そうだ、冒険者ギルドへ行こう!
「はぁ~……やっちまった」
俺は今宿屋の部屋で絶賛後悔中だ。
セシリーに一目ぼれしたからといって、あの場であんな発言するなんて……。
しかも、相手は王女。俺の厨二発言を聞いたゼクスは大きな口を開けて驚いて、ルークスは笑いをこらえるのに必死になっていた。
さらに、セシリーの護衛の騎士は急いで俺とセシリーの間に入るし……あの時は厨二モードだったからダメージなかったけど、厨二モードが解けた今は恥ずかしさでいっぱいだ。
「でも、セシリーは可愛いな」
セシリーは本当に可愛かった。
二次元のヒロインがそのまま出てきたんじゃないかと思うくらい。
俺にコスプレの趣味はないけど、純粋に可愛いと思った。
しかも、性格もいい。
あれだけイタイ発言をした俺に対して護衛の騎士を下げ「ふふっ、お願いしますね、闇夜の黒騎士ショーマ様」と微笑んでくれた。
あれは俺に惚れたとかではなく、俺に合わせて言ってくれたのだろう。
でも、普通なら引くであろう俺の行動にそんなそぶりも見せず微笑んでくれた。
そして、俺の心はセシリーに完璧に奪われたのだ。
「まさか魔王になって恋するとは……」
魔族と人間の共存を目指して街に出て初っ端に恋をするとは……。
人並みな生活をしたいとも思っていたけど、一番最初にしたのが恋とは魔王なのに庶民すぎだろ、俺。
でも、相手は王女。
そこだけは庶民じゃない。
「ん、待てよ? 相手が王女?」
相手が王女→王女と結ばれる→魔族との友好の懸け橋の象徴→魔族と人間の共存→魔族と人族の王……。
「おぉ!! バッチリじゃないか! 無意識のうちにフラグを立てる俺、GJ!!」
俺は頭の中に出来上がったプランに一気にテンションが上がる。
ちなみに俺の正体を明かす事はとりあえず頭から省いていた。
「さて、そうと決まったらやらないといけない事はと……」
さっきまで落ち込んでいたのとは別人のように、心を切り替えて俺は考える。
「まず王女と付き合うには……というより、結婚も考えるとなると……」
俺は斜め四十五度上を行く発想でいきなり思考を先走りさせる。
「う~ん、と言ってもまずは顔を合わす機会がないとな。とりあえず軍に入るか騎士団に入るか……でも、そうするとその他大勢に埋もれちまう……よしっ! とりあえず有名なるかっっ!!」
誰にも縛られる事なく有名になって、セシリーと並ぶ。
うん、このプランだ!
「と決まったら、とりあえず異世界名物の冒険者ギルドだな!」
有名になるには冒険者ギルド。
これは鉄板だ。
よしっ、行動開始だ!
「あっ、その前に昼ごはん食べてからだなっ! 腹が減っては戦は出来ぬだ!」
そして、俺は意気揚々と宿屋の食堂へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、生死を分ける戦いの始まりだ」
宿屋でご飯食べ、気力に満ち溢れた俺はそう呟きながら冒険者ギルドの前に立つ。
なんてたって今日お金を稼がないと宿代が払えない。
浮浪者になってしまう。
転移魔法を使って魔王城に帰るって事は出来るけど、あれだけ啖呵を切った手前、俺には帰るという選択肢はない。
だから、俺はなんとしてもお金を稼がないといけない。
その為に俺は今日の宿代を先払いして、残ったお金でなるべく目立たないように普通の服を買って着替えてギルドにやってきたのだ。
真面目にお金を稼ぐべく、俺は衣装と共に闇夜の黒騎士は封印してある。
ちなみにちゃんと安いながらも冒険者としてやっていく為の装備も中古で格安で手に入れた。
とりあえず、ギルドに行くのにそれなりの恰好をしないといけないしな。
でも、そう思うとあの優男は結構お金くれたもんだ。
金持ちの息子だったのかもしれないな。
「うん、大丈夫! バレないはずっ!!」
闇夜の黒騎士である時の俺の顔しっかり見たのはルークスにゼクス、セシリーくらいだろう。
後の人は夜だから顔まで憶えてないだろうし、服装の方が印象に残っているだろう。
宿屋のおばちゃんは顔は知ってても、俺と闇夜の黒騎士が一致していない……はず。
セシリー達は城にいるし、国の公人だからむやみやたらに俺の正体は言わないだろう。
俺は気合を入れてギルドの扉を開け中に入った。
「ここが噂のギルド……」
中に入った俺の目に飛び込んできたのは、昼間から酒を煽っている男たちと、壁に貼られた依頼を見ているパーティーなど漫画とか小説でよく描かれているギルドそのものがあった。
俺はその光景に感激しながらも冒険者登録をする為、受付へと向かう。
「そして俺はここで絡まれて……」
とテンプレ的な展開を期待して向かったけど、 絡まれる事なく受付へと辿り着く。
俺は起こると思ったイベントも起きず、さらにギルドの受付の定番、綺麗な受付嬢を期待していたけど……。
「それでなんでここで受付がおっさんなんだよ……」
その受付にいたのは漁師のような色黒のガッチリしたオッサンで、一連の事にショックを受けた俺は頭を垂れる。
「悪かったな坊主、綺麗なお嬢ちゃんじゃなくてよ」
受付のおっさんは不機嫌そうに呟く。
「ほんとにな。なんでおっさんが受付してんだよ」
「仕方ないだろ、みんな昼休みで休憩中なんだから。休憩中に仕事させたら女は機嫌悪くなるからな」
そうか。
このおっさんは受付嬢の休み時間の確保の為に白い目で見られながらも受付に立っているのか。
そう思うと……。
「なんだ坊主? その憐れむような目はやめろ」
あっ、バレたか。
「仕方ない、憐れなおっさんの為に仕事をやろう」
「別にくれなくてもいいぞ? それに俺はおっさんじゃない、クレイだ」
いや、別におっさんの名前は聞いてないって。