ネリーさんの助言
「っ!?」
ネリーさんの言葉に俺は激しく動揺してしまう。
なんでネリーさんが!?
……そう言えばカレンが街を出る時に最初対応したのがネリーさんだと言っていたから、その時にカレンが何か言ったりしたのか……?
「……やっぱり何かあったんですね?」
俺の分かりやすい動揺を見て、ネリーさんはそう言ってくる。
「……そうです。でも、なんで気付いたんですか?」
一瞬、誤魔化そうとも思ったけど、ここまで動揺しておいて誤魔化すのは出来ないと思ったし、それに、俺もこの件は誰にも相談できずにモヤモヤしていたから正直に認める事にした。
でも、なんでネリーさんがカレンとの事に気付いたのかは知りたいので聞いてみた。
「そうでしたか。私が、気付いたというか、気になったのはカレンさんがあのような形で急に街を出ると言ったからです。カレンさんは真面目な方ですし、よほどの事がないと自分勝手な行動はしない方だと思います。今回の事は急な事だったし、カレンさんらしくない、それにギルド長の説得にも応じないくらいでしたから何かあったのかなと。それで直前に何かあったと言えば魔剣の依頼でしたが、その時のメンバーはカレンさん以外にショーマさんとアースさんとミリアさんです。アースさんとミリアさんはいつも通りな感じでしたので、ショーマさんと何かあったのかなと。あとは女の勘ですね」
ネリーさんはそう言って微笑む。
さすがネリーさんというかなんというか……そこまで繋げて考えられるなんてさすがだ。
「……さすが、ネリーさんですね」
「いえ、そんな事ないです。ただ、人相手の仕事をしているので、いつもと違うと目に留まるだけです。それで、何があったんですか? よければ相談に乗りますが……?」
きっと、ネリーさんの事だ。
カレンだけじゃなくて俺の様子も少しおかしいって気づいたんだろうな。
「実は――」
俺はネリーさんに包み隠さず、全ての事を打ち明け話した。
話している間ネリーさんはただ黙って俺の話を聞いてくれた。
なんだろう、誰かに話しただけでも俺の心は少し軽くなった気がする。
「そんな事があったんですか……それで、カレンさんはショーマさんの事を好きになってしまったと」
「……そうみたいです」
なんだろう……人が自分の事を好きって思っているというのを第三者に伝えるのって凄く恥ずかしい。
「それでショーマさんはどうするつもりなんですか?」
どうするか……俺はカレンの気持ちに応える事はできない。
だって、俺はセシリーの事が好きだから。
だから、俺はカレンにちゃんと伝えないといけない。
「……俺には別に好きな人がいるんで、カレンには気持ちに応えられない事を伝えるつもりです」
「そうですか。ちゃんと向き合って答えを出してあげる……それで良いと思います。でも、今のショーマさんならカレンさんを傷つけます」
「俺がカレンを傷つける……?」
どういう事だ? 気持ちに応えられないから?
でも、さっきネリーさんは……どういう事だ?
「ショーマさん、今のショーマさんはこの事で悩み過ぎて、地に足がついていないような感じです」
困惑していると、ネリーさんが口を開く。
確かにネリーさんがいう通り、今の俺はカレンの事で悩んで地に足がついてない。
「カレンさんは、ショーマさんに好きな相手がいるのに好きになってしまいました。それで膝枕をして……それだけで大きな罪悪感を感じています。好きになった相手を困らせるような事をして、さらに好きな人がいつもと違う感じになっていく……それを見ると、カレンさんは耐えられなかったんだと思います」
「あっ……」
そうだ、カレンは俺がセシリーの事を好きって知っていた。
だから、ネリーさんの言う通り、カレンはこういう事になって罪悪感を感じているだろう。
真面目な性格だから余計に。
その上、俺がこうやって悩んでて帰りの馬車でも元気がなかったから……くそっ!
「……気付かれたみたいですね?」
「はい、ありがとうございました!!」
俺はそう言って、銀貨を一枚取り出して置いて立ち上がった。
「ネリーさん、ゆっくり食べて飲んで行ってください」
そう言うと俺は店を出る。
あまり長い間夜に、ネリーさんと二人でいて変な噂が立って迷惑かけたら申し訳ないし、これは俺の問題だ。
ここまでヒントをもらったんだから、あとは自分で解決しないと。
でも、店を出る時、ネリーさんが微笑んで見送ってくれたのはともかく、俺が席を立った事で戻ってきたセバスにまで微笑んで見送ってもらうとは何だか、複雑な心境だな。
史上最強の魔王に生まれ変わった俺だけど、この力以外はまだまだ高校生から成長をしていないもんだ。
俺もまだまだだ。
それにしてもネリーさんがこうやって俺とカレンの事を心配して相談に乗ってくれようとしたのに、あらぬことを考えていた自分が恥ずかしい。
その分、ネリーさんのアドバイス通り、俺はやる事をしっかりやってすべてはっきりさせないとな。
俺はそんな事を思いながら宿屋へと歩を進めた。