変な奴と遭遇してしまった
「クロ、美味しいか?」
「キュウ!」
俺はいつも通り依頼をこなし、クレイに報告に行って得た報酬でクロと露店で買った肉の串焼きを食べながら通りを歩いている。
クレイはあれからだいぶ経つのに「いつもいつも俺のいる時に報告にきやがって。この前の戦闘狼の件だってだいたいなんで依頼受けたおまえじゃない奴が素材持って来てんだ? その確認と処理がどんだけ大変だったと思ってるんだ? それにおまえと一緒に街から出た人物についてもだ。ギルドカードの発行だけでも神経使ったのに、まさかランク上がる前に街から出るなんてよ――」とぶつぶつ言ってたけど、気にしない。
セシリーの件は俺がついて来いって言った訳じゃないし、俺がダメと言っててもいつかは出ていただろう。
それに後々セシリーの護衛の任務にあたっているルークスから許可されたしな。
と、いうかルークスの計らいで俺と一緒ならセシリーを街の外に出してもいいという許可が下りたってクレイ自身が言ってたし、どっちかというと俺は巻き込まれた方だ。
だから、俺が気を使う必要はない。
まぁセシリーと堂々と行動できるのは嬉しいけども。
ちなみに、セシリーとはあれから時々、通信イヤリングで連絡を取って孤児院に行ったり、俺の魔物の討伐に同行したりしている。
まぁセシリー自身は依頼を受けていないので、Fランクのままだけど。
セシリー曰く、自分が依頼をする事によって仕事がなくなったら困る人が出るかもしれないから……という事らしい。
だから、セシリーはタダ働きだ。
他の人の事を考えてタダ働き……本当に優しい女性だと思う。
見た目も良くて性格もいいし、俺が惚れるのも無理はない。
と、まぁちょっと話が逸れたけど、そういう事だから俺は気を使うつもりもないし、ギルド長ならやっぱりいっぱい給料もらっているだろうし働いてもらわないとな。
それに俺がネリーさんと話していると他の冒険者の雰囲気が悪くなる。
他の受付嬢に行けばいい事かもしれかいけど、基本俺はシャイだ。
初対面の女性と話すのは苦手な部類に入る。
話さないといけなければ話せるけど、話さないでいいなら避けたい方だ。
だから、これまで通り報告は基本的にクレイにしようと思う。
「キュウ!」
「ん? あれは……」
俺とクロが一仕事終えた後のひと時を肉の串焼きを楽しみながら、宿屋に戻る為に近道しようと裏道に入ると倒れている人物が目に入った。
「さすがにこれほっとく訳にはいかないよな」
うつ伏せで倒れている人物は灰色の髪で、その髪を後ろで髪を括っている。
見た目的には血を流したりしてないし、外傷もなさそうだ。
一瞬女性かと思ったけど、近づいてみると身体の造りを見た感じ肩幅も広そうだし、筋肉もついているからたぶん男だろう。
「おい、大丈夫か?」
俺は倒れている人物を起こして声をかける。
顔を見るとやはり男でその顔はイケメンに分類されると思う。
顔のパーツがしっかりしていて、ルークスのよう優男っていうよりは『ザ・男』って感じの顔だ。
でも、ここは普通可愛い女の子とかが倒れているパターンだろうに。
なんで、俺はこうも展開を裏切られるんだ?
「おい、しっかりしろ! 何があった?」
俺は心の中でそう思いながらも目の前の男に声をかけ続ける。
すると、男は瞼を動かし少し開いた。
「大丈夫か? どうした? 何があった?」
「…………た」
「ん? なんだって?」
「腹が……減った……」
それを聞いた俺はフリーズしてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「かたじけない、助かった」
そう言って倒れていた人物は俺があげた肉の串焼きを物凄い勢いで食べると、正座をして姿勢を正して俺に頭を下げた。
「いや、別にいいけどなんで腹が減って倒れてたんだ?」
見た感じ、いい俺と同じくらいの年齢だと思うしいい大人(この世界では16歳で成人。だから俺も大人)だと思うけど。
それにしてもこいつの話し方といい行動といい、少し昔の日本っぽいとろこあるな。
今気づいたけど、なんか持っている剣も刀っぽいし。
「……」
「なんだ言えない事情があるのか?」
「いや、そうではい。しかし……」
「しかし……?」
「笑わないか?」
「たぶん」
何をそんなもったいぶってるんだ?
それに、だいたいなんで俺がセシリーとしたようなやりとりをおまえとしなくちゃいけないんだ。
「……自分を救ってくれた方に話さないと言うのは失礼だな」
そう言うと男は正座のまま姿勢を正した。
見事な正座だ。
あぐらをかいて座っているところの上に、お腹いっぱいになって満足して寝ているクロがいる俺の見た目とは違って物凄く絵になっている。
まぁ俺の方もほのぼの度からすれば絵になっていると思うけど。
そうこう考えているうちに男は口を開いた。
「まず、自分は東にあるティーランド国で冒険者をしているカイトと言う。この度、自分の力を試そうとティーランド国から出てこの大陸一の大国であるセイクピア王国へと出て来たが、自分は人見知りで初対面の人とはなかなか話せないのだ。それで、この街に来て二週間、ギルドで依頼を受ける事も出来ず、持ってきたお金も尽きてしまって倒れたのだ。」
そしてカイトは「一度話した相手とは話せるんだぞ! それに向こうから話しかけてくれたらもう大丈夫だ! 初対面の人に俺から話しかけられないだけだ」とまくし立てるように言い訳している。
……えっ?
いろいろツッコミどころ満載なんですけど!?
「……それってマジ?」
「本当だ」
「……ぷっ、ははは!!」
「だから笑うなと言ったのだ!」
いやいや!
どうやったってこれは笑うでしょ!?
「いや~すまんすまん、でもどうしても我慢できなかったんだ」
俺の言葉にカイトは不貞腐れている。
でも、笑ったのは悪気があった訳じゃない。
どうしても我慢できなかっただけだ。
「悪かったって! そう怒るなよ! その代わりギルド職員と顔繋ぎしてやるから」
「本当か!?」
「あぁ」
まぁ串焼き分以上に笑わせてもらったしな。
それに同業者がまた空腹で倒れたなんてなったらなんか恥ずかしいし。
「それは助かる! 命の恩人だ!」
カイトはそう言いながら俺の手を握り上下に激しく振る。
「おおげさな……そうだ、俺名乗ってなかったな。俺は同じく冒険者をしているショーマだ」
「ショーマか。いい名だ。よろしく頼む」
「いい名かどうかは分からないけどな。ほら、じゃあ行くぞ」
俺はそう言って何とも間抜けな冒険者カイトを連れて来た道を戻り、ギルドへと向かった。




