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いや、やましい気持ちはないんです

「すまない、助かった」


「いや、困った時はお互いだろ。それに俺は依頼を受けていたしな」



 そう言って俺はギルドカードを見せる。

 こうやって襲われているところを助けた後は、身分を明らかにするのがマナーらしい。

 というのも、襲われているところを助け、その後に油断させて襲うという盗賊のやりくちがあってから、冒険者の中では常識となっているようだ。


 ちなみに、商人はさっきの戦いで崩れた荷物の点検をしている。

 危険な目にあったってのに、商人はたくましいものだ。



「Cランクか……若いのに凄いな」


「いや、そうでもないさ。それより大丈夫か?」


「あぁ、俺は大丈夫だ。でも、ライドが……」



 ビルがそう言って振り返る後ろには、女性冒険者によって傷口を手当てしてもらっている男がいる。


「私が治します」


 そう言って俺の後ろからセシリーが出てくる。

 そう言えばセシリーは回復魔法使えるもんな。

 俺もケガを治してもらったし。



「君は……」


「あっ、私はシシリーと言います」



 セシリーはバレたらまずいと思ったのか、フードを深く被りなおして俺がしたようにギルドカードを差し出す。


「Fランク冒険者……大丈夫なのか?」


 ギルドカードを見たビルは不信に思ったのか、セシリーを見た後、俺の方を見る。

 そりゃそうだよな、Fランクって全くの新人だし。


「大丈夫です! 今まで人見知りで依頼を受けたり出来なかったんですけど、魔法は得意なんです。良い先輩に出会えたので今日はいろいろ先輩に教えてもらうのに街を出てきましたから」


 いやいや俺先輩キャラになるんっすか!?

 まぁ、セシリーの言う設定だと人見知りだから、フードしてても怪しまれないし、実力があっても依頼を受けてないってのも一応筋が通る……か。

 ……大丈夫かこれ!?


 そうこう考えている間にもビルは俺の方を見ている。

 いろいろ不安もあるけど、セシリーがそう言った以上、ここは話に乗るしかないな。



「大丈夫だ。俺も依頼でケガをした時に偶然その子にケガを治してもらったんだ。それでそのお礼に先輩冒険者としていろいろ教えてあげる事にしたんだ。腕は保証するよ」



 俺もセシリーの話に乗ってビルに話す。

 話には乗ったけど、俺がセシリーにケガを治してもらったのは嘘じゃない。



「そうか……なら、悪いが頼めるか?」



 俺の言葉に納得したのか、ビルはセシリーに向かい直って頼む。

 すると、セシリーはコクッと頷き、俺の方をチラっと見て微笑んだ。 

 その姿に少しドキッとしたけど、俺はそれを隠すように頷くとセシリーはケガをしたライドという男のところに向かった。



「ヒール!」



 ライドのところに行ったセシリーはすぐに回復魔法を使う。

 すると、淡い光が発生すると共にライドのケガがみるみるうちに塞がって治った。



「これでもう大丈夫です」


「助かった……ありがとう」


「いや、当たり前の事しただけです。大丈夫で良かったです」



 そう言ってセシリーはフードの下で微笑む。


 おいおいセシリー、そんな事してライドって奴が惚れるフラグ立てちゃダメでしょ!?

 ……後でこっそりとそのフラグ折っとかないとな。

 


「――っ!? セシリー危ないっ!!」


「えっ!?」



 セシリーの近くに倒れていた戦闘狼ウォーウルフが少し動いたかと思うと、最後の抵抗とばかりにセシリーへと襲い掛かった。



「ファイヤー・ランスッ!!」



 俺はセシリーの元へと向かいながら魔法を放つ。

 間に合ってくれ!!



「キュウ!!!!」



 俺が魔法を放つと同時に上空からクロの声がした。

 すると、戦闘狼ウォーウルフは一瞬、身体の動き止まり、続いて俺の魔法と上空から炎が降り注ぐ。



「……大丈夫か?」


「えっ、あっ、はい。ありがと……ございます」



 戦闘狼ウォーウルフに魔法と炎が降り注ぐ瞬間に俺はセシリーの元へと着き、炎の熱を防ぐように間に入ってセシリーに覆いかぶさった。


 ふぅ~……危なかったけど、なんとか間に合った。

 それにしても、さっきのはクロのはよくあるドラゴンの咆哮とドラゴンブレスという奴だろうか?

 まだあんな小さいのにドラゴンはドラゴンって事か……凄いな。



「あっ、あの~……もう大丈夫です……」


「えっ……あっ! ゴメン!!」



 俺はすぐさま飛びのく。


 咄嗟の事とはいえ、セシリーを抱きしめてしまった!

 しかも、その後、クロの事考えてそのままでいてしまうなんて……嫌われてないだろうか!?


「い、いえ、ありがとうございます……」


 セシリーはありがとうと言ってるものの、俺と目を合わせてくれない。

 むしろ、フードを深く被って避けられてしまった。


 ヤバイ、やってしまった……。


 俺が気落ちしているところに、クロが様子を窺うようにセシリーの元へと行った。

 すると、セシリーは「ありがとう、クロちゃん!」と言って俺の時とは違い、明るく言葉を発し、クロを抱きしめる。


 そして、それを呆然と見つめる俺。

 なんてこった……。


 俺は一人頭を垂れた。


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