っても実際にはあたしってちびすけなだけだしスタイルもこんなだし……」

 どうもそっちは本気で気にしてるのか、僕の前だというのに自分の胸をぺたぺた触りだした。

 うーん、なかなか手強い。どうやったらこの()が可愛いのを納得させられるのか……。

 それならば。

「優季ちゃん」

「はい?」

「僕は優季ちゃんはすごく可愛いと思ってるよ?だって、僕は優季ちゃんが好きだし」

「………………………………………………………………………………え」

「どうだ?これでも全然自分が可愛くないなんて思うのかな?」

「…………」

「…………」

「…………」

 あれ?何この沈黙。

「……あの、真一?」

 それまで殆ど会話に参加せずに妙に静かにしていた愛美が思い切り困ったような顔で僕を呼んだ。

「なんだ?っていうかどうした愛美。そんな変な顔し……て?」

 いや待て藤間真一。お前は今なんと言った?

 ━━ボクハユイチャンガスキダシ。

 ……ん?

 ━━僕は優季ちゃんが好きだし。

 ……あれ?

 ━━好きだし。

「あ、これ告白だ」

『『遅い(です)よ!』』

 鷹子と愛美からW(ダブル)でツッコミが入った。

大事なシーンではありますが、やはりやたらと長い章に……。

数ヵ月のブランクのせい……でもないか。(元から無駄な文が多いとの指摘が多いんですよ(TT))

ぬおぉ、ダイエットせねば!

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