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本気で驚いた

「という訳で連れて来たぞ、クレイ」


「どういう訳だよ! それに来るならあと十分経ってから来やがれ!」



 いや、あと十分したらネリーさん達の休憩が終わってしまうしな。

 そうなったら人見知りで空腹で倒れるという間抜けな冒険者をネリーさんに押し付けてしまう事になる。

 それにクレイが受付してる時間は冒険者がほぼいないからな、カイトにとってもいい環境だ。


 それに、俺もなんだかんだでクレイとネリーさんしか話せないしな。

 と、なったらクレイに対応してもらうのが一番だろう。



「ったく、それでそいつがどうしたんだ?」


「こいつは他の国から自分の力を試そうとここに来た冒険者だけど、人見知りでギルドの受付に声をかけらずに、依頼を受けられなくてお金が尽きて倒れていた奴だ。だから、俺が顔つなぎに来た」



 俺はありのままに説明する。


 後ろからカイトの視線を感じるけど、気にしない。

 クレイに嘘は通じないようだからな。



「……それって本当か?」


「本当だ」


「……ぷっ、ははは!!」



 俺の話が本当だと聞くと、クレイはお腹を抱えて笑い出した。


 やっぱり俺の笑いのツボがズレていた訳じゃないようだ。

 だから、カイトの刺すような視線は流しておこう。


 それに、恥をかかせる為に言ってるんじゃなくて、こういうのは理由をちゃんと分かっててもらわないと後々問題になったりするしな。


 それで俺はクレイの笑いが落ち着いたのを見計らって、カイトの性格について説明してクレイにカイトへ声をかけるように頼んだ。



「おい、おまえも冒険者ならギルドカードあるだろ? 見せてくれ。ランク確認して依頼探してやるからよ」


「あぁ、すまない」



 声をかけてもらったカイトは人見知りを発動する事なく、クレイに言葉を返しながら自分のギルドカードを差し出した。

 いや、一声かけてもらえて人見知り直るなら人見知りじゃないような気もするけど。まぁ世の中にはいろんな人がいるって事か。


 ちなみに、ギルドは国に捉われずに世界共通らしく、どこの国に行ってもそのカード、ランクが通用するって説明をクレイではなく、ネリーさんに聞いた。

 クレイはその辺の細かな説明はネリーさんにさせようとしていたらしい。それを知ったから余計にクレイの時に依頼達成の報告をしてやろうと思ったんだけど。


 そう言えば聞いてなかったけどカイトって何ランクなんだ?



「ふむふむ、ティーランド国出身で名前はカイトでランクは……Sランク!? おまえあのティーランド国の寡黙な仕事人って呼ばれているカイトか!?」



 ギルドカードを見たクレイは驚きの声を上げる。

 

 えっ!? Sランク!?

 しかも、二つ名持ち!?

 いや、空腹で倒れていた人ですけど……。



「……その名で呼ぶのはよしてくれ」



 カイトもクレイの言葉を否定しない。


 いや、本当に空腹で倒れていたカイトがSランク冒険者なのか……?



「おいカイト、おまえ本当にSランク冒険者なのか……?」


「あぁ、そうだ。あえて自分から言うほどの事でもないと思ってな」


「カイトがSランク冒険者……」


「そうだ、でもだからと言って気を使う事はない。ショーマは命の――」


「Sランク冒険者が空腹で倒れたって事か!? ぷっ、あははは!!」


「おい、ショーマ! Sランク冒険者を笑うんじゃね! 例え空腹で……ダメだ、ふははは!!」



 俺の笑いにつられ、クレイも耐えきれなくなったのか声を上げて笑い出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「悪かったってカイト」


「すまなかった」



 俺とクレイはしばらくの間、お腹を抱えて笑い続けた。

 すると、カイトは不貞腐れたように拗ねてしまったのだ。


 その後、休憩を終えたネリーさん達が戻ってきて俺とクレイはようやく笑いを収めた。


 本来ならここでクレイからネリーさんに担当が変わるところだけど、もう一度あの話をするのはカイトにも、そして俺とクレイにとっても被害が大きくなりそうなので引き続きクレイが対応する事になり、クレイの計らいでギルドの会議室で話をする事になり、俺とクレイはカイトに頭を下げている。



「……もう笑わないか?」


「あぁ」


「おう、たぶん」



 俺は絶対にとは言えないからクレイとは違い、正直に『たぶん』と答えた。

 そんな俺をカイトはジト目で見たけど、少しして大きく息を吐いた。



「ショーマはいい奴なのか悪い奴なのか分からないな」


「まぁ俺は俺って事だ」



 正直なところ、俺は魔王だし悪い奴と言われる方だと思うけど、今の俺は逆にコツコツと働き人の助けになるような事をしている。

 自分でもいい奴なのか悪い奴なのか分からないけど、はっきりしているのは俺は俺って事だ。


そんな俺を見てカイトはまた大きく息を吐いてクレイへと向き直った。



「それでいろいろあったが、俺はこの国で自分の力を試して行きたい。だから、ここで依頼を受けさせて欲しいんだが?」


「あぁ、別に問題はねぇ。ちゃんとティーランド国も認めてるみたいだしな」


「ティーランド国が認めてる?」



 どういう事だ?



「あぁ、まだショーマは知らないわな。冒険者はSランクになる時にギルドを通して国から名誉を授かる。その際に国から離れる時は国に報告し許可が必要になるのさ。まぁもっとも許可と言っても、止められる事はないし、どっちかというとSランク冒険者がどこにいるのかを把握したいって意味合いが強いからな」


「ふ~ん、そういうもんか」


「あぁ、そういうもんだ。」



「それで……」と言ってクレイはカイトへと向き直る。



「おまえさんが力を試しに来た理由ってのはあれか?」



「あぁ、そうだ。その時に俺の力が通用する者かどうかを大陸一の国で暮らしながら確認したいと思っている」


「おいおい、二人で何話しているだ? あれってなんだ?」


「悪いなショーマ、これは一部の偉いさんとギルド長、そしてSランク冒険者しか知らない事なんだ。だから、いくらおまえでも言えない。聞きたければ早くSランクになるかその時が来るまで待て」


 なんだ? 気になる言い方だけど……。

 まぁでも、あまりクレイを困らせるのは可哀そうか。

 生活していくのに特に何か重要って訳でもないだろうし。


 それにSランクになったら聞けるならこのまま依頼こなして行けばそのうちなれるだろうしな。

 なんたって史上最強の魔王なんだから。



「……分かったよ」


「いつもと違ってやけに素直だな。そう言ってもらえると俺としても助かるが……」


「俺だっていつも無理言ってる訳じゃねぇよ。俺がクレイを困らせているのはクレイが働かないからだ」


「なっ!? 俺だってちゃんと働いているわい!」


「それはどうしようもない時とかだろ? だから俺は普段から働けるようにクレイに仕事を持って行っているんだ」


「ぐっ……」


 クレイは俺の背後に何かを見たようで反論できなくなって言葉を飲み込んだ。まぁそこで反論したらネリーさん達からの反論が待っているからだろうな。


「取り込み中悪いがいいか?」


 俺とクレイのやりとりに呆気に取られていたカイトが恐る恐る言葉を発した。


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