初めての依頼は何かある?
「それで今日はどうしたんだ?」
「あ、あぁ、今日はギルドに登録しに来たんだ」
「おまえがか? 大丈夫か?」
クレイは俺の身体を見て顔を顰めながら言ってくる。
俺は見た目は別にマッチョって訳でもなんでもないし、至って普通だ。
だから、心配してくれているのかもしれないけど……。
「そんなジロジロ見んなっておっさん。俺にそんな趣味はねぇ」
「本当失礼な奴だな。俺だってそんな趣味ねぇよ。それに俺はおっさんじゃねぇ、クレイだ」
いや、そこでそんなにおっさんを否定しなくても。
「とにかくだ。俺は大丈夫だから登録してくれ」
俺は明日のチェックアウトまでにお金を稼がないといけない。
そうじゃないと住む場所がなくなる。
「ったく、人が心配してやってるのに。……まぁいい。じゃあこれに名前とか書いてくれ」
そう言ってクレイは用紙を俺に差し出す。
用紙の内容を簡単に要約すると、登録する者の名前とあと依頼中に何が起きても自己責任でギルドや依頼主に責任を求めないという署名だ。
俺は特に何も言う事はないので、それにサインする。
一瞬、『闇夜の黒騎士』とか書いてみようかと思ったけど、俺は今日封印すると決めたばかりだ。
だから真面目にショーマと記入した。
そして、サインした用紙をクレイに渡すとクレイは「ちょっと待ってくれ」と言って何やら作業しだした。
「……よしっと。じゃぁこれに触れてくれ」
レイはそう言うとカードみたいなのを差し出してくる。
俺はクレイのいう通りに触れてみた。
すると、カードは淡い光を放ち、そして少しすると光は消えた。
「なぁクレイ、さっきの光はなんだったんだ?」
「おっ! やっと名前で呼んだな」
何やらクレイは機嫌よく喜んでいる。
いや、名前呼ばれたくらいでそこまで喜ばなくても。
「男に名前呼ばれたくらいでそんなに喜ぶなよ。それよりさっきのは何だったんだ?」
「おっさんって言われたくなかっただけだ! ……ったく、さっきのはギルドカードがお前の魔力を感知したんだ。これでおまえはギルドに登録され、このカードが身分証代わりにもなる。なくした時の再発行は有料だから気を付けろ」
「分かった。サンキューおっさん」
「だからおっさんじゃねぇ!!」
そう言いながらもちゃんとクレイは俺にカードを差し出してくる。
なんやかんや言いながらも仕事はちゃんとする……いいおっさんだな。
俺は差し出されたカードを受け取る。
「ったく……あと、おまえは新人だからFランクだ。ランクはFから始まってSまである。まぁSランクなんてのはごく一部だ。Cランクで一人前、Bランクでベテラン、Aランクで凄腕ってくらいに思っておけばいいだろう。ランクによって受けられる依頼が違うから、それは依頼の用紙を確認しろ。あと依頼を達成できたらここで清算する。それと、もし買い取って欲しい素材とかもあれば買い取るから持ってきてくれ。……まぁこんなところか。じゃあ気をつけろよ」
そう言うとクレイは説明が終わったとばかりに、不機嫌に机に肘をついて顔を横に向ける。
「了解。ありがとうなクレイ」
俺はなんだかんだ言って仕事してくれたクレイに礼を言った。
それにクレイとくだらないやりとりをしてたら、久しぶりにいつもの自分に戻れた気がするからな。
最近は自分を見失い過ぎていた。
人間非日常を感じるとテンションが変になって人が変わってしまうな。
……今の俺は人じゃなくて魔王だけど。
とりあえず、まぁこの調子で依頼は普段通りの俺で頑張ろう。
「ったく、最初からそうやって素直に言えってんだ」
後ろから何か聞こえた気がしたけど、俺は依頼の張ってあるところへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「くそ、やっぱり討伐系の依頼は最低でもDランクからか」
討伐系の依頼は案の定、新米の冒険者が受けられないようになっていた。
Fランクで受けられる依頼と言ったら採取系の依頼か捜索系の依頼だ。
採取や捜索系の依頼はFランクでも受けられる事から報酬も安い。
銅貨一~五枚がほとんどだ。
ちなみにお金の価値は銅貨は日本円で千円、銀貨は一万円、金貨は百万円くらいの価値っぽい。
さらに、銅貨の下には青銅貨があってそれはここまで俺の予想を裏切ってきたギルドだけど、一番予想を裏切って欲しい依頼のところだけは予想通りだった。
「くそ、俺になんの恨みがあるって言うんだよ」
今泊まっている宿屋が素泊まり銅貨三枚って言ってたし、最低でも銅貨三枚、食事の事を考えたら銅貨五枚の依頼を受けなければいけないけど、それじゃその日暮らしになってしまう。
でも、受けられないものは受けられないし仕方ない。
「少しでも割のいい依頼は……んっ?」
すると、依頼の紙に埋もれるようにくしゃくしゃになった『光明草採取依頼 報酬銀貨一枚』と書いてある依頼を見つけた。
俺が受けられる依頼の中では一番高値だ。
よし、これだ!!
「って事でおっさん、これを頼む」
俺はそう言ってクレイに依頼の用紙を差し出す。
「だからおっさんじゃねぇって言ってるだろ」
俺の言った事に期待通りに反応するクレイ。
さすがだ、ちゃんと俺の期待に対して仕事をしてくれている。
「冗談だってクレイ。頼む」
でも、このままだと話が進まないので俺はちゃんと名前で呼んだ。
「これは……」
すると、嫌な顔をしながらもちゃんと依頼用紙を受け取ったクレイは俺の出した用紙を見て顔を顰めた。