闇夜の黒騎士誕生!
「よし、誰もいないな!」
厨二モードに移行してもちゃんと人気のない場所を選んだ俺。
まだまだ冷静だ。
「さて、これからどうするかな」
とは言え、ここに来る事もノープランだったし、今は夜でお金を稼ごうにも異世界名物のギルドは今の時間は酒場に様変わりして、依頼を受ける事はもちろん、ギルド登録もできないだろう。
いったいどうしたものか……。
「一人で行動するとは言っても、ノープラン過ぎだろ、俺」
勢い早々に今日の行動に詰んでしまった俺は突如、厨二モードが解け、反省モードに入る。
「だいたい街を見下ろしながら、全て我の物だ! なんて言ったくせにこの始末とは……って手に入れるつもりもないのに、そんな事言ってないで生活するプランを考えるべきだった」
誰もいないところで俺は項垂れる。
「や、やめてください!!」
その時、俺の耳に女性の叫び声が聞こえた。
「これはテンプレ展開!? フラグ!? とにかくイベントが俺を呼んでいる!!」
ノープランでどう行動するか迷っていた俺は自分の行動すべき道しるべが見つかったとばかりに食いつき、声の聞こえた方へ走り出した。
「やめて! 離してください!!」
「へへ、ちょっとくらい付き合ってくれたっていいじゃねぇか」
声のする方へ可愛い女の子が大柄の男に腕を掴まれていた。その周りにはたくさんの人がいるけど、誰も助けに入らない。
これはチャンスだ!
男はどこから見ても酔っぱらいだ。顔は赤く、呂律が回っていない。酔っ払いに絡まれる女性、そしてそれを助ける俺……パーフェクトッッ!!
ここで女の子を助けてその後……
「ふははは! やっぱり世界は俺を中心に回っている!!」
俺はさらにテンションを一段上げ、二人の元へと駆け寄る。
「やめろ!!」
「あぁん? なんだてめえは!?」
「なんだてめえはってか?」
突如と現れた俺にみんなの視線が集まる。
そんな中、俺はどうやって名乗るか考える。
そして、自分の服が魔王城を出る時、とにかく早く城を出ないといけないと思っていてそのまま出てきた俺は服が黒一色で、その上に黒のロングコートだというのに気付いた。
「俺は闇夜の黒騎士!! 俺の闇夜の支配下で悪事を働く奴は許さん!!」
「闇夜の黒騎士だぁ? 剣も持ってない奴が何言ってやがる!!」
「ふふふ、確かに剣を持っていないように見れるだろう。しかし、俺は誰にも見えない剣を持っている。それは折れない心の剣だ!!」
俺の武器は折れない心の剣、例え後で後悔する事になっても厨二モード中は絶対に折れないのだ。
「何訳わからん事を言ってやがる!! 死ねぇぇぇえええええ!!」
すると、酔っ払いは俺目がけて右ストレートを放ってきた。
「ふっ、ハエが止まるわ!」
俺それを半身になってスラリと躱す、躱しざまに足を蹴ってこけさせた。
「ぐあっ!!」
男は前のめりになって顔面からモロに地面ぶつかる。
あ~あれは痛いだろうな。
すると、周りから「すげぇ……」「あぁ、動きが見えなかった」「あのゼクス相手に……」と声が聞こえる。
なんかこの男、有名っぽいけど俺にとっては……闇夜の黒騎士にとっては敵ではない!
「くっ……舐めやがって……」
ゼクスは鼻血を出しながらも立ち上がる。
「おかげで目が覚めたぜ」
「ふっ、礼には及ばぬ」
「いや、それじゃあ俺の気が収まらねぇ! お礼と行くぜ!!」
ゼクスはそういうと俺に向かって左右のパンチを繰り出して襲い掛かってくる。そのキレはさっきのより鋭く、酔いが覚めたってのはあながし嘘じゃないようだ。
でも、俺は闇夜の黒騎士。
そんなのは通じない!!
「どうした? まだ酔っているのか? 足がふらついてるぞ」
「うるせぇ! まだだ!」
俺はゼクスの攻撃をひたすらかわし続ける。
周りの観客からはどよめきが起き「あのゼクス相手に……」「闇夜の騎士……すげぇ……」と言った声が聞こえる。
そして、その後のもしばらく避け続けたところでゼクスが両手をついて倒れた。
「はぁ……はぁ……なぜ攻撃してこない?」
「闇夜の黒騎士は無用な暴力をしない。おまえは闇夜の黒騎士の敵ではなかった。ただそれだけの事」
俺はゼクスを見下ろしながら自分に酔いしれる。
「……俺の負けだ」
「我が黒騎士は誰とも戦った記憶などない。だから、その台詞を言われる筋合いはない。それよりもおまえが言葉を口にする相手は他にいるだろう?」
「……そうだな」
するとゼクスは女の子に向かって謝罪をし、それを見届けた俺は踵を返しその場を去ろうとする。
「待ってください!!」
俺の後ろから女の子が呼び止める声が聞こえ、それと共に足音が近づいてくるのが分かる。
『この世界は俺を中心に回っている。この展開も俺の予想の範囲だ』と冷静に思いながらも胸の高鳴りを必死で抑える俺。
今の俺は闇夜の黒騎士、闇夜の黒騎士はいつでも冷静でいないとダメなのだ。
俺は背中を向けたまま足を止める。
「あ、あの……ありがとうございました」
「……礼などいらぬ。闇夜は我が庭。我が庭で問題が起きればそれを解決するのは我の責任。あたり前の事をしただけだ」
「で、でも、あなたのおかげで助かりました!」
「そうです! あなたのおけげで僕のレミーは助かりました!」
んんっ!?
俺は急に会話に入ってきた男の声に後ろを振り返った。
すると、そこにはさっきの女の子と優男風の男が並んで立っている。
「これ少ないけどお礼です!」
俺が振り返った先の光景に戸惑っていると、優男は俺の手を掴んで何かを握らせた。そして、優男は「本当にありがとうございました!」と言って頭を下げる。
俺が呆然としているとレミーとかいう女の子も優男の隣に来て同じように「本当にありがとうございました!」と言って頭を下げた。
「……いや、良い。それよりも二人は恋人同士か?」
「「はいっ!!」」
満面の笑みで返事する二人。
表情が固まる俺。
くそっ! 彼氏ならあの場面で助けに入れってんだ!!
しかし、今の俺は闇夜の黒騎士。
スマートに行動しなければいけない。
「そうか……二人で幸せになるのだぞ」
俺はそう言葉を残してその場を去る。
そして、道の角を曲がったところでダッシュして逃げた。