さっそく怪しい雲行き
「いらっしゃいませ」
そう言って出迎えてくれたのは、なんとセバスだった。
「あれ? ショーマ君知り合い?」
幹事として、マスターと人数の確認を行っていたのか、カウンターにいたアースが声をかけてくる。
「い、いや……」
反応してしまった以上、他人だとは言えないし、かと言って本当の関係を言う訳にもいかない。
ど、どうすれば!?
「あぁ、ショーマ様、さっそくお越しいただいてくれたのですね」
どう対応するか困っていると、セバスが俺に近寄って手を取り握手してくる。
「え、いや……」
俺は何が何か分からず混乱していると、セバスが口を開いた。
「先日はありがとうございました。年で自ら執事から身を引いたのはいいものの、その後の事に悩んでいたところにショーマ様に出会い、『年だし雇ってもらうのは難しいかもしれないけど動かない事には雇ってもらえないぞ?』と言って頂き、雇ってもらうのは難しいなと思いながらもここを訪ねてみると、優しいマスターに雇って頂けました。感謝しております」
そう言って、手を上下に振ってくるセバス。
俺がそれに戸惑っていると、「そうなんだ! ショーマ君優しいね!」とアースが言い、マスターも「そうですか、彼は一週間で仕事をマスターした優秀な人材です。優秀な人材の背中を押して頂きありがとうございました」と俺に礼を言って来た。
そのやりとりを見た他のメンバーも口々に俺の事を良く行ってくれるが、俺は戸惑っていた。
セバスの方を見ると、セバスはウインクで俺に合図をするでの、「あ、あぁ、まさかここで働いているとは思わなかったけどな。ちゃんとうまくやっているみたいで良かった」と素の本心をそのまま口にしてセバスに合わせた。
でも、これってセバスに俺の普段の様子を見られるって事じゃ……?
そんな事を思っている間にも、俺はアースが指示した場所へセバスに案内され席に着く。
「ショーマさんって優しいですね」
席に着くと隣の席のセシリーが微笑みながら声をかけてくる。
隣がセシリーというのはアースが仕組んだ事だろう。
「いや、そんな事ないって」
本当の事ではない事を良いように言われ、なんか少し後ろめたくなる。
そんな俺を見て「謙虚ですね」とセシリーが言うのを、俺は愛想笑いで誤魔化した。
そうこうしているうちに、男性には冷えたエール、女性には果実酒が配られた。
そして、みんなのところに配り終えたところで、アースが立ち上がり、口を開く。
「みんな、手元に届いたかな?」
そういうアースにみんなは無言で頷く。
「今日は忙しい中、ありがとう。今日はショーマ君の快気祝いとAランク昇格祝い、そしていろいろあった中で、みんなお疲れ様って意味を込めて飲み会を開かせて頂きました」
アースの言う通り、俺はこの一週間の間にギルドへ呼ばれ、カレンやセシリーの証言により、この前の洞窟でケルベロスを倒した事と、魔物の異常発生の原因となっていた魔法陣を発見し、Sランク冒険者に劣らない活躍をした功績によりAランクへ昇格するという事を言われたのだ。
その時は、今日の飲み会が気になってそれどころではなかったけど。
「じゃあ長い話はいらないだろうし、乾杯したいと思います。みんな、手にグラスを持ってください」
そう言った後で「あっ、今日は僕のおごりだけど遠慮なく飲んでね。こう見えても稼いでいるから」という言葉を付け加え、何ともアースらしい喋りで、乾杯の準備に入る。
「では、ショーマ君の快気祝いとAランクの昇格祝い、それからみんなにお疲れって意味を込めて……かんぱーい!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
こうして俺達の飲み会は幕を開けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぷは~!! やっぱ冷えたエールはうめぇな!!」
乾杯早々にエールを一気飲みしたゼクス。
俺は横目で様子を見る。
「ゼクス、そんなに一気に飲むとまた酔っぱらうよ?」
「大丈夫だって、ルークスさんよ! それよりもルークスさんも飲もうぜ!」
ゼクスの奴、本当酒を前にしたらテンション上がるな。
「しょうがないな」
対するルークスは微笑みながらエールを一気に空ける。
あいつ、酒の方も強いのかもな。
「ゼクス、おまえまたうちに迷惑かけるなよ?」
「あぁ? クレイだって昔は良く飲んで暴れてただろ?」
「バカ言え! 俺はおまえを止めただけだ!」
「何を言ってんだ? おまえが奥さんとケンカしてヤケ酒して暴れてるところを俺が止めたんだろうが?」
「バッ、お前何を言って――」
「まぁまぁ! 楽しく飲もうよ!」
雲行きが怪しくなったところで、ルークスが止めに入る。
どうやらクレイとゼクスは昔からの知り合いのようで、エール一杯目から熱く言い合いしだした。
あの二人は似ているし同族嫌悪ってやつかもな。
まぁ俺にしたらルークスが苦労するのは少しいい気味だけど。
「ショーマさん飲んでます?」
おっさんグループの様子を見ていると、すでに一杯目を飲み終えたセシリーに声をかけられる。
気付くと、他のメンバーもすでに一杯目を飲み終えていた。
「お、おう、飲んでる飲んでる」
そう言って俺は慌ててエールを一気に飲み、自分の分とセシリーの分のおかわりを頼み、セシリーと他愛もない話を始めた。
俺達の飲み会は序盤から雲行きが怪しいのだった。




