意外な一面を知りました
「……なんでセシリーがここに!?」
そこにはドレス姿ではなく、白いローブでフードを深く被り銀髪を三つ編みにして変装しているセシリーがいた。
「それはこっちの台詞ですよ! なんでショーマさんがここに……まさかララちゃんの目が治っているのはショーマさんのおかげですか?」
えっ? なんでセシリーがララの事を知ってるんだ?
「あら、ショーマさんはシシリーさんとお知合いですか?」
俺が混乱していると俺達の声に気付いたのか、マリアさんが孤児院から出てきたみたいで話に入ってきた。
えっ? シシリー?
「あっ、いや、ちょっと……でもシシリ―って――もごっ」
「いや、ギルドで何回か話した事があって……ねっ?」
俺はセシリーに突如口を塞がれて何も言えなかったけど、ここは話を合わせておいた方が良さそうだ。
なんか有無を言わさない雰囲気をセシリーから感じる。
だから、俺は全力で首を縦に振りまくった。
「そうなの? じゃあ中でゆっくり――」
「いえ、今日はちょっと用事が出来たので失礼します! あっこれ光明草です!」
セシリーはまくしたてるようにマリアさんにそう告げて光明草を渡すと、俺の口を塞いだままその場を後にした。
俺はなすすべもなく、そのままセシリーに引っ張られていった。
セシリー意外と力強い……。
俺の視界の先には光明草を手に呆然と立つマリアさんが映っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「本当ビックリしましたよ」
俺はセシリーに連れられ、広場のベンチに座っている。
いや、俺の方がビックリだ。
なんで王女であるセシリーが変装して、偽名を使って街にいるのか。
「いや、俺の方がビックリだって! なんでセシ……いや、シシリーはここにいるんだ?」
「それは……」
セシリーは何かバツが悪そうにしている。
聞いてはいけない事、聞いたんだろうか?
「いや、言いたくないならいいんだけど」
「そういう訳じゃないんですけど……笑いませんか?」
笑う?
そんな理由?
「笑わないよ。……たぶん」
「えっ!?」
「冗談冗談、笑わないって」
「も、もう! からかわないでください!!」
セシリーは頬を膨らませながら怒っている。
いや、こんな顔でも可愛いって思ってしまう俺はやばいだろうか?
てか、俺王女に普通に話してるけど大丈夫か?
まぁ前に闇夜の黒騎士でやらかしといてなんだけど。
良くも悪くも、生活に落ち着いて自分を取り戻した俺は、セシリー相手でも平常運転なようだ。
「それでなんで変装して偽名使ってるの?」
「……笑いません?」
セシリーはそう言って、フードの下から俺を上目使いで見て言ってくる。
いや、上目使いって反則だろ……ってか、こうやって話していると王女と言っても普通の女の子だな。
前に会った時とは違った印象だ。
もっとも、どっちのセシリーも俺にとってはど真ん中ストレートだけど。
「うん、笑わない」
俺の言葉にセシリーはじっと俺の目を見る。
俺は恥ずかしいながらも目を逸らさないで耐えていると、セシリーは息を吐いて目を逸らした。
「……本当に笑わないでくださいね? 実は私生まれてから大きくなるまで城から出た事なかったんです。城の中で外の話を聞いて私はこの国はみんな楽しく暮らしていると聞いていました。でも、ある行事の時に街に出ると私たち王族の前に一人の子供が飛び出して『妹がお腹を空かせているんです! 何か食べ物をください!』と言いました。私はびっくりしました。国のみんなが幸せに暮らしていると思ったのに……それに私たちの護衛はその子を捕えたのです」
そっか。
まぁ王女だったら城から外へは出ないのが普通だし、みんなの生活の状況なんて想像もつかないもんな。
それに王女に勉強を教える人がいても、あまりマイナスなところは言わないだろうし。
「ショックでした。みんな幸せに暮らしていると思っていたのに食べ物に困っている子供がいるなんて……それにその子供を捕える兵士に……。私は無知でした。……だから、もっと世の中を知ろうと思ったのです。街に出てみんながどう暮らしているのかを。もちろん、父や母に反対されました。『大事な娘なのに危険だ』と。だから、私は強くなろうと努力しました。そして、魔法の勉強、それから護身術をルークスに教えてもらってルークスのお墨付きをもらい、父と母を説得しました」
えっ!? ルークスのお墨付き!?
どうりでさっき力が強いと思ったら……。
「それで街に出た私はセシリーではなく、シシリーとして自分に出来る事から人が幸せになれるようにやってみようと思ったのです」
そう言ってセシリーは微笑みながら語る。
なんとも眩しい笑顔だ。
これは笑ったりなんか出来ないな。
「そうか、凄いなセシリーは」
「そんな事ありませんよ。私が街に出るようになって、いろいろ回り、この孤児院に来てララちゃんの事を知りました。でも、それから公務でなかなか城を出られない間に光明草を採ってきてくれた方がいると聞きました。その時期にショーマさんがドラゴンテイマーになったと聞き、もしかしたらと思っていましたが……やっぱりそうだったんですね。マリアさんに聞いたら闇夜の黒騎士と名乗る方から光明草を届けられると聞きました。でも、光明草は高価なものなので、一応持ってきたのですが……ありがとうございます」
そう言ってセシリーは俺に向かい頭を下げ、「だから、闇夜の黒騎士ショーマさんと同じです」と言葉を続けた。
うっ、その名前を出してくるか……。
さっきと違う、ちょっといたずらっぽい笑顔だからこれはさっきの仕返しだな。
「……その名前は出さないでくれ」
「ふふふ、やっぱりショーマさんは面白い人ですね。それとドラゴンテイマーになった時はびっくりしました」
「いや、あれは……」
そうして俺とセシリーはしばらく世間話をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、しばらく会話を続け、話がひと段落ついたところで俺は立ち上がった。
途中でクロが起きてセシリーとじゃれると言った物凄く和む場面もあったし、こうしてセシリーと話していたいけど、今の俺は街道で見かけた戦闘狼の討伐の依頼を受けている。
放置していて被害が出てはいけない。
「そろそろ俺依頼受けているから行くわ。じゃあまた、シシリー」
そう言って俺は立ち去ろうとする。
「待ってください! 私も一緒に行かせてください!」




