後輩の後輩
「日に日にコントロールと威力が増しているねぇ」
モール内の某コーヒー店にて。配られたおしぼりで顔を拭く(顔にくっきりと靴の跡を付けた僕を見て、店員が目を丸くしていた)。
「さ、何でも頼んでいいよ亜子。今日は奢りだから。━━この変輩の」
「わーい!じゃ、デザートは何にしようかな~」
「おいコラ後輩。少しは自重━━」
じとっ。
「お好きなものをどうぞ」
メニュー越しに優季ちゃんに睨まれてしまった。いやでもこれって僕が悪いのか?
テーブルを挟んで向こうに優季ちゃんと亜子とやらが座っているのが今の状況を良く表していた。
ちなみに柄を見た云々はお見舞いの件をきっちり説明させられた。
「まあジーパンだけでも穿いてて良かったですね?優季センパイ」
「誰のせいだと思っているのかしら……」
まだ前をちゃんと閉じてなかったからかえってヤバかったのは内緒にしておこう。
「それでその子って、結局どちら様なんだ?」
ずっとドタバタしていて聞き損なったままだったし、注文が(たくさん……)届いた所で改めて。
「はい!優季センパイとおな中でした清水亜子です!部活の後輩でした!」
「わざわざ挙手しなくてもけっこう」
「そしてセンパイの心の友!忠実な下部!いつもニコニコ優季センパイの後ろに這い寄る混━━」
「いつも勝手にこのコが付きまとっていただけです」
「何だ舎弟か」
「ひどっ!」
「じゃ丁稚?」
「あ、それいいかも。優季センパイにご奉公ですか」
「はあ…………」
うわ、優季ちゃんが思い切りため息吐いたよ。すごいなコイツ。
「それでそれで、実の所はどうなんですか?まさか本当に優季センパイの彼氏なんて訳じゃ無いですよね?」
「すごい食い付きだねぇ。でも残念ながら違うよ」
「そうなんですか?でもただの先輩にしてはデートっぽい事をしてましたよね?」
「━━ただの先輩じゃないよ?」
「お?」
まさかの優季ちゃんからの意味深な発言が。
「ただの先輩よりもっと下だから」
「それもう論外だよね!?」
「……お父さんのコーヒーの方が美味しいけど、外で飲むのも悪くないかな」
「涼しい顔で流された!」
「あはははは!優季センパイのそういう所は変わってないですね?」
亜子ちゃんがテーブルをバシバシ叩いてウケまくっている。
「亜子、他のお客さんに迷惑だから」
「はーい。でも、センパイ、少し変わりましたね?」
「そう?」
「はい。以前は言い寄る男子を眼中無し!って感じでばっさばっさと切り捨てていましたから」
「……それは意外だ」
そこまで取っ付きが悪いようには見えなかったし。
「まあ、あの頃は男子なんてジャマなだけだったし」
「マジっすか!」
もの凄い発言が出ましたよ!
「そうですよね~~、中坊男子なんてお子様ばっかだし、実は私も興味ありませんでした」
「…………」
怖ぇ。中学女子まぢで怖いです!これあくまでこの子たちの話だよね?一般論じゃ無いよね!?
「それにあの頃は部活しか頭になかったから、それ以外はどうでも良かったし」
「へえ。部活に打ち込んでいたんだ。何部?」
「……あ」
急に亜子ちゃんの表情が固まった。━━あれ?僕はそんなマズイ事を訊いたのか?
「……陸上部でした。今は全くやっていませんけど」
「優季センパイ…………」
何だ?さっきまでの騒がしい空気が……?
「そんな顔しないの。あたしはいつも元気な亜子は嫌いじゃなかったよ?」
「はい……」
優しげな顔で亜子ちゃんの頭を撫でる姿は、実に先輩らしかった。
「ま、時々はウザイと思ってたけど」
「あ、やっぱり?」
「持ち上げて落とす所、ほんっっっとーに変わってませんね!!」




