やっぱり怒られた
「もう何やってるんですか!!」
拠点に戻るなり早々俺はセシリーに怒鳴られた。
その姿は王女の恰好はしているが、もはや王女としての言葉使いではなく、シシリーと言った方が近い。
隣にはおそらく護衛できたであろう騎士がその姿に驚いている。
そして、俺から少し離れたところでは同じくリリとララがマリアさんに怒られている。
本来であればマリアさんはこの場に来られないだろうけど、セシリーが気を利かせたんだろう。
マリアさんは王女であるセシリーが近くにいるのも忘れて、先生のように二人を叱っている。
リリとララは泣きながらもちゃんと反省し、そして二人はマリアさんに抱かれた。
良かったな、二人とも。
「ちゃんと聞いてますか!?」
二人の事が気になってそっちに意識が行っていると、俺はセシリーに怒られた。
まるで、母親にしかられる子供のようだ。
ショーマの俺ならここでセシリーに頭を下げ謝るだろう。
しかし、今の俺は闇夜の黒騎士。
俺は迷惑をかけたかもしれないが、闇夜の黒騎士としてでしか出来ないと思う事をやったと胸を張れるし、仕事はこなした。
それに俺は主の願いを完遂できたと思っている。
ショーマ個人とは違い、騎士である闇夜の黒騎士は騎士として主の為にこそ行動するもの。
なおかつ、みんなにも被害が出ないようにやったつもりだ。
「聞いている」
「それなら――」
「我が主、セシリーよ」
俺はセシリーの言葉を遮って言葉を口にする。
俺が口を挟むとは思わなかったのか、そもそも王女である自分が話している時に口を挟まれる事がなかったのか分からないけど、セシリーは驚いた顔をして言葉を止めた。
「我は主であるセシリーの願い、そして我が加護を受ける子供を助けた。そして、その二つの目的を達成するために多くの危険を負わせた。我は行った事に後悔はないが、どんな罰でも受けよう」
俺はそう言ってまっすぐにセシリーを見る。
「そ、そこまで……私はただ……」
「はは! 違うよ、セシリー王女は君を心配して言ってるだけだし、そう言う意味で言ってるんじゃないよ!」
「ル、ルークス!? なにを言っているのです!?」
突如として話に入ってきたのはルークスだった。
こいつ、セシリーの前でもこんなキャラなのか?
てか、なんでここに?
「あぁ、すいませんセシリー様、つい城の外という事で気が緩み失礼が過ぎました」
そう言ってルークスは片膝をつく。
「別にそこは私は気にしませんけど、その……」
セシリーは少し困ったようにもじもじする。
「では、闇夜の黒騎士さんが一人で危険を冒した事が心配で怒ったって言ったところが問題で?」
「ルークスッ!!」
セシリーが俺の心配?
マジで?
そうだとしたら嬉しいけど。
「俺も心配したぞ、ショー……闇夜の黒騎士」
「カイトか」
振り返るとそこにはカイトがいた。
「一人でオークの集落へ乗り込んだと聞いた時は驚かされたぞ」
「ふっ、我にとってオークごときは問題ではない」
「オークごとき……いや、オークキングもいたんだが……本当にショ、いや闇夜の黒騎士ってのは分からないな」
「その意見には同感だね」
セシリーとの話が終わった事でルークスが話に入ってきた。
その後ろにはまだ頬を膨らませて怒っているのか拗ねているのか分からないセシリーもいた。
「……何が分からないのだ?」
「いや、オークキングの単独討伐って普通はSランクくらいの実力……少なくともAランクの上位でないと無理なんだけどね、それを単独で討伐するだけでなく、他のオークも逃がさずに壊滅なんて君はいったい何者かなって」
そう言ってルークスは俺を覗き込むようにして言って来る。
「我は闇夜の黒騎士だ。それ以上でもそれ以下でもない。ショーマからの助け……クロもいたしな。それに我にとっては貴様の方が何者か気になるがな」
俺は少し動揺しているのを平静を装って言葉を返す。
まさかこの依頼レベルがこれほどのものなんて……まぁ討伐隊が組まれる時点であれだけど。
それをやむ得なかったと言っても一人でオークを全滅ってのはやりすぎたか?
でもここは堂々としなければいけない。
今が闇夜の黒騎士で良かった。
これがショーマだったら絶対にボロが出てたな。
「ははは! 本当に君はおもしろいや! あ~、急きょセシリー様の護衛でゼクスに代わってくる事になったけど、君と話せておもしろかったよ」
そう言ってルークスは手を出してくる。
握手……か。
俺も手を出し握手するとルークスは俺に微笑んだ。
「あとの話は城に帰ってからにしましょう。いつまでもここにいるのもあれですし、報告もしなければなりません」
膨れていたセシリーだが、少し落ち着いたのか王女モードに戻って俺達に言う。
その事に俺達も頷き、帰る準備をする為に歩き出した。
「闇夜の黒騎士さんはのちほどゆっくりとお話をしましょう」
そして、俺は歩いてセシリーの隣を通り過ぎる時に笑顔でセシリーにそう言われた。
俺がその時、今までで一番の戦慄を覚えたのはいうまでもない。




