魔方陣から出てきたもの
「なんて事だ……」
カレンが目の前の光景に、驚きの声を漏らす。
魔法陣を覆っていた淡い光の輝きが増したかと思うと、次の瞬間に目の前に大きな物体が姿を現した。
そして、その物体を見上げるとそこには大きな頭を三つ持つ魔物がいた。
現れたそれの大きさは五メートルくらいで足は四本、そして三つの頭の形は犬、それもドーベルマンのような顔ながらそれ以上の凶暴さを持っている。
『ケルベロス』
俺の頭に浮かんだ魔物の名前はそれだった。
「……やはり、あの魔法陣が魔物を召喚しているのだな」
「……そうだろうな」
俺は目の前に現れたケルベロスを前にしてカレンと言葉を交わす。
すると次の瞬間、ケルベロスは俺とカレンに気付いたのか、三頭の視線が俺とカレンに向けられる。
「「っ!?」」
三頭の顔がこちらを向いたかと思ったら、口を開き何かを放ってきた。
それに気づいた俺とカレンは後方へと飛びそれを躱す。
「まさか口から魔法を放つとな」
「あぁ、俺もびっくりした」
俺はカレンの言葉に同意する。
ケルベロスは口を開くとそこから魔法を放ってきたのだ。
しかも、向かって左の顔からは炎を、右の顔からは水を、そして真ん中の口から放たれたのは……
「それに、あの真ん中の顔から放たれた魔法、あれは私の知っている魔法には当てはまらない。おそらく伝説に聞く雷魔法……」
そう、カレンの言う通り、真ん中の顔が放って来たのは電気のような雷のみたいなものだった。
俺とカレンは顔の動きからやばいと思い、避ける事が出来たが、放たれてから着弾まではほぼタイムラグが無い。
いくらSランク冒険者、そして史上最強の魔王と呼ばれる俺だって光の速さに対応する事は出来ないだろう。
「カレン、一緒にいたらマズイ。両サイドに散って戦おう」
一か所に固まっていたら的を絞られやすい。
二手に分かれれば、奴はどちらにも気を配らなくてはいけなくなるから的を絞られにくいはずだ。
「……大丈夫か?」
「あぁ、今までの戦いを見てただろ?」
「そうだな。よし、じゃあ……行くぞ!」
カレンの言葉と同時に俺は左に、カレンは右へと飛ぶ。
すると、それに合わせてケルベロスの首が動く。
向かって左側の顔、炎を吐く顔は俺の方に、向かって左の顔、水を吐く顔はカレンの方を追う。
そして、真ん中の雷を放ってくる顔は俺とカレンを交互に見ている。
どうやら、真ん中の顔はどちらかに狙いをつけるのでなく、状況に応じて攻撃してくるようだ。
『おぅショーマ! こいつはヤりがいがあるな!!』
『何言ってんだグラム! 遊びじゃないんだぞ!』
『おっ、さすがのショーマも雷にはビビッてるのか?』
『ビビッてる訳ないだろ! それにちゃんと服着てるからヘソ隠してるし!』
『ヘソ? なんの話だ?』
『いいから行くぞ!』
『ヘイヘイ!』
グラムのいつもの調子に、魔族が関わっているのじゃないかと思った俺のシリアス感は消え去り、いらないやり取りをしながらグラムを握る手に力を入れる。
そうだ、とりあえずはこれを解決してからだ。
その後で一度魔王城へ戻って調べてみればいい。
グラムを変形させようかと思ったけど、ケルベロスの出方が分からないし、魔法陣がどうなるかも分からない。
それにクロがセシリーについていてくれるとは言え、セシリーが体力を消耗して万全に動けない以上、何が起きるか分からない状況の中で守るべき俺まで体力を消耗してしまう訳にはいかない。
ここはグラムの変形なしで乗り切る!
「こっちから行くぞ!!」
俺は叫ぶと同時に地面を蹴り、ケルベロスへと詰め寄る。
すると、ケルベロスは口を開き、炎を放ってきた。
でも、炎のスピードくらいは俺は余裕で躱せる。
避けたところで一撃を……
「っ!?」
次の瞬間、俺は後方へと飛んで距離を取る。
すると、それと同時にさっきまで俺がいた場所へ雷魔法が直撃する。
そう、俺が迫ってくる炎を躱してケルベロスの姿を捉えて瞬間に、真ん中の顔と目があった。
それで危険を察知した俺は咄嗟に距離を取って躱したのだ。
くそ……あいつ、魔法をブラインドにして真ん中の顔の雷魔法で攻撃してくるつもりか……。
距離を取って様子を伺っていると、反対側ではカレンが同じ手をくらい、ケルベロスに攻撃を与えられず、逆にカウンターをくらいそうになるのを避け、俺と同じように距離を取るような形になっていた。
こうなったら魔法で片づけるか?
……いや、魔法で片づけるにしても、あれほどの相手を倒すとなると強力な魔法を使うしかない。
でも、ここは洞窟だ。
そんな事をしたら崩れるかもしれない。
セシリーが体力を消耗している中でそれは危険だ。それに、セシリーとカレンも見ているしそこまで強力な魔法を使えばいろいろまずい。
どちらにしても洞窟が崩れる危険がある以上、魔法は使えない。
どうする……?
待てよ?
真ん中の頭は一つだ。
と、いう事は同時に攻撃すれば……?
カレンの方を見ると同じことを思ったのか目が合い頷く。
さすがカレンだ。
どこかの勇者と違って話が分かる。
まぁ、あの勇者も戦闘になったら違うかもしれないけどな。
俺はそんな事を思いながらカレンに頷き返すと、次の瞬間、俺とカレンは同時に動き出した。