俺、〇〇になります
「なんでこんなところに……?」
俺と目が合ったもの、それは俺の前世の知識そのままのドラゴンだった。
黒い鱗で強大なそれは、俺の事をじっと見つめている。
「……」
『……』
「……ども」
『グォォォオオオオオ!!』
「やっぱダメかっ!?」
俺は軽く挨拶をしてみたけど、それが通じるはずもない。
幸いにも魔族と人間の言語は一緒だったけど、ドラゴンは別だったようだ。
小説や漫画では、ここで脳に直接話しかけてくるとかあるけど、そこはギルドの時と一緒で俺の期待を見事に裏切ってくれた。
前門のドラゴン、後門の崖である。
「うわっ!?」
そうこうしているうちに、ドラゴンは立ち合がり爪を振りかざしてくる。
俺はドラゴンの攻撃を後方へ飛び避けたけど、もう後ろは崖だ。
あとがない。
俺は魔王だけど、すべて魔物が俺の言う事を聞く訳ではない。
魔族は俺のいう事を聞き、魔族の中に魔物を従えるものがいてそいつらがコントロールしているのだ。
もっとも、魔大陸の魔物ならまだしも、人間が住む大陸の野生の魔物まですべてを統括している訳ではないし。
そして、ドラゴンは龍族と呼ばれ、魔族とはまた違うから俺のいう事を聞くなんて事はない。
「くそっ! まだ光明草取れてないってのに!!」
俺が光明草を摘もうとしたところで、ドラゴンと目が合った為、動きが止まってまだ光明草を採取できていない。
どうする? 諦めるか?
「……ここで帰ったら男じゃねぇだろ!!」
ここで逃げるという選択肢はない。
今は普通に戻ってるけど、闇夜の黒騎士となってこの山に入った以上、俺は任務を達成させる。
何より、依頼を受けたって報告が子供達に言っている以上、落胆させたくない。
『グォォォオオオオオ!!』
「うぉぉぉおおおおおお!!!!」
俺はドラゴンが爪を振りかざす瞬間に、懐へ潜り込んだ。
「ぐっ、重っ!!」
懐に潜り込んだ俺はドラゴンを投げようとしたけど、さすがに無理があった。
「ちょっとの間どっか行ってろぉぉぉおおおおおお!!!!」
このままだと無理だと判断した俺は魔気を発動させ、ドラゴンを投げ飛ばした。
ドラゴンは、魔気を発動させた俺の力には勝てずに、凄い勢いで遥か彼方へと飛んでいく。
「……ちょっとやり過ぎたか。まぁでも死んでないと思うけど……」
俺は少しやり過ぎたかもと額に冷や汗を流しながら、一人呟いた。
ドラゴンを殺すつもりはなかった。
ただ光明草を採る時間が欲しかっただけだ。
それなのに……。
「さて、光明草採って帰ろう」
俺は目の前の現実から逃げて、やるべき現実に目を向けた。
「ん?」
そう思って振り返るとあるものが目に入った。
「なんだこれ? ……ってか、どう見ても卵だよな?」
振り返った先には、黒い卵があった。
さっきのドラゴンはこれを守っていたのか。
「えっ……?」
ドラゴンに悪い事したなと思っていると、卵にピキピキとヒビが入っていく。
「おいおい……まさか……?」
すると、次の瞬間に卵が割れ、赤ちゃんドラゴンが飛び出してきた。
「キュウ?」
そして、生まれたドラゴンは鳴きながら俺の方を見て首をかしげた。
それを見た俺も首をかしげ、一人と一匹は揃って首をかしげていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……やっぱり夢じゃなかったんだな」
俺が目を覚ますと、俺の顔の前にクロがいる。
「……」
「キュウ?」
俺は昨日の事を思い出してみる。
ドラゴンの卵がかえったあと、俺とベビードラゴンは揃って首をかしげていた。
そして、どうしたものかと俺が思案していると、どうやらベビードラゴンは俺の事を親と勘違いしたようで、俺の周りを飛び回った。
どうしようかと考えたけど、親ドラゴンを飛ばした責任は俺にあるので、ほっておく訳にもいかず、親ドラゴンが戻るまで面倒を見る事にした。
面倒を見ることにした俺はとりあえずベビードラゴンに名前をつける事にした。
そして、考え抜いてつけた名前が『クロ』だ。
ベビードラゴンにクロと名付けた俺は街に戻ったのだが、いきなりドラゴンを連れているのはマズイと思い、とりあえず服に隠して宿屋に戻った。
「やっぱり夢じゃないんだからなんとかしないとな」
「キュウ?」
呟く俺にクロは首を傾げる。
こういうところはドラゴンって言っても可愛いもんだな。
なんだろう?
まだ生まれたばっかだからか、手のひらサイズだし、羽も小さいし……ドラゴンという厳つい感じよりも、可愛いぬいぐるみのような可愛さがある。
ペットみたいだ。
昨日はそのまま一夜を明かしてしまったけど、クロの面倒を見る以上、ちゃんとした対応をしないと街で迷惑をかける事になる。
だから、俺はこのクロをどう扱っていけばいいか、ギルドに相談しにいこうと思っている。
「さて、行くぞクロ」
「キュウ!」
ん? ……なんかちょっと意思疎通できてないか?