予想外の展開です
「はぁ~……やっちまった」
俺は今宿屋のベッドで絶賛後悔中だ。
昨日あの優男が手に握らせてくれたのはお金で、俺はそれを使って宿に泊まったのである。
「なんだよ、闇夜の黒騎士って……」
俺はあれだけ多くの人の前で恥ずかしくも厨二モード全開で二つ名を名乗ってしまったのだ。
人並みの生活をしようとセイクピア王国に出てきたのに、顔も隠さず悪目立ちしすぎてしまった。
もはや外にも出たくない。
すでに引きこもり希望だ。
俺、なんか後悔ばっかしてるような……。
「それに女の子を助けたと思ったら彼氏持ちで、そのくせに恰好つけてた俺ってダサすぎだろ……」
俺は目が覚めてから、こんな感じで昨日の事が頭の中でループし、反省と後悔ばかりしている。
「んっ?」
すると、ドアをノックする音が聞こえた。
なんだ?
ごはんの時間か?
「ごめんおばちゃん、ごはん良かったら部屋に運んでもらえる?」
俺はドアを開けずにドア越しにお願いする。
正直ごはんを食べるような気分でもないし、もし食べるとしても一人で誰とも顔を合わさずに食べたい気分だ。
「そりゃいいけどさ、あんたに客だよ!」
「俺に客?」
「王国騎士団だよ! あんた何したんだい!?」
「……えぇえええええ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「この度は我が軍の者が迷惑をかけてすまなかった」
俺の目の前でいかにもイケメンの金髪の青年が頭を下げる。
俺はあの後、逃げ出そうかとも思ったけど、宿屋のおばちゃんに迷惑はかけられないと思ってご飯も食わずにとりあえず騎士団に会う事にした。
そして要件を聞くと、昨日の件で迷惑をかけた謝罪をさせて欲しいときたではないか。
話を聞くと、昨日のゼクスとかいう男は軍の者で、実力はあるけど、酔うと手が悪いらしい。
そんな者が軍にいていいのかとも思ったけど、やはり軍には力が必要なんだろう。
少々クセがあっても目を瞑るんだと思う。
ちなみになんで俺の身元が分かったかというと、全身黒づくめの男で聞きまわるとすぐに分かったらしい。
「いやいや、別に怪我もしてないし」
俺は普通な感じでイケメンに言葉を返す。
心には傷を負ったけど。
「そう言ってくれると、助かるよ」
イケメンはそう言うと顔を上げて微笑む。
何とも様になる光景だ。
でも、こう見えてこのイケメンは若くして王立騎士団の団長兼国軍のトップというとんでもないやつらしい。
名前は確かルークスとか言ったな。
普通は騎士団と軍とか兼務できないと思うけど……それだけ特別って事か。
「小僧……いや、闇夜の黒騎士さんよ、昨日は悪かったな」
そして、その隣でゼクスが頭を下げる。
昨日と打って変わってまともだ。
このゼクスも軍ではルークスに続くナンバー2らしい。
こいつがナンバー2で大丈夫かと思ったけど、昨日は久しぶりに飲み過ぎてやってしまったようだ。
でも、飲み過ぎたとはいえ、ダメだろう。
よく、あのカップル訴えなかったな。
「おう。あんたはちょっとしっかりしてくれ」
「なんか扱いに差がないか!?」
ルークスって奴は何も迷惑受けてないけど、おまえには迷惑かけられたからな。
それと、日本では国に仕える公務員はちょっとした罪でも罰せられるんだから、一般人に絡んだおまえもちゃんと反省しろ。
それに、なんたって俺が悪目立ちしたのと、ハートブレイクしたきっかけを作ったんだから。
「ははは、君やるね! そう言えば名前は?」
『我の名は闇夜の黒騎士。名などない』なんて事は言わない。
今はそんな気分じゃないからな。
「俺の名はショーマだ」
「ショーマか。うん、良い名だ」
ルークスはそう言って頷く。
なんだろう……なんて事ない動作一つ一つが様になるっていうのは。
その横でゼクスが「闇夜の黒騎士ショーマか……」と呟いている。
頼む、その二つ名と俺の名を繋げて言うのはやめてくれ。
それに俺は実は魔王だ。
「それはそうと君、強いらしいね。どう? 戦ってみない?」
そう言って、ルークスは最初の固い感じとは打って変わって少年のような表情になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
え~なんでこんな展開になったんでしょうか。
俺は城にある訓練場へ連れて来られました。
そして、訓練場の中にはたくさんの観客がいます。
ゼクスは俺とルークスの間に立っています。
そして、ただいま俺の目の前で騎士団長兼軍ナンバー1とかいう化け物と噂されるルークスが剣を持って構えています。
俺も同じく剣を渡されましたが、俺は剣を振った事なんてありません。
昨日の話の続きだから普通に取っ組み合いでもするかと思った俺がバカでした。
ルークスは「闇夜の黒騎士だから剣できるでしょ?」と言って渡してきました。
当然、俺は否定したけど、「そんな冗談でしょ?」と言って軽く流されて今に至ります。
なんでしょう?
魔王だってのがバレたのでしょうか?
俺はこのまま討伐されちゃうんでしょうか?
「準備はいいかい? 闇夜の黒騎士ショーマ君」
「ふっ、愚問だな。闇夜の黒騎士としてここに立っている以上、俺はいつでも戦闘態勢だ」
俺は闇夜の黒騎士ショーマと呼ばれ、厨二モードにスイッチが入った。
ふっ、こうなった以上は闇夜の黒騎士の力を見せてやろう!
「じゃぁ……行くよっ!」
そうルークスが言った瞬間に、ルークスの姿がブレた。