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ネリーさんの誘い

「さて、予定外の事になったけど……」


 ギルドを出た俺は一人そう呟き、頭上のクロに視線を移す。

 すると、クロは俺の視線を受け、『何?』って言う感じで「キュウ?」と鳴く。


 クロを育てると決めた俺だけど、クロの父親がいるとしたら言葉は通じないかもしれないが、ちゃんと事情を説明して認めてもらう必要がある。

 そんな事を思ったけど、変にクロに心配かけないように俺は『なんでもない』という風に首を振った。


 ちなみにさっき話していたSランク冒険者の同行って話を詳しく聞くと、どうやら危険が伴うから一人Sランク冒険者を派遣する事、そして、そのSランク冒険者は俺がその道中の行動がSランクにふさわしいか見るそうだ。

 俺から言わせればSランク冒険者の方がよっぽど自分を見直した方が良いと思ったが。


 というか、竜の巣に行く事を考えてるけど、カレンの方はどうしよう?

 このままにしといていいのか、やっぱり探した方がいいのか……。


「ショーマさん」


 カレンの事で悩んでいると、声をかけられる。

 この声は……。


「ネリーさん」


 声のする方を向くと、そこには昼からの仕事に戻って来たであろう、ネリーさんがいた。

 ちなみに、カイトと一緒に食事を摂ってないのか、それとも一緒に食事を摂った後でカイトは用事とか依頼とかで途中で分かれたのかは知らないけど、ネリーさんの横にはいない。


「あの、良かったら今夜お時間頂けますか?」


「えっ? あっ、はい」


 ネリーさんからの予想外の言葉に俺はそのままの流れで返事してしまう。

 すると、ネリーさんは「ありがとうございます。では、夜にムーン・ライトで」と言ってギルドへ入って言った。


「……」


 俺はその背中を見送りながら止まっていた思考を無理矢理動かす。

 いったいどういう事だ?

 ネリーさんが俺に時間が欲しいって……恋の相談?

 あの完璧なネリーさんが?


 ……もしかしてカイトと別れた!?

 そう言えば一緒にいなかったし!


 それで俺に相談?

 いや、時間を頂けますかって言い方、もしかして俺に気が合ったとか!?


 思考を動かした俺は、カレンの事もあってあり得ない方向へと話が向かい、それを否定しながらもその時はちゃんと断らないと! と思いながら動揺しまくって宿屋へと歩き出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……なにも言うな」


 結局、宿屋に帰っても落ち着かず、さらにはグラムにおちょくられる始末で、部屋にいるのが嫌になり、クロにごはんを多めに与え、グラムを放置して宿屋を出て、外で時間を潰した。

 でも、そうそう時間も潰せず、落ち着かなかった俺は、早くにネリーさんとの待ち合わせ場所であるムーン・ライトへと向かった。


 ムーン・ライトに入ってカウンターに座ると、マスターに代わってカウンターにいたセバスに目を見開かられ、俺は先にけん制しておく。


 よりによってこの場所とは……でも、今回は場所を変えようという暇もなかったし仕方ない。

 はぁ~……落ち着かない……。


「どうぞ」


 すると、俺の目の前に湯気の出た赤い液体が出される。

 それを見て俺はセバスの方へ顔を上げた。


「ホット果実酒でございます。これを飲んで気を休めてください」


 セバスは微笑んでホット果実酒を差し出す。

 それを見た俺はセバスの言う通り、それを手に取り口に運んで飲んだ。


 すると、口の中に果実の香りが広がり、さらに喉を通って井に入ると、温かさとアルコールで身体が温かくなり、リラックス効果を生む。

 そのまま何口かホット果実酒を飲むとさっきまで落ち着かなかったのが嘘かのように少し落ち着きを取り戻した。


 そして、落ち着いた俺はセバスの方を向くと、セバスは無言で微笑んで自分の仕事に戻った。

 何か前世で聞いた事があるけど、一流のバーテンは客の様子を見て客に必要なお酒を出すと言って事だったけど、セバスの奴、バーテンを極めつつあるんじゃないだろうか?

 確かにセバスは仕事の出来る奴だけど早過ぎじゃないだろうか……?


 そんな事を思いながら、俺はセバスの用意してくれたホット果実酒を口にし、ネリーさんが来るのを待つ。


「お待たせしました」


 しばらくすると、ドアの開く音がして声が聞こえた。


「いや、俺も今来たところです」


 やってきたのはネリーさんだ。

 俺は条件反射的にそう答えるが、ネリーさんは俺の前にあったカップに目をやり、「ふふ、気を使わなくて大丈夫ですよ。すいませんでした、少し仕事が長引いたもので。お待たせして申し訳ありません」と言って俺の横に座ってきた。


 そう言われると、俺はなんだか変に嘘を見抜かれた感じがして恥ずかしくなってしまった。


「今日はどうしたんですか?」


 恥ずかしさを誤魔化すように、俺は本題に入ろうと言葉を口にする。

 すると、ネリーさんはセバスに「果実酒をお願いします」と言って、セバスが「畏まりました」と言いながら空気を呼んだのか、席を外した、それを見計らってネリーさんは口を開いた。


「ショーマさん、カレンさんと何かあったんですか?」


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