連れて行く事にしました
「えっ……?」
俺は突然のセシリーの言葉に振り向いて固まる。
俺が行こうとしているのは討伐の依頼だ。
さっきの話の中でもしたし、セシリーも知っているはず。
「いやいや、だって討伐の依頼だし危ないから――」
「私もっと知りたいんです!!」
セシリーは両手を握って拳にしながら叫ぶ。
「私はいろいろ知りたいんです! 私は孤児院の事も何も知らなかった。まだまだ知らない事が多いんです。こうやってショーマさんみたいに冒険者の方が命をかけてみんなの安全を守っている事も……だから、私いろんな事知りたいんです!」
セシリーはまっすぐな目で俺を見ながら言って来る。
俺だってセシリーと一緒に行動できるなら嬉しい。
でも、討伐の依頼だし危険があるし……どうしよう……。
「お願いします!」
そう言ってセシリーは俺に頭を下げる。
王族が一冒険者に頭を下げるなんて……これは本気だな。
女の子にここまでさせて断るのは男じゃないか。
もし、万が一なんかあったら俺が全力を出せばいいか。
「……分かった。でも、無理しないように」
「はい!」
セシリーは嬉しそうに返事すると、満面の笑みで俺を見てきた。
まぁ多少の不安はあるけど、セシリーもルークスのお墨付きだって言ってたしな。
大丈夫だろう。
「でも、街を出るのにセシリーってバレたら……」
ここの街は出るのも入るのも身分証が必要だ。
冒険者、商業、鍛冶ギルドのいずれかのギルドカードか街で発行してもらう市民証が必要になる。
だから、俺が最初街に来た時、壁を飛び越えて入ったのは正解だったのだ。
ただの厨二病のイタイ行動ではない。
「大丈夫です。これ」
そう言って、セシリーはギルドカードを出してきた。
「えっ!? これどうしたの!?」
「街に出たのを機にこっそりと作りました。依頼は受けていませんけど」
いやいや! セシリー、そこはテヘペロじゃないだろ!?
「でも、顔バレは――」
「大丈夫ですよ! 今までも誰にも気づかれてませんし!」
確かにセシリーはフードを深く被っているので、あまり顔を出していないからあまり見られていない。
むしろ、俺の頭の上で寝ているクロを見て微笑みながら、通り過ぎていく人が多い。
まぁ、写真のないこの時代に、一般庶民が王族の顔をマジマジと見て覚える機会なんてないか。
貴族でもない限り、見るとしても遠目とかだろうし門番だってそうだろう。
「さっ、だから早く行きましょう!」
そう言ってセシリーは、俺の手を引いて街の入り口の門へと歩いていく。
どうやら俺の恋した王女は思ったよりアクティブでした。
まぁそんなところもいいなと思ってますけど。
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「ねっ? バレなかったでしょ?」
俺とセシリーは問題なく街の外に出られた。
そして、俺達は今街の外側にいる。
それにしても、初めて会った時から比べるとセシリーとの関係が一気に縮まった気がするな。
まぁ、そう言ってもその他大勢から知り合いになったくらいだろうけど。
「本当にな。ビックリだ」
王女って知らずにギルドカードを発行したなんてバレたらクレイの奴、責任取らされるだろうな。
「それにしても綺麗……」
セシリーはそう呟いて辺りを見回す。
空には青空が広がり、辺りは見るからに草原が続き、そしてそこに馬車が通って出来た自然の道がある。
普段は魔物などは滅多に出ない街道だけど、時々ゴブリンと知性が低くて弱い魔物は出る。
だから、商人なんかは護衛の冒険者を雇ったりしているけど、ゴブリンなんかはDランクの冒険者で十分対応できる。
でも、今回問題になっている戦闘狼は知性もあるらしく、こんな町から近い場所だと討伐対象になるので、本来このような場所には出ないで山とかいったところにいる。
だが、、最近ではチラホラと目撃情報があるみたいだ。
戦闘狼はそのスピードからDランクの冒険者では対応が難しく、Cランク以上の冒険者が依頼を受けられる対象となっていて、今回はギルドが依頼を出している。
それで、俺の受けた依頼は、戦闘狼の出現の有無の確認と出現したら討伐を――と言った内容だ。
「セシリー、ここから魔物が出たりするから気を付けていくぞ」
「はいっ!」
「キュウキュウ!」
「そうだな、クロも頼むぞ」
クロが俺の周りを飛びながら鳴く。
俺は今まで一人で討伐依頼を受ける時はクロが空を飛んで魔物を探し、そして俺に知らせてもらって俺が倒すと言った役割分担をしていた。
「キュウ!」
クロは返事するように鳴くと、空へと上がっていく。
「じゃあ俺達も行こうか」
「えぇ」
そして俺とセシリーも戦闘狼を探すべく、歩き出した。




