マイペースで行こう
「よっ、カイト」
セシリーの元を去った俺は急いで門へと向かった。
そして、門が近づいてくると、何やら手荷物を持ったカイトを見つけ声をかけた。
「おう、ショーマ。……なんだか機嫌良さそうだな?」
まぁ機嫌よいっていうか、俺なりにもうやるべき事、進むべき道が決まったから気分的にすっきりしただけだけど。
「そんな事ないって。それよりそれは何だ?」
俺はカイトの手荷物を指差す。
それは布に包まれていて、両手サイズくらいの大きさだ。
もしかして、今回の昇格試験と何か関係あるものなのか……?
「あぁ、これか? これはネリーが作ってくれた弁――」
「はい、ごちそうさま。さぁ行くぞ!」
俺はカイトの言葉をぶった切る。
今から昇格に向けた試練に向かうのに誰が人のノロケ話を聞かないといけなんだ。
まぁでも、カイトとネリーさんは順調そうで何よりだ。
カイトが「ショーマから聞いてきたくせに……」とかぶつぶつ言ってたけど、俺はそれをスルーして街を出る手続きを行う。
「おーい、早く行くぞ」
カイトはまだ少し不満があるようだけど、渋々と歩き出し、俺と同じように街を出る手続きを行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、カイトの近況でも聞きながら歩こうか」
問題なく街を出た俺とカイトは青空の下、男二人もくもくと歩いている。
これだけ良い天気の中歩くのは気持ち良いけど、何か男二人で無言で歩くのにいたたまれなくなった俺はカイトの近況を聞いてみる事にした。
ちなみに、クロは定位置である俺の頭の上で昼寝中だ。
「……さっきショーマから聞いてきたのに、話を切ったくせに」
「さっきはさっき。今は今。さぁ細かい事を言ってると、ネリーさんに嫌われるぞ!」
自分でも自分勝手な奴だと思っている。
でも、やはり俺と同じ……いや、俺の弟子だったはずのカイトがどういう道を歩んでいるのかは気になる。
すると、カイトは「はぁ~……」と、大きくため息をついて口を開いた。
「これから、竜の巣に行くってのにショーマはマイペースだな」
「今から構えても仕方ないだろ? それよりリラックスして行った方が良いだろうしな。だから、カイトの近況を聞かせてもらおう」
「はぁ~……まぁ、別にいいけど、何が聞きたいんだ?」
カイトは少し呆れた感じを見せたが、いつものカイトに戻って話に乗ってきた。
うん、やっぱカイトはこうでないとな。
試験官として真面目について来られたら調子が狂う。
「そうだな……ネリーさんとはどこまでイった?」
にこやかな笑顔でカイトに問いかける。
俺が知っている限りではカイトはネリーさんの事を呼び捨てにして、手を繋ぐところまでいっている。
でも、これ以上はそうそう進むことはないだろうと思って軽く冗談のつもりで聞いたみたのだ。
カイトの事だ、「ショーマ、実は相談なんだが……」と言って、キス以上に進むのに悩んでいる事だろう。
さて、カイトよ、免許皆伝といったけど、今日は気分が良いから、日本のベタな恋愛マニュアルを教えてやろう!
「ん? どうしたんだ、カイト?」
そうやって、俺は心の中で意気込んでいたけど、何かカイトの様子がおかしい。
立ち止まって俯いている。
「……ショーマ、すまない」
「えっ? いや、何が?」
カイトからの唐突の謝罪に戸惑う。
いや、謝られる事に心当たりはないし、いったいなんだろうか?
「実は……」
「実は?」
「その……キスまでいったんだ!」
「――っ!?」
突然のカイトの暴露に俺は目を見開き、口を開けて驚く。
なに!? キスだと!?
あのカイトがネリーさんと!?
「実は、この前ネリーの両親に挨拶に行ったんだが、思いのほかご両親から良い感じで迎えてもらってな、それで二人で喜びながら帰ってきたんだが、その帰りに馬車で二人っきりになってその……雰囲気で……」
「……○×△●×!?」
『それは本当の話なのか!?』って聞こうとしたけど、あまりに衝撃度が大きく、動揺していた為に、俺の発した言葉は聞き取れないものになってしまった。
マジなのか……?
本当にカイトは大人の階段を一歩進もうと……待てよ?
それ以上は行ってないだろうな!?
「ど、どうしたショーマ?」
「キスまでだろうな!? それ以上は!?」
これは聞いておかねばならないと思った俺は動揺を抑えながら叫ぶ。
突然叫んだ事で、頭の上で寝ていたクロがビックリして『ビクッ』と動いた。
すまない、クロ。
でも、これはなんとしても確認しておかなくてはいけないんだ!!
「あ、あぁ、もちろんそれまでだ。それ以上は……ってショーマ、そういう話は大きな声でしないでくれ」
そうか、それ以上はまだか。
でも、カイトは着実に先に進んで……くぅ~俺もSランクになったらっ!!
……ってまず、OKをもらえるかどうかだけどな。
「いいだろ? 誰もいないんだから。それにそれだけ幸せだったら街の中心……いや、世界の中心で愛を叫ぶことだってできるだろ?」
「いや、確かに幸せだが、世界の中心というか、街の中心でも叫ぶのは……」
「はい、この話は終了! 行くぞ!」
そう言って俺は進む速度を上げる。
後ろでカイトが「ショーマが聞いてきたのに……」と言っていたけど、これ以上のろけ話を聞いて精神的なダメージは負いたくないしな。
そして、俺は竜の巣へと急ぐのであった。