☆ピンチに現れる者
カレン視点です
「くっ、キリがない」
私は周りを取り囲み、襲ってくる魔物にラグナロクを振るい、または、魔法によってその魔物を倒していく。
セイクピア王国を出て、転々と魔物を倒しまわっていたところ、フレア帝国の方に向かう黒く蠢くものを見つけ、調べに近寄ると、それは魔物の大群だった。
それを見つけた私はこのままではまずいと思い、魔物を殲滅しようとした。
でも、いくら倒しても、魔物が途切れる事はなく、徐々に体力を奪われていく。
「くそ……でも、あの時と違い、私は意識がある! 身体を動かせる!!」
先の見えない戦いに弱気になりそうな心を奮起させ、私はラグナロクを振るい、囲まれないように動きながら魔物を倒していく。
そうだ、ティルフィングに乗っ取られた時と違って身体が動くのだから弱気になるな!
私はティルフィングに乗っ取られた時の事を思い出しながら自分を鼓舞する。
この前、不覚にも魔剣ティルフィングに憑りつかれ、意識を奪われた時、私は深い闇にいた。
上下左右の区別もなく暗く何もない空間で私は何も出来ずに、このまま意識が薄れ、死ぬのかと思っていた。
しかし、その時、暗闇から光が差し込み私は意識を取り戻した。
その時、私を救ってくれたのはショーマだ。
そして、ショーマが助けてくれたと知った時、私は今までにない特別な感情を持った――。
脳裏にショーマの顔を思い浮かべる。
私が好きになった……好きになってはいけなかった顔を。
「……こんなところで負けてられるか!!」
フレア帝国の皇女として生まれた私だが、フレア帝国の強き皇帝になる為に、訓練を受けていた弟と一緒に私も訓練を受けていた。
と、いうのも、弟は身体が生まれつき身体が弱く、私が姉としてずっと面倒を見ていたからだ。
弟一人で訓練を受けさせてるのは姉として耐え辛く、父や母に反対されたが、私も一緒に訓練を受けていた。
私は生まれつき身体が強く、訓練を重ねる事に、どんどん強くなった。
しかし、弟は弟は身体が弱かった為、私に勝てずにいた。
それでも、皇帝となる為、厳しい訓練は続き、私は弟を励ますように一緒に訓練を受け、どんどん強くなった。
そして、やがて私も弟も大きくなり、身体が大きくなった事で、弟も体力がつき、私に勝てないまでも、フレア帝国で私に次ぐ強さを持つ者となり、次期皇帝と認められた。
私はそれを嬉しく思ったが、私の中では次期皇帝となっても弟は弟であり、守らなければならない対象、そして、フレア帝国で私に次ぐ強さを持つのが弟であるのならば、国で一番強い私は国民すべてを守らねばならないと思った。
そして、父と母の反対を押し切って、私は女を捨て、強さを求め生き、Sランク冒険者になり、ラグナロクに選ばれ、いつしか戦姫と呼ばれるようになった。
こうして、私は弟……すべての人々は守る対象であり、俗にいう恋愛なんていう感情はなくなっていた。
でも、魔剣ティルフィングに憑りつかれ、意識を乗っ取られた時、あの暗闇から光を届け、私を助けてくれた……いつも守る側だった私が守られたと実感した時、私は私を助けてくれた人物、ショーマに何とも言えない、生まれて初めて感じた感情を持った。
それを心に持った時、なぜかショーマの事を愛しく思い、気づけば私を助ける為に意識を失ったショーマを膝枕していた。
そして、その時、これが『好き』っていう感情なんだと気付いた。
しかし、それは許される感情ではなかった。
なぜなら、ショーマには好きな人がいるのだから。
「……いっそう、ここで死ぬのも良いか?」
迫りくる魔物を切り捨てながら、そんな事を思ってしまう。
ショーマを好きになってから、私は弱くなった。
ショーマの事を考えるだけで心がかき乱され、自分が自分でなくなる。
Sランク冒険者でラグナロクに認められし者、さらには戦姫なんて呼ばれているのに情けない……。
「っ!?」
そんな事を考えて油断していると、いつの間にか囲まれ、四方と上から、さらに畳み掛けるように多くの魔物が一斉に飛びかかってきた。
くっ、私とあろうものが……まぁいい、死んでこの苦しさから解放されるのなら、それも良いか。
私は死を覚悟して目を瞑る。
あぁ、すべてを諦めると音が消えるのか。
不思議だがそれも良いな、心地良い。
「……?」
しかし、衝撃はいつまで経っても訪れない。
不思議に思った私はゆっくり目を開ける。
「これは……」
目を開けると、周りは炎に覆われ、私の目の前には見慣れた背中があった。
そして、その見慣れた背中の人物が振り返る。
「カレン、待たせたな!」