☆カレンの決意
「カレン、待たせたな!」
私が全てを諦め、死を受け入れ楽になろうしたところに見慣れた背中が現れた。
その背中の人物はいつもと変わらない声で、いつもと同じ調子で言葉をかけてきた。
「……」
「……」
私とその人物、ショーマとの間に沈黙が流れる。
なんでショーマがここに……?
どうやって?
というか、私はどうしたら……?
私とショーマの間に沈黙が流れ、動きが止まっている中、上空を見るとなぜかドラゴンが魔物を焼き払ってくれている。
あのドラゴン……仲間か? もしかしてショーマが?
私の頭はいろいろ混乱していたがこのままではいけないと思って声を振り絞った。
「……ショーマ」
「はひっ!?」
私が声を振り絞ると、ショーマは裏返った声で返事する。
その反応を見て、私の身体も少し緊張がやわらぐ。
「……助けに来てくれたのか?」
何か言葉を発しなければと思って出た言葉が『助けに来てくれたのか?』だった。
情けない、Sランク冒険者である私が……好きな人に助けに来てもらえたのか確認したくなるなんて。
「あぁそうだ、どっかのお転婆お嬢さんが勝手に一人で出て行って、こんな事になってるから無茶してないかと思ってな」
自分の言葉から出た言葉に後悔していると、ショーマはいつもの調子……いや、私に対してはあまりこんな感じではなかったから気を使っているんだろうけど、私の言葉を肯定した上で言葉を返してくれた。
「…………ふっ」
「なんで笑うんだ!?」
私はショーマが助けに来てくれた事を嬉しく思うのと自然と力が抜けて言葉が漏れた。
きっと返事はダメだろう、それでも自分を助けに来てくれたという『事実』に喜んでいる自分がいた。
「いや、なんでもない。お転婆お嬢さんなんて初めて言われたからな」
「だって、一人でこの数の魔物とかいくらSランクでも無茶しすぎだろ!? 俺が来なかったら死んでたぞ!?」
「そうか、心配かけたな。でも心配いらない。さっきのは私の奥義を使おうとしてただけだ」
「奥義!?」
「あぁ、見とけ」
私は嬉しさで出た反応を誤魔化すように、言葉を繋ぎ行動に移す。
「行くぞっ!!」
そう言うと私は身体の魔力を操作して身体能力を上げる。
返事は分かっている、でもそれにくよくよしている自分はやっぱり自分ではない。
それに好きになった相手の前では弱い自分ではいたくない、そう思いながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「終わったか」
「そうみたいだな」
私とショーマは周りに魔物が倒れている中で言葉を交わす。
あれからショーマも参戦してきて、そこに後から来たドラゴンも参戦し、魔物を殲滅する事が出来た。
やはりドラゴンはショーマが連れてきたのだろう。
本当、私の惚れた男は凄い奴だ。
「……すまなかった」
私はショーマに謝る。
そんなすごい男を私のせいで惑わせてしまったのだから。
それでショーマがショーマでなくなったら、人間にとって……いや、エルフとドラゴンに認められた男だ、世界にとって不利益になる。
「ったく、一人で無茶するなよな! ……俺も悪かったよ」
すると、ショーマが謝ってきた。
「いや、ショーマは悪くない。私が勝手に――」
「いや、やっぱり俺が悪い。俺がちゃんとした態度と行動を取らなかったから……カレン、気持ちは嬉しいけどやっぱ俺はセシリーが好きだ。だから、ごめん」
そう言ってショーマは頭を下げる。
覚悟していた言葉、聞きたくなかった言葉……でも、それを受け入れなければならない。
ショーマだって、きっと覚悟して口にしてくれたのだから。
「……顔を上げてくれ、ショーマ」
私は声を振り絞る。
すると、ショーマは私の言葉に従い顔を上げてくれた。
想いが通じないのは苦しい。
でも、好きになった相手を困らせたくない。
「ふっ、ようやくティルフィングの影響が抜けたようだ。これほどとは……手強かった」
私は努めて明るい表情でそう言う。
そうだ、彼を困らせたくない、彼の重荷になりたくない、彼に弱い私を見せたくない。
「カレン……?」
「心配かけたなショーマ、どうやら精神の一部にティルフィングが残っていたようで、私の心を動かしショーマに近づき何かをしようとしていたみたいだ。でも、今の言葉で完全に諦めて消えたようだ」
覚悟はした、決意はした、でも、心の奥から込み上げてくるものがあって、私の目を刺激する。
「カレン……」
「さぁ帰るぞ、ショーマ!!」
このままではまた弱い自分を見せる事になると思った私は走り出す。
「お、おい待てよカレン!!」
ショーマはそう言いながら私を追いかけてくる。
でも、そのスピードは決して私に追いつき、止めようとするものではない。
本当優しい奴だ。
こんな素晴らしい男に好きになってもらえる、隣を歩く権利をもらえるセシリーは幸せだな。
……ふっ、これじゃ後ろばっかり見てるな、よし、前を見よう。
私に女としての心を取り戻してくれた事に感謝して区切りをつけ、私は前を見てもっと強くなる。
そして走りながら私は決意した。
私はショーマの隣を歩けないけど、背中を合わせて戦う事の出来るパートナーでいようと――……。