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いろいろと『ありえない』って思った

「……はい?」



 どうやら俺の耳は悪くなったようだ。

 いや、それとも何かの毒にやられたか何かの魔法で幻聴を聞かされているか……。

 

 いや、そもそもネリーさんが俺の手を引いて走ること自体おかしな話だったしな。

 とういう事は幻惑系の魔法か何か……。



「おいショーマ、聞いてるか?」


「ふっ、俺は惑わされないぞ。本当のクレイはどこだ? いや、本当の現実はどこだ?」


「おい小僧……」


 

 気をしっかり保つんだ俺。

 相手の話に乗るのは癪だがここは闇夜の黒騎士になり、心を強く持たなければ。



「あはは!! まぁ驚くのも無理ないよね! でも、ショーマ君、一つ言っておくと闇夜の黒騎士がショーマ君だってのはクレイから君がドラゴンテイマーになった時に教えたから知っているよ? だってギルドで混乱されても困るからね!」


「なん……だと……?」



 俺の黒歴史が白昼にさらされただと……?

 まさかネリーさんも……?



「あぁ、最初はびっくりしたがな。まぁでもそれを聞いたらおまえがドラゴンテイマーってのも納得できた。あのゼクスとやりあって無傷で勝った上にルークスとやりあえるなんてな。今までは知らないふりしてたがな。まぁ安心しろ、これを知ってるのはギルドでは俺とネリーだけだ」


「あぁ~うぅ~……」


 俺はクレイの言葉に頭を抱え込む。


 ネリーさんに知られているとは……。

 自分で闇夜の黒騎士として何かやって知られた訳じゃなく人づてに知られるなんて。



「あはは!! そんなに喜ばなくても」


「どこをどう見たら俺が喜んでいるように見えるんだ!?」


 

 むしろ怒ってるわ!

 俺の個人情報勝手に流しやがって!!



「そんな怒らないでよ。でも、僕のおかげでその遺跡で見つけたっていうグラムも所持できているんだし?」


「あっ……」



 なんか俺が持ってても大丈夫だろうと口添えした者がいるって聞いたけど、ルークスだったのか。

 実力者だから持たせていても大丈夫だろうと。


「ね? だから、これでチャラ。それより話を戻そう」


 くそ、確かにこの魔剣グラムを持たせてもらっているだけ何も言えない。

 それに、もう知られている事だし今さらとやかく言っても仕方ない。


「……チャラじゃない、貸しだからな」


 俺はそう言って「いや~厳しいねぇ~」と言ってるルークスを尻目に「あのルークスに向かって……」と言ってるクレイに向き直る。

 俺にとっては相手がルークス相手でも関係ないし、クレイもなんだかんだルークスを呼び捨てにしているから気にしない。



「それで闇夜の黒騎士に用って?」

 

「あ、あぁ、実は山でオークキングとゴブリン王が確認された」


「オークキングとゴブリン王!?」



 それってよくファンタジーの世界であるあれ!?



「そうだ、この前の戦闘狼ウォーウルフの件で、ギルドの方で調査を続けたところ、山でゴブリンの集落とオークの集落を発見した。そして、その集落の中でゴブリン王とオークキングが発見された。どうやら、そのせいで戦闘狼ウォーウルフは人里へとおりているようだ」


 いやいや、普通はゴブリン王とかオークキングって同時に発生しないもんでしょ?



「……そんな事ってあり得るのか?」


「いや、前例はない。でも、奴らは存在している……それが事実だ」



 なんで今までなかった事が急に……?

 まぁでもそれを言ってても仕方ないか。

 

 事実は小説よりも奇なりって言うしな。



「それで俺……いや、闇夜の黒騎士に何をして欲しいんだ」


「それは――」


「それは僕の方から説明しようか」



 すると、ルークスが一歩前に出た。



「実は二つの集落は少し離れたところにあってね、一か所を攻めている間にもう片方の集落が危険を察知して逃がすような真似をしたくない。それで同時攻略しようと思うんだけけど、ゴブリン王とオークキングはどっちも強くてね。普通の者では太刀打ちできない。そこでオークキングの方をカイト君に、ゴブリン王の方をショーマ君……いや、闇夜の黒騎士にお願いしたいって訳」



 そういう事か。



「でも、なんでお前が行かないんだよ。おまえなら余裕だろ?」


「僕? 僕も行きたいのはやまやまなんだけどね、いざという時はこの街を守らないといけないから」


「じゃあ、なんでショーマとしての俺じゃなくて闇夜の黒騎士なんだ?」


「だって、まだショーマ君はCランクでしょ? さすがにオークキングのところにCランクの冒険者を送れない。でも、闇夜の黒騎士は酔っていたとは言え、ゼクスを完封したっていう噂が広まっているしね」


「うっ……」


 確かにそうだ。

 それに、あの時の俺はこの街に来てすぐだったから顔を見られていてもそれがドラゴンテイマーのショーマだという事に結びついていない。

 だから、自分に本気を出させようとするくらいの強さである俺に頼むって訳か。


「分かってくれたみたいだね。じゃあこれをあげよう」


 そう言ってルークスは何かを差し出してきた。



「これは……」


「今の君は有名人だからね、素顔で闇夜の黒騎士って名乗ったらバレてしまうからこの仮面をつけてやってね」



 ルークスから差し出されたのは、目の周りを隠すあの仮面だ。

 まさか、闇夜の黒騎士の装備が増えるとは……。



「じゃあよろしくね、闇夜の黒騎士さん」


「ふっ、我に任せれば安心だ」



 俺は仮面をつけて返事をした。


 こうして俺は依頼を受け部屋を出る。


『……おい、ショーマ。あいつは何者だ?』


 部屋を出た瞬間、グラムが話しかけてきた。



『あいつ? あぁ、ルークスの事か?』


『あぁ、なんか得たいの知れねぇ気配を漂わせてやがる』


『俺も詳しく知らないけど、確かに得たいの知れない奴だな。でも、俺も詳しく知らないし分かってるのは国の騎士団長兼軍のトップで本気出さないで魔気を使わない俺と同等ってくらいか』


『……ショーマ、あいつには気をつけろ』


『なんだ? 何かあるのか?』


『いや、それは分からねぇけど、何か嫌な予感がする』


『……そうか、分かった』


 そう言うとグラムは話さなくなった。

 まさかグラムもルークスの事を怪しむなんてな。

 まぁ確かにあいつは怪しいところが多いけど。


 ……とりあえず警戒しとこう。


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