魔剣グラム
自分でもなんでそんな事をしたのか分からない。
でも、なぜかこの剣は俺が抜かないといけない気がして、勝手に体が動いて気づけば抜いていた。
「それでなんでこんな事になってんだ!?」
俺が剣を抜いた瞬間、カイトの動きが止まった。
というより、周りの時間が止まったような感じだ。
「ヒャッハー! やっと出られたぜ!」
「誰だ!?」
俺は突然聞こえた声に反応するけど、周りには誰もいない。
……いや、カイトはいるけど動いている様子はないし、それにこれはカイトの声じゃない。
「ここだ、ここ!!」
「どこだ!?」
俺は辺りを見回すけど、それらしい人影はない。
なんだ? 透明人間?
……いや、もしかして神とかか?
「だからここだって!」
「だから、どこだってんだよ!」
「だからここだ! おまえの手の中だ!」
「おちょくるのもたいがいにしろ! 俺の手には剣しかない!」
「だから俺がその剣だ!」
「えっ、剣!?」
俺は自分の手に持っている剣をマジマジと見つめる。
でも、剣に口がついていたり顔があったりする訳でもない。
変わっているのは刀身が真っ黒という事くらいだろう。
「……」
「そんなマジマジ見つめるなって! 俺にその趣味はねぇぞ!」
「うわっ!」
すると、声が言う通り剣の方から声が聞こえる。
「……俺、疲れてるのかな」
「いや、そうじゃねぇ! おまえの耳は正常だ! 俺は魔剣グラム、おまえが封印を解いた剣だ!」
「……は?」
「驚くのも無理ねぇ。俺は魔剣グラム。遠い昔に神を殺す為に作られた剣だ。もっともそれが理由で封印されているけどな」
そう言って魔剣グラムとか言う剣はゲラゲラと笑っている。
いや、俺別に何も面白くはないけど。
「そうか。じゃあもう一度封印すればいいんだな。さて、どうやって――」
「おい! せっかく封印が解けたのにやめてくれって!」
「でも、封印されてたってのはやばいもんなんだろ? だったら――」
「いや、俺は何もしちゃいねぇ! 俺を作った当時の人間が神を倒そうとして天罰が下っただけだ! そいつらはもう生きちゃいねぇ! だから俺は無害だ! おまえは神を殺そうとか思わないだろ? それに俺が無害じゃなかったら封印じゃなくて壊されてるって!」
さっきまでの上から目線が嘘のように必死に話してくる剣。
なんだかなぁ~……。
でも、確かにこいつのいう事は一理あるか。
こいつが危険な代物だとしたら封印じゃなくて破壊されてるだろうし、そう思うと、神ってやつも自ら望んでそういう風に作られた訳じゃないこの魔剣グラムってやつを可哀そうに思ったのかもしれないな。
なぜかこんな人格あるし。
「そうか、じゃあもう一度封印――」
「今の流れでなんでそうなるんだよ!!」
魔剣グラムは怒って叫ぶ。
「いや、だって神が封印してものを勝手に解放したら俺に天罰下るだろ?」
いくら俺が史上最強の魔王だと言っても神に勝てるかと言われれば分からない。
そもそもこの世界を造った神を敵に回すなんて気はない。
俺は人並みな人生を送りたいだけだ。
「いや、それはねぇ。ここの遺跡の結界が解けたって事は神はもういねぇからな」
「はっ?」
「ここの結界は俺を封印した神の力が元になっている。それが解けたって事はその神はもういねぇって事だ」
「いやいや! そんな神がいなくなるとかってあるのか!?」
「そんなもん俺が知る訳ねぇだろ!? 神に寿命があるのかも知らねぇけど、死んだか、それかこの世界から離れたとかじゃねぇか? とにかくまぁここの遺跡の結界が解けてるって事は少なくとも俺を封印した神はもういねぇって事だ」
なんてこった、神がいないなんて……でも、まぁ地球でも神なんてのは科学的にはいないって事だしな。
異世界だから神がずっと世界を見守ってるって事もないか。
「だから、俺を連れて行け」
「いやいや、まぁ百歩譲っておまえのいう話が本当だとして俺がおまえをつれていくメリットは何がある?」
「俺は神を殺す為に作られた魔剣だ。だから、神……聖なる力に対抗する為に闇の力が元になっている。だから、おまえの持つその魔気を俺が変換して力にする事が出来る」
「なんだと!?」
まさか、俺の魔気を力に変換できるだと……。
「……それって魔気ってバレないのか?」
「あぁ、その辺は俺がうまくごまかせるぜ、ただの闇魔法のたぐいくらいの認識には出来る」
おぉ! という事は俺の力を出せるって事か!
じゃあ、もしかしてカイトの月花みたいに恰好よく戦えちゃったりするんじゃ……。
「……おまえをつれて行くのに、なんか制約はないのか?」
「俺をつれていくには契約をしてもらわないといけない」
「契約?」
「あぁ、契約だ。俺とおまえの魔力を同調させる為のものだ」
「……それだけか?」
「いや、あと一つ、契約以降はおまえのその魔気を一日一回は俺に供給してもらわないといけない。と、言ってもおまえのその魔気の量はハンパないから別に何の支障もねぇ」
「よし、契約しよう!」
「判断はぇな、おい!」
いや、だって何の支障もなくてカッコよく戦えるならそれはそうしたい。それにSランク冒険者になろうとしているからには、カイトみたいにカッコいい武器がないとな。
その点ではこいつの能力といい、魔剣グラムって名前といいこの漆黒の刀身とカッコいいし。
それに漆黒の刀身なんて厨二精神を刺激するし、闇夜の黒騎士にとっても最高の武器になるだろう。
万が一、神が出てきて返せって言われたら素直に返したらいいだろうし、それまでは俺の愛剣として使わせてもらおう。
「さぁ早く契約するぞ」
「……本当にいいのか?」
「あぁ、男に二言はない」
「さっきはする気なかったじゃねぇか」
「男ならそんな細かい事気にするな」
「おまえ無茶苦茶だな……」
俺と魔剣グラムはそんなやりとりをした後、契約を行った。