俺にできる事
「なるほど、だいたい分かった」
俺はとりあえずカイトの話を聞いた。
結構な時間話を聞いたけど、要約すると、どうやらカイトは最初ネリーさんを見たときは綺麗な人だとしか思ってなかったが、依頼の受付や報告をする時にいつも笑顔で優しく接してくれ、その笑顔に惚れたらしい。
カイト曰く、ティーランド国の受付の人はもっと事務っぽかったり、Sランク冒険者として見るから萎縮したり態度が違ったりするみたいだけど、ネリーさんは自然体で接してくれる(まぁこの辺はネリーさんからすれば、仕事として完璧にこなしているだけだと思うけど)のがカイトの心を奪ったようだ。
そして、カイトはネリーさんを意識し始め、一度話した人とは話せるという何とも普通だけど、カイトにとっては特別なスキルまで発動しなくなってギルドへと行けなくなったようだ。
恋の方はともかく、仕事の方はそれでいいのかよSランク冒険者カイトよ……。
「それで、俺はどうしたらいい?」
どうしたらいいいってか……正直俺も恋愛マスターって訳ではないし、むしろ俺もルーキーだ。
こっち(恋愛)に関してはチートも何もないしな……。
それでも一つ分かる事はある。
それは会わなかったら何も起きないという事だ。
「よし、とりあえず会いに行こう。行くぞ!」
「えっ? ちょ、ちょっとショーマ!?」
そう言って俺は、Sランク冒険者であるカイトを引っ張って連れて行くという暴挙に出た。
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「カイト様、こちらの依頼でよろしいのでしょうか?」
俺は逃げようとするカイトを強引に引っ張ってギルドへとやってきた。
普通ならBランクの冒険者がSランクの冒険者を引っ張るというのは変な話なのだが、カイトはそんな事へと頭が回らず、ただただ逃げようとしていた。
本当、恋は盲目だ。
そして、ギルドの中へ入ると、俺は受付がネリーさん達に代わっているのを確認して大きな声で「さぁカイト、依頼を選んで来い!」と言ってネリーさん達の視線を集め、逃げられないようにした。
すると、カイトは渋々依頼の張ってあるところへと向かい、一つの紙を取ってネリーさんの元へと向かった。
その姿は本当に一昔前のロボットかというくらいガチガチでとてもSランク冒険者に見えるものではなかった。
それにしてもカイトのやつは、俺が厨二モードと反省モードを持っているとしたら、あいつは人見知りモードと仕事モードとヘタレモードを持っているな。
俺はそんな事を思いながらカイトの様子を見ていた。
ちなみにクロは眠くなったのか、頭の上で寝ている。
『なんかおもしれぇ展開になってきたな。まさか月花を持つ奴があんな奴なんて』
すると、グラムが話しかけてきた。
『グラムよ、恋っていうのは弱者も強者も関係ない。惚れた人の前では等しく弱者なのだ』
『な、なんだ!? みょうに説得力のある台詞だな。まぁショーマもセシリーに会いにいかなくてヘタレてるのと一緒って事か』
『うるさい! 黙ってみてろ!』
俺は心の中で怒鳴って意識をカイトへと戻した。
「……イイテンキデスネ」
ネリーさんがカイトから依頼の紙を受け取り、確認しようとしたところでカイトが声をかけた。
これは俺がギルドへ向かう途中に逃げようとするカイトになんでもいいから、仕事以外の話をしろってアドバイスしたのを実行したものだと思われる。
でも……。
「アカンだろこれ……」
俺が思わず言葉を漏らすほどにカイトはダメだった。
なんていうか、ものすごくカタコトだし、脈絡も何もなかったしタイミングも悪いし。
案の定、ネリーさんはポカーンとなった。
でも、すぐさま「そうですね、今日はいい天気なので気分もいいですね」と笑顔で言葉を返した。
さすが、大陸一のセイクピア王国御膝元のギルドの看板受付嬢、フォローも対応もバッチリだ。
その姿を見たカイトはもう顔が赤くなって動きが止まっている。
純情すぎだろ……。
「あれ? この依頼Fランクの依頼ですね。すいませんカイト様、こちらの依頼はSランクであるカイト様が受ける事は出来ません」
なに!?
あいつテンパってFランクの依頼持ってったのか!?
カイトはネリーさんの言葉を聞いてやってしまったって思いと恥ずかしいのやらいろんな感情が混じっているのか、顔が赤くなったり青くなったりしている。
なんかの毒に盛られたんじゃかいかと思うくらいだ。
「す、すぐに選びなおしてきます!」
カイトは敬語でそう言って物凄いスピードで依頼の張ってあるところへと走って行った。
あいつ大丈夫か……?




