新たな事件の予感
「僕の手伝いをして欲しいんだ」
明けて翌日、俺はいつも通り依頼を受けようとグラムとクロとギルドへ向かったけど、ギルドの前には何でかアースとミリアが待ち構えていた。
俺は嫌な予感はしたけど、昨日の今日でさすがに俺待ちではないだろうと思い込み、スルーして中に入ろうとしたところで、アースに声をかけられ捕まった。
「だから、なんで俺がおまえに協力しないとダメなんだよ」
アースは俺を呼び止めると、唐突に依頼を手伝って欲しいと言ってきた。
意味が分からない。
そもそも内容も聞いてないのになぜ?
というか、そもそも手伝って欲しいって、依頼はそんな子供にお手伝いを頼むみたいなもんじゃないだろうに。
「そんな事言わないでよ。昨日奢ってあげたじゃないか」
くっ、自分から奢ると言ったクセになんて奴だ。
「いや、昨日のはアースから言ってきた事だろ? だから、答えはノーだ」
俺はそう言って通り過ぎようとした。
「待ってよ! 話だけ聞いて! ショーマ君も絶対興味を持つと思うんだ!」
後ろからアースが叫ぶ。
俺が興味を持つ?
……いや、アースの事だ、どうせ碌でもない事だと思うけど……どうせ、断ってもなんだかんだ話を聞かなければならないだろうし、イラッとする前に自分から聞いた方が精神衛生上良いしな。
俺はどちらにしてもスルーすることが出来ないだろうと思い、立ち止まって振り返る。
「……どんな内容なんだ?」
「あっ、話を聞いてくれるんだね?」
そう言って微笑むアース。
こいつは本当、マイペースな奴だ。
「手伝うかどうかは別だ。とりあえず手短に内容を話せ」
「分かったよ、内容はね――」
「うわっ! そんな近づくなよ!!」
依頼の内容を話せと言うとアースは耳に顔近づけ囁くように言ってきた。
「いや、あんまり聞かれちゃまずい事なんだ」
だったらこんなところで言うなよ!
「なんだ? それは面白そうじゃないか。私も混ぜてくれ」
不意に後ろから声が聞こえてきて、振り返るとそこにはカレンがいた。
なんでこいつ、離れたところにいるのに聞こえたんだ?
あっ、確かカレンは地獄耳――
「ん? ショーマ、何か失礼な事思ってないか?」
「イエ、ナニモオモッテマセン」
そうだ、カレンは妙に勘が鋭いから変な事を考えてはいけない。
無心無心……。
そうやって俺がカレンに対して動揺している間に「う~ん……」と考えていたアースは「うん、カレンちゃんもSランクだし手伝ってもらっても良いと思うし良いよ」と言ったので、とりあえず俺達はギルドの中へと入った。
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「という訳で部屋を貸してくれ、クレイ」
ギルドに入ると俺は前のようにクレイのところへ行き、手短に要件を伝えた。
クレイも何か心当たりがあるのか、俺達がギルドに入って目があった瞬間、手を目に当て天を仰いでいた。
おそらく面倒な事だと思ったんだろう。
俺も逆の立場ならそう思うけど、悪いなクレイ。
俺がアースから逃げられない以上、運命共同体だ。
「……もってけ」
対するクレイも手短にそう告げると会議室の部屋の鍵を投げて渡してきた。
なんだかもうなげやりな気がするな。
クレイも可哀そうに。
半分は俺が巻き込んだせいもあるだろうけど。
そんな事を思いながらアースの話を聞くために会議室へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでどうしたんだ?」
会議室に入り椅子に座ると、単刀直入にアースに聞く。
こいつの場合はストレートに聞かないと話が逸れるからな。
ちなみにどのように座っているかというと、俺とカレンが隣同士で座り、向かいにはアースとミリアといった感じだ。
「えっとね、でもその前に――」
そう言ってアースはカレンの方へ視線を向ける。
「カレンちゃん、この話を聞いて手伝わないってなってもこの話の事は口外しないでね?」
「あぁ、Sランク冒険者として誓おう」
「うん、ありがとう。ショーマ君も良い?」
「あぁ、分かってるよ」
こいつ、抜けてるところが多いくせに、こういうところは変にちゃんとしてたりするから、ギャップがあるよな。
「それで? どんな依頼を受けたんだ?」
カレンが話の続きを促す。
すると、アースはミリアをチラっと見る二人で頷き、口を開いた。
「実は新たな魔剣が見つかったんだ」




