最後の覚悟
「はぁぁあああああ!!!!」
「うぉぉぉおおおおお!!!!」
俺とアースの距離がゼロになる。
それは本当に一瞬の出来事で周りの人は見えていないだろう。
そして、アースの振るった剣が淡く光る。
あれは……?
対する俺はアースの剣に何かを感じ剣を受けるのではなく、俺も剣を振るいアースとのスピード勝負に出た。
「……」
「……」
俺とアースの間に静寂が流れる。
「……さすがショーマ君だね」
「……おまえこそな」
俺の剣はアースの首の手前で止められていて、アースの剣は俺の頭の手前で止まっている。
勝負的には引き分けだ。
そして、俺とアースは剣を下げる。
すると、沈黙を守っていたギャラリーが一斉に沸いた。
「勝ちたかったんだけどね、引き分けだね」
「あぁ、そうだな」
ギャラリーが沸いている中、俺とアースは自然と握手して言葉を交わす。
「でも、やっぱり剣を受けてくれなかったね」
「そりゃそうだ。なんかヤバそうだったしな。何したんだ?」
「あれは前に言った魔力操作ってやつだよ。ショーマ君を驚かそうと思ってね」
魔力操作……?
「ん? 覚えてない? 昔、僕が地竜からミリアを助ける時に――」
「あ~!! あれか!」
思い出した!
確か当時のアースとミリアは地竜に出くわして、歯が立たずに死を覚悟した時に力に目覚めたと同時にミリアの大切さに気付いたとかいうのろけ話!!
「思い出してくれたみたいだね」
「思い出したわ! それにしても普通の剣が通じない地竜をばっさり切った技を俺に使うなよ!?」
「大丈夫だよ。ちゃんと止めたでしょ? それに全力でっていったでしょ? まぁでもショーマ君はまだ全力じゃなかったみたいだけど」
「まぁな……。でもアースこそな」
魔気を使っていなかったという点では俺は全力を出していない。
でも、それはアースにも言える事だろう。
あの動きの中で笑みを浮かべていられるってのはまだ余裕がある証拠だ。
それに寸止めできるくらいだしな。
勇者の再来って言われるのは伊達じゃないって事か。
「はは、まぁね。でも楽しかったよ。じゃあね」
そう言うとアースは背を向けてミーアの方へ向かう。
そして、ミリアが近づいてきたアースに「アース君かっこよかった!」と言うと、アースが「ありがとう、ミリア。でも、僕もまだまだだね。ミリアを守る為にもっと強くなるよ」と言って二人の世界に入っていた。
その光景に周りの冒険者は温かく見守る者と面白くなさそうに見つめる者に分かれていた。
なんでだろう……あいつらに巻き込まれてこうなったのに、結局最後はあいつらに振り回されていちゃつくところを見せられて終わるのだろう……。
「いろいろ大変ですね」
すると、不意に後ろから声をかけられる。
「ネリーさん」
振り返るとそこにはネリーさんがいた。
「ショーマさん、Sランク冒険者おめでとうございます」
そう言ってネリーさんは祝いの言葉をかけてくれる。
「ありがとうございます。でも、まだ三か月後ですけどね」
「そうですね。それまでの三ヶ月いろいろな事が起きたり考える事があるかもしれませんけど、いつも通りに過ごされるのが良いかと思いますよ?」
これは……。
「……ネリーさんはお見通しですか」
「さて、何のことでしょう? ただ、こうやっていつものように過ごされている方が変に緊張したりしないと思いますよ」
ネリーさんはおそらく俺がSランク冒険者になれば告白するのに感づいているのだろう。
それを、Sランク冒険者の授賞式の事に例えて今から考えて考えたり緊張したりせず、自然体でいた方が良いと言ってくれてるのだろう。
本当、カイトにはもったいないくらい気遣いできる人だ。
「ありがとうございます。本番で緊張しないように普段通りに過ごします。こうやってアース達に絡まれながら」
俺がそう言うとネリーさんは微笑む。
そうだ、Sランク冒険者になるのは決まった。告白する日も決まった。
後はその時に俺の気持ちを伝えるだけ。
だから、特別な事をせずに……といっても何か起きるとは思うけど、いつも通りに過ごしながらその時を待とう。
「じゃあいつも通り依頼受けさせてください」
「はい、有望な冒険者の方に依頼を受けて頂けるのはありがたいです」
そうして俺はいつものようにギルドの中へと向かい、いつも通りの日々を始めるのだった。