間一髪のタイミング
黒く蠢くものを見ていると、どうやらそれは魔物のようだ。
それが一帯となって同じ方向へと動いている。
「これだけの魔物が……ん?」
大量の魔物に驚いていると、魔物の進む前方で黒い物体が宙を浮かんだりして、途切れている部分があった。
「まさか……」
直感的に俺はあれはカレンが戦っているのだと思った。
カレンは一人、セイクピア王国を出て、魔物を退治して回ると言っていた。
だから、ここにいてもおかしくはない。
それに、あれだけの魔物に対応できるのはそこらの冒険者じゃ無理だろう。
カイトはティーランド国に、アースとミリアはセイクピア王国で戦っている。
フレア帝国の冒険者や兵士とも考えられるが、ここはまだフレア帝国に近いセイクピア王国領だ。
それに、軍隊や人の集団も見えないし、単独……もしくは少人数で戦っているっぽいし、あれだけの魔物相手に応戦できるとしたら、Sランク冒険者、もしくは高ランクの冒険者パーティーだろう。
しかし、高ランクの冒険者パーティはきっと各国の近くで召集されているだろうし、あれはカレンと考えられる。
まぁたまたま居合わせた高ランク冒険者のパーティーって可能性もあるけど……。
「どっちにしてもあのままじゃ数の暴力でやられちまう。竜王! あそこだ! もっと飛ばしてくれ!!」
『承知シタ。振リ落トサレルナヨ』
竜王はそう言うとスピードを上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「やっぱりカレンか!!」
俺は竜王にしがみ付きながら、前方で魔物の群れと戦う人影を注視する。
すると、人影は一つしかなく、近づくにつれその姿が見えるようになると、長い黒い髪の女性が戦う姿が見え、その人影はやはりカレンだった。
しかし、カレンは疲れからか、どこか動きに精彩をかいていて、今にも魔物の数に押しつぶされそうになっている。
それにしても竜王の奴、本当竜王を名乗るだけあってめちゃくちゃなスピードだな。
生身の人間なら死んでるぞ。
竜王のスピードは速く、史上最強の魔王と呼ばれる俺が本気でしがみつかないと振落とされそうな速さだ。
その為、クロと他のドラゴンは後方にいる。
でも、そのおかげでギリギリ間に合いそうだけど。
「竜王! あいつを助ける! 俺は飛び降りるから、竜王は周りの魔物を焼き尽くしてくれ!」
『承知シタ』
俺は竜王の返答が返ってくる前に飛び降りる。
「うぉぉぉおおおおお!!!!」
そして、飛び降りた勢いそのままに駆け出し、カレンの元へとグラム振るい、魔物を倒していく。
すると、魔物が開けた先に、呆然と立っているカレンを魔物達が一斉に襲い掛かかろうとしている姿が見えた。
くそ、ヤバイ!
『グラム!! 能力解放第二段階だ!』
『いいぜショーマ! 魔気を送れ!!』
俺はすぐさま魔気をグラムに送る。
すると、全身の中の血液が全身をめぐるような感覚が、俺の中から外へと向かいグラムと循環してるような感じになり、どんどんと魔気を吸われていく。
一瞬魔法を使おうかと思ったが、詠唱している時間もない。
グラムの能力を解放する時は身体がフラフラするリスクがあるけど、一気に出力を上げ魔気を送ってしまえば、その疲労は一旦終息する。
それに一度能力を解放しているから、どれくらいの量を送れば良いかは感覚でだいたい分かる。
「うぉぉぉおおおおお!!!!」
俺は気合を入れ、一気に必要だと思われる量の魔気を送る。
『うおっ!? 一気にか!? ……魔気充填率65パーセント……シンクロ率68パーセント……よし、いけるぜ! ショーマ!』
俺が魔気を送ると、この前の時にグラムと完全にシンクロしたせいか、魔気の流れ、同調もスムーズだった。
そのおかげか知らないけど、いつも身体に来る負担は少ないような感じでフラフラしたりはない。
「よし! 行くぞ!」
グラムの第二段階の能力が解放され、二刀になったグラムを持って俺は呆然と立つカレンへと駆け、カレンを襲おうとしている魔物を二刀のグラムで切り捨てる。
そして、俺がカレンに駆け付けると同時に竜王もブレスでカレンの周りの魔物を焼き払った。
「カレン、待たせたな!」
そして、俺は振り返ってカレンにそう告げた。