やっぱりこいつらは変わっていると思った
「……オークキングとゴブリン王の討伐?」
「そう、その時の事が聞きたかったんだ。僕たちその時、街にいなかったから」
そう言えば、クレイとルークスがこの国のSランク冒険者は今はいないって言ってたな。
もしかして……というか間違いなくアースがそうって事だな。
それにしても大陸一の国のSランク冒険者がアースってのは……残念だ。
「そうか、分かった。いいだろう。でも、なんで街にいなかったんだ?」
俺はそれが気になった。
Sランク冒険者ならたいていの依頼はカイトみたいに一日で終わらせるだろうし、あの討伐の時は発見から討伐までに時間もあった。
考えられるとしたら重大な依頼だったとかだけど、もし、そうならどんな依頼かってのを聞いてみたい。
もしかしたら、アースとミリアなら口を滑らせて言うかもしれないからな。
「それは……」
すると、アースは気まずそうに視線を逸らす。
そして、ミリアも視線を落とした。
やっぱり鈍感系残念タイプと天然系ドジっ子と言えど、高ランク冒険者か。
やはりオークキングとゴブリン王の討伐の時は機密の依頼を受けていて、それに関しては口を割れないと。
「分かった、我が間違っていた。そうやすやす依頼内容を言える訳じゃないな」
「いや違うんだ」
「違う? どういう事だ?」
「それはその……」
そう言うとアースはまた視線を逸らした。
いったいどういう事なんだ?
「じ、実は依頼受けてる途中で道に迷ったんです!!」
「……えっ?」
あまりに予想外の言葉に俺は闇夜の黒騎士から一瞬、素に戻ってしまった。
えっ、道に迷った?
そんな事あり得るのか?
俺が呆気に取られていると、目の前でミリアとアースが、
「ち、違うんです! 二人とも初めて行く場所でそれで――」
「ミリア!? それを言っちゃダメだろ!? AランクとSランクの冒険者が道に迷ったなんて言ったら――」
「で、でも本当です! 嘘はついちゃいけないって小さい時からいつも言われてたでしょ?」
「それはそうだけど……」
「私だって恥ずかしい事っていうのは分かってます。でも……」
「そうだなミリア、僕が間違ってたよ。ミリアは悪くない」
という三文芝居を目の前で繰り広げてくれた。
何をやってるんだか……。
でも、この二人の話聞いてると昔からの知り合いというか幼馴染っぽい感じだな。
それにしてもSランクとAランクの冒険者が迷子とか……あり得るか。
実力と性格はイコールではないっていうカイトの前例があるもんな。
それにしてもSランクっていうのは変わってるやつが多いのか……。
俺もSランクになったら性格変わったりするんだろうか?
……いやいや、そんなはずはないしそんな事になったら困る!
「……それでオークキングとゴブリン王の討伐の何が聞きたいんだ?」
「えっ? 依頼の話は?」
「それはもういい」
誰が迷子になったって話を聞きたがるんだ。
「そうか。なら、良かった! 僕とミリアにとっても恥ずかしい話だしね」
そう言って微笑むアース。
こいつ……心底マイペースだな。
「聞く気がないなら帰るが?」
「待ってよ! そうそう、聞きたいんだ。魔剣の事が」
「魔剣?」
魔剣の事を知ってるのか?
まぁSランク冒険者はギルドからいろんな情報を得ていても不思議はないか。
「その件か」
「そう、その剣」
ん?
なんかニュアンスが違った気がするけど……。
「ギルドから聞いたんだけど、僕もこの国のSランク冒険者として異変は知っておかないといけないと思ってね」
「異変?」
「うん、だってオークキングとゴブリン王が同時に出てきて、魔剣持っているなんて普通じゃないよね?」
確かにそうだけど……こいつこういう時は普通になるんだな。
「分かった。じゃあ場所を変えよう」
会話の内容は普通になったと思ったけど、街中を歩きながらこんな内容の話を聞くなんてのはやっぱり普通じゃないなと考えを改め、場所を変える事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「という事で場所を貸してくれ、クレイ」
今日は朝から城に呼ばれた事もあり、ちょうど今はギルドの受付をクレイがしている時間だ。
それを思い出した俺はギルドへ来てクレイに部屋を借りようとした。
この話は機密の部類に入る話だし、それに話を聞きたがっている相手がこの国のSランク冒険者だからクレイも知らない顔は出来ないだろう。
「だから、どういう事なんだよ! ……ったく、いつも面倒事持ってきやがって。ほら、使え」
そう言いながらクレイは受付を離れられないからか、会議室の鍵を貸してくれた。
やっぱりなんだかんだ言っていい奴だな。
てか、後ろのアースとミリアを見て関わらない方がいいと思ったのかもしれないけど……。
「ギルド長とそんなやり取りできるなんて、さすが闇夜の黒騎士さんだね!」
「でも、目上の人にはちゃんとした言葉で話した方が……」
「……行くぞ」
俺は『今日はなんて日だ』と思いながら、会議室へと足を進めた。




