男子は辛いよ
「それじゃ、そのうちまた会いましょう、優季センパイ!」
「はいはい。気を付けて帰りなさいよ?」
「はーい」
駐輪場で、手をぶんぶん振りながら、亜子ちゃんは去った。
「恐ろしくテンションの高い奴だった……」
「愛美先輩と組ませたらスゴいでしょうね」
「まぢで止めてくれ。熱核反応起こしそうだ」
「……先輩」
優季ちゃんがまっすぐに僕を見た。
「どうしたんだ?」
「聞かないんですか?」
「……何を」
「亜子の制服には気付いていましたよね?」
「え、僕もしかして制服フェチ扱いされてる?」
「…………」
ボケは無しで、か。
「確か駅ひとつ離れた、制服が可愛いと人気の所のだよね。亜子ちゃんが着ていたのは」
「詳しいですね。まさか本当に制服フェチだったり……」
「僕の真面目を返せ」
「冗談です」
「その性格に馴染んできた自分が怖いよ」
優季ちゃんがくすりと笑ったが、これは少し自嘲が入っている気がする。
要は亜子ちゃんが優季ちゃんを「センパイ」と呼んでいたのに、その優季ちゃんは一年生だ。そしてあの制服を着ていた亜子ちゃんも少なくとも一年生であるはず。つまりは━━。
「優季ちゃんと僕は同い年?」
「そうです。ちょっと訳ありで一年遅れています」
「ん?でも鷹子は優季ちゃんを呼び捨てにしてるよね?」
その辺は鷹子はきっちり区別しそうだが。
「そうですね、鷹子ちゃんは知りません」
「……いいのかい?僕がそれを知っていて」
「まあ、言いふらさないだろうくらいの信用はしていますよ、『先輩』?」
「言わないよ」
うっかり言ったりしないようにするのは少しプレッシャーが掛かるけど。
「さて、いい買い物も出来ましたから、あたしは帰りますね」
さっきのワンピースと帽子を収納したスクーターをぽんと叩いた。
「最近のメットインはほんとに大容量だね。それにしてもあの服を着て誰と出掛けるのか気になるねぇ」
「先輩とですよ?」
「は???」
「冗談です」
「僕の純情を返せ!」
一瞬本気にしたろうが!
「それじゃ、また明日です先輩」
スクーターのエンジンを掛けて優季ちゃんが手を振る。
「はいはいまたね」
最後にペコリと頭を下げて優季ちゃんは走り出した。
うーん。最近どうも優季ちゃんにはいぢられまくっているような……。ん?また「明日」?学園で会おうってか?
「よし、明日はリベンジだ」
会う趣旨がずれてる気がするが。━━あ。
「自分の買い物を忘れてた……いや、待てよ!?」
サイフを出して中を見る。
「…………帰るか」
ま、けっこう楽しかったからいいか。
「武士は食わねど高楊枝。僕は買わねど高笑い。はっはっは!」
……ちょっとだけ空しい気がした。




