表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/133

クレイも一人の親なんだと思った

「でも、まさかカイトに先を越されるなんて……」


 あの俺の平和が崩れ去った日から一週間。

 俺はこの前セシリーと少し良い雰囲気になったとはいえ、未だ少なからずショックから立ち直れずにいる。


「と、いう事で何か良い依頼あるかクレイ」


 俺はとにかくいろいろ考えてしまいそうなのを誤魔化す為に、依頼を受けにギルドへ来た。

 それと、クレイをからかって気分転換しようって魂胆だ。


「……」


 しかし、俺の問いかけにいつもの返しがなく、クレイは肘をついて手に顔を乗せ上を見てぼんやりしている。

 どうしたんだ?



「おい、クレイ」


「ん? あぁ、ショーマか。わりぃな」



 これはおかしい。

 明らかにいつものクレイじゃないぞ。



「どうしたんだクレイ? もしかしてネリーさんがカイトと付き合って、看板受付嬢に寿退社の可能性が出たからか? それの件に関しては俺もいろいろ思うところが――」


「いや、そうじゃねぇ。まぁネリーの事は抜けるとなると少し痛いが、まぁ寿退社なら喜んでやるもんだ」


「そっか。なら、なんでそんな元気ないんだ?」


「実は……いや、こんな事おまえに話す事じゃねぇな」


「いや、そこまで言った気になるだろ。だから言えよ。俺とクレイの仲だろ」


「ショーマ……じゃあ聞いてくれるか? ……実は娘が原因不明の病に倒れたんだ」


「えっ……?」



 まさかクレイに子供がいたのか?

 いや、そこじゃないか。

 それにクレイの年からすれば結婚して子供がいるのが普通だろう。



「原因不明ってどんなんだ?」


「それが身体中に黒い斑点が出来てな。治癒師に見てもらったんだが、今までに見た事もないと言われて……このままだと三ヶ月持つかどうからしい。一般的な治癒魔法と薬を飲ませたんだが効果がなくて……それで治癒師が言うにはこれを治すにはエリクシールしかないだろうって事だが、エリクシールなんてもの手に入る訳がねぇ。でも娘は遅くになってようやく授かった子なんだ……」



 そう言ってクレイは視線を落とす。

 遅くになって出来た子供……俺は親になった事はないし分からないけど、日本にもなかなか子供が出来ない人がいて、不妊治療とかして出来た子供が生まれた時は泣いたりするって聞いた事がある。

 それでなくても、自分の子供が生まれた時は感動して泣くって事もあるみたいだし、その子供が病に倒れたってなると気が気じゃないか。


 でも、エリクシール……よくファンタジーの話に出てくる万能薬か。

 確か世界樹の葉から出来たりするって奴だよな。

 この世界に世界樹って確か……。


「クレイ、世界樹の葉を取りに行くってのは出来ないのか?」


「世界樹の葉っておまえ……まぁ無理だろうな。エルフとの関係は決して良くないはないしな」


 ユーハイム大陸の南の一部に大森林があり、その中に世界樹はある。

 そして、そこにはエルフが住んでおり、人と魔族と関わらずに過ごしているって魔王城にいる時にセバスに聞いた。


 その話は魔族にとって世界樹ってのは厄介なものでしかないから早く消滅させましょうって事で話題に出たけど、もちろん俺はそんな事をしなかった。



「じゃあなんでエリクシールがあるんだ?」


「それは大昔に結ばれた協定で人はエルフに手出ししない。また、エルフも人に手出ししないという話があってな。その中に年に一回交流があるんだが、そこで世界樹から落ちた葉と人の作るものと物々交換があるって訳だ」


「そうか、じゃあ行ってくる」


「おいおい!? 人の話聞いてたか!?」


「あぁ、全く関わりがないって訳じゃないだろ? なら、可能性はある」


「可能性っておまえ……」



 完全に関わりがないって訳でもないし、可能性はある。

 なら、やってみる価値はある。



「まぁ大丈夫だ。問題になりそうなら止めるし、俺個人としていくからな。それに俺は今、気分転換したい気分でな、たまたま南の方にクロと一緒に美味しい物を食べようと観光に行って道に迷って大森林に入る。それだけだ」


「ショーマ、おまえ……」



 クレイは今までに見せた事ない泣きそうな顔で俺を見ている。

 こいつもなんだかんだで父親なんだな。



「おいおい、男が泣くなよ」


「うるせぇ! ゴミが目に入っただけだ」


「そうか、じゃあこれを預かっててくれ」



 俺はそう言ってギルドカードをクレイに差し出す。

 もし、なんかあった時にギルドカードを見られてギルドと関係があると思われたらダメだしな。



「……本当にすまない」


「何を言ってるんだ? 俺はただ観光に行くだけだ。まぁ土産持って帰ってくるつもりだけど、期待しないで待っててくれ」



 俺はそう言って踵を返し、手をひらひらと振って出口へと向かう。


 後ろからはらしくもない、クレイの「すまない……」と弱気で呟く声が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ