Sランク冒険者の執念とそれを上回るもの
「これくらいで大丈夫か?」
「十分ですわ! 逆に多いくらいでっせ!」
「……」
カイトが去ってから五分。
カイトは十匹分サラマンダーのしっぽを片手に帰ってきた。
カイトを待っている間にヨーテルさんに聞いたけど、サラマンダーは尻尾を切っても生えてくる為、殺さずに尻尾だけ採取するのがいいらしいけど、動きが速く、攻撃もしてくる為になかなか難しいらしい。
だから、尻尾だけを取れる冒険者というのはAランク、少なくともBランクの上位でないと出来ないらしいけど、カイトはそれを探すところから五分で十匹やってしまった。
その執念、怖すぎる……。
そして、今俺の目の前では「これはほんのおすそわけですわ!」と言ってサラマンダーの尻尾をヨーテルがカイトに差出し、カイトが「いや、俺は手伝っただけだから」と言い「いやいや、これはせめてものお礼ですわ! お近づきのしるしに」とヨーテルが俺に通信イヤリングを渡した時みたいな言葉でカイトにサラマンダーの尻尾を渡した。
カイトは「そうか。それなら今回は遠慮なくもらおう」と受け取ったけど、俺からすればなんとも安い三文芝居にしか見えなかった。
「さて、帰ろうか」
「……おう」
俺は何とも言えない気持ちで返事をし、三時間かけてきたところを五分ちょっとでその場を後にすることになった。
ちなみに俺の頭の中ではグラムの笑い声が鳴りやむことはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「早かったですね」
俺達は帰りの道中も特に問題なく、街へと帰ってくる事が出来た。
もちろん、カイトの説得は出来ていない。
ヨーテルはというと依頼主用の別カウンターで手続きをしている。だから、ネリーさんのところへは俺とカイトだけだ。
「いや、カイトの奴が依頼主の依頼を早く叶えるのが冒険者の務めだからって言って五分で終わらせたんで」
カイトが闇落ちしようとも、俺の初めての同士であり仲間であり親友だ。
その恋路には協力する。
まぁ半分はカイトに対するいやみというかメッセージも込めてるけど。
「そうなんですか。さすがSランク冒険者のカイトさんですね。冒険者の鏡です」
そのSランク冒険者は闇に手を染めようとしてますけど。
そして、そのカイトはというと、ネリーさんに微笑まれドキッとして固まったまま顔が赤くなっている。
「でも、可哀そうですよね……」
すると、ネリーさんが視線を落としながら呟いた。
「何が可哀そうなんですか?」
俺は反射的に問い返してしまう。
「あっ、いえ、なんでもありません。ただ、一個人……女性として思っただけで……」
「何を思ったんです? 気になりますよ」
ネリーさんは少し考えた後、口を開いた。
「惚れ薬の効果は知っておられますか?」
「えっ? あぁ、ヨーテルさんに聞きました」
カイトは知らないかもしれないけど。
「そうですか。その惚れ薬っていうのはお聞きになった通り、お互いの気持ちが少しでもないと効果がありません。それは買う人には説明しないといけないですし、買う人は知っておられます。だったら……」
「だったら?」
「少なくとも買う人は相手の方といい関係なのでしょう。だったら惚れ薬になんて頼らず、まっすぐに想いを告げて欲しい……そう思っただけです」
うわ~……これカイトにはキツイ言葉だな。
まぁもっとも正論だけど。
横を見ると案の定、カイトが青い顔をしている。
「それに……」
「それに?」
「もし、好きでもない相手を好きにさせる惚れ薬があったとしても、女性としては真っ直ぐに来てほしい……そう思ったのです。……なんかすいません」
そう言うとネリーさんは俺達に礼をして書類の手続きに戻って行った。
「ショーマ」
「なんだ?」
俺とカイトは手続きを終え、ギルドから出て歩いている。外は日も落ち、辺りはもう暗くなっている。
「やっぱり俺が間違っていた」
「そうか」
俺はカイトの顔を見ずに言葉を返す。
きっとカイトは今、顔を見られたくないだろう。
ネリーさんの言葉を聞いて、自分の事を情けないと思って反省しているはずだ。
「俺はこんなのに頼らず、自分で頑張る事にした」
そう言うとカイトは何かを上に投げて月花を振るった。
すると、その何かは粉々に切られ風に流され消えた。
それを見ていた通りの人は驚いたり「すげぇ」と言っている。
きっと粉々になったものはサラマンダーの尻尾だろう。
「じゃあ俺とどっちが早く恋が成就するか勝負だな」
「えっ? ショーマも恋しているのか?」
「まぁな」
「相手は誰だ?」
「それはそのうちな。……あぁ、安心しろ、ネリーさんじゃないから」
「そうか。またいつか聞かせてくれ」
「あぁそうだな。俺達は仲間で親友だ」
「仲間で親友……いいな」
カイトも俺も不器用だ。
こうやって不器用が二人集まってもダメかもしれないけど、やっぱり信頼できる相談相手がいるというのは心強い。
「カイト、飲みに行くか?」
「そうだな、行こう」
「カイトのおごりだぞ?」
「あぁ、お礼にたっぷり飲んでくれ」
俺とカイトは飲みに街へと消えて行った。
そして、こうして俺とカイトは同じ片思い同士、真の親友になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、ショーマ聞いてるかぁ?」
「あぁ聞いてるって」
「俺はなぁ~ネリーさんの事が――」
「分かってる分かってる! 何回目だと思ってるんだ!」
一時間後、酒を飲んだ時だけは親友をやめたいと思う俺がいた。




