戦闘狼を見つけました
「なかなか見つからないな」
セシリーと戦闘狼を探し始めてから一時間くらい経っただろうか、俺達は街道を歩きながら、時に街道を外れて探しているけど、戦闘狼はいっこうに見つからない。
時々、街道を通る商隊の人にも聞いているが、見かけたという目撃情報はなかった。
もちろん、空から捜索しているクロからも何の合図もない。
「もしかして山に帰ったのでしょうか?」
「んー、どうだろう? それならいいんだけど」
元々、戦闘狼はこのあたりで出現する魔物じゃないし、見つからない方が普通だ。
この辺りに出没していた戦闘狼も戻って行っていたら、それはそれでいいと思うんだけど……。
「ショーマさん!! クロちゃんが!」
「キュウキュウ!!」
セシリーの声で上空を見ると、クロが俺の上空で旋回しながら鳴いている。
これは……
「セシリー!!」
「はい!」
俺とセシリーの反応を見たクロは、俺達を誘導するように飛んでいく。
そして、俺達はそれを見て、クロを追いかけるように走った。
「ショーマさん、戦闘狼が出たのでしょうか?」
「どうだろう? もしかしたらゴブリンとかかもしれないけど……でも、クロのあの反応が気になる。とにかく急ごう!」
「分かりました!」
俺とクロで討伐依頼を受ける時、クロはいつも討伐対象以外の魔物が出ても教えてくれる。
もっとも、クロが魔物の名前と姿を知っている訳ではないし、完璧に俺の言葉を理解している訳ではないだろうから、魔物を見かけたら俺に知らせてくれる。
でも、今回みたいに旋回しながら急がす事なんてなかった。
いつもは俺の目の前に来て、鳴いて教えてくれる感じなのに。
しばらく、クロに続いて走っていると、前方から何から叫び声のようなものが聞こえてきた。
「な、なんでこんなところに戦闘狼がいるんだ!?」
「知るかよ! でもやらなきゃ死ぬんだ! しっかりしろ!」
「でも、動きが速すぎるわ!!」
声のする方を見ると人影が三人見える。
そして中央には馬車があり、その周りを四足の魔物らしきものが十体程取り囲んでいる。
俺達がさっきまで見かけていた複数の馬車を引き、護衛を多く雇っていた商隊とは違い、護衛は三人で馬車も一台だ。
あれが戦闘狼か!?
くそ、あいつらもしかして人数が少ないのを狙ってやがったのか!?
「セシリー先に行く!!」
「えっ!?」
俺は驚くセシリーを置いてスピードを上げ駆け出す。
セシリーのスピードに合わせていたけど、この状況はマズイ。
まさか人が襲われているとは思わなかった。
「グハッ!!」
「ライド!!」
俺が駆け寄るより先に戦闘狼は動き出し、冒険者達に襲い掛かっていた。
「しっかりしろライド!」
冒険者のうち男が一人、戦闘狼の攻撃を避けきれずに、ダメージを負ってしまったようだ。
でも、戦闘狼は急がず確実に獲物を得る為に、冒険者と馬車の周りを周りながらタイミングを見ている。
「ビル! 来るわよ!」
そして、戦闘狼たちは一斉に飛びかかる
「くそっ!!」
冒険者のビルという男が剣を構えるが対応出来そうにない。
「ストーン・ウォール!!」
その様子を見ていた俺は咄嗟に魔法を放ち、冒険者と馬車の周りに岩の壁を展開する。
俺は魔王で魔法は闇特化だけど、他の魔法もそれなりに使えるのだ。
「うぉぉぉおおおおお!!」
俺は岩の壁が戦闘狼を弾いた瞬間に詰め寄り、戦闘狼を斬りつけていく。
「いったい何が……?」
俺の放ったストーン・ウォールの中から声が聞こえる。
混乱しているのは悪いけど、説明は後だ。
「ファイヤー・ボール!!」
俺は剣を振るいながら時には魔法を使って、戦闘狼を倒していく。
「ホーリー・ランス!!」
「セシリー!?」
セシリーが来るまでに片付けようと思っていたけど、どうやらセシリーの身体能力は思った以上に高いようだ。
俺が片付ける前に着いてしまった。
それにあの魔法……なかなかの威力だ。
ルークスのお墨付きだけはあるってか。
「私はシシリーです!! ショーマさん、一気に行きますよ!」
「お、おう!!」
そうだった。
今のセシリーはシシリーなんだ。
気をつけないと。
「じゃあ一気に片付けるぞ、シシリー!!」
「はい!!」
セシリーの戦う様子を見る限り大丈夫だろう。
でも、あれだけの力をつけようと思ったら並大抵の努力では出来ないだろうな。
それだけ、セシリーの想いは本気って事か。
可愛いだけじゃなくて優しくて性格もいいし、真っ直ぐな心で芯がある……ますます惚れそうだな。
「うぉおおおお!!」
そんな事を思って少し恥ずかしくなった俺は一段とギアを上げて、戦闘狼を倒していった。




