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俺の気持ち

「じゃあまた今度ね!」


 俺達四人はギルドに今回の件の報告を終え、ギルド前で解散した。


 帰りの道中はカレンがやたらに明るかったり、アースとミリアもあの事には触れずに話をした為、少し気まずい感じだったけど、その後は何もなく無事に街に着いた。


 ギルドは俺達が報告した事態を重く見た調査に力を入れると言っていたけど、現状では手がかりは折れたティルフィングしかない。

 しかも、その折れたティルフィングは折れた途端に、脆くなっていてグラムと交えていた時の強度はなく、素材としても普通の鉄っぽいとの事だった。


 おそらくは未だに浸透してない技術だったり、魔力を使って作ったものだろうけど、そんな方法は現在には伝わってなく、調査も難航するだろうとのクレイの見方だった。


 結局はクロの母親がアンデット化した時と同じだ。


 現在の知識では出来ないことであり、調査してもその原因の特定や犯人に結び付くものも見つからない。


 何やら聞き耳を立てていると、魔族って言葉が聞こえてきたりしたけど、魔族は俺と命の盟約を結んでいる為、そんな事できない。

 これは俺しか知らない事だけに、俺は一人余計に悩む。


 いったいこんな事できるのは誰だ?

 なんでもできそうなのと言えば神だけど、グラム曰く、神はこの世界にいないって言うし、俺もこの世界に来るときに『時間がない』という言葉を聞いている。

 それも、世界に危機が迫っているとも。

 考えれば考えるほど謎だ。


 でも、今までにない事が起きているのは間違いなく、それを起こしている奴が誰かいると言うのは明白だ。


 現状では調べようもなく、魔剣の調査の依頼もこれ以上今のところはどうしようもなく、ひと段落となったが、俺にとってはもう一つの問題がある。


 それはカレンの事だ。


 あれ以降、カレンとは魔剣の依頼の話しかしてないし、カレンはそれ以外の話は避けている。

 このままじゃいけないとは思っているものの、俺はどうする事も出来ずに解散したカレンの背中を見送っている。


「はぁ~恋愛偏差値低い俺には難易度高いっての」


 俺は一人呟く。

 アースもミリアもあれだけ余計な時には口出してくるくせに、今回は何も言わずだ。

 まぁ恋の事なんて本人の問題でしかないし、アースとミリアの行動が正しいんだろうけど。


 ちなみに、グラムにさんざん『よっ、モテ男!』『二股野郎!』とかからかわれたので、意識をシャットダウンしている。

 逆にクロは気を使ってか、おとなしくしている。


 親の恋路で子供に気を使わすのはどうかと思ったけど、許してくれ、クロ。


「おかえりなさい、ショーマさん」


「セ、シシリー……」


 カレンの背中を見送っていると、後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはローブ姿のセシリーがいて、俺は一瞬『セシリー』と呼びそうになったけど、そこは思いとどまってちゃんとシシリーと呼ぶことが出来た。


「依頼はどうでした? 無事に終わりました?」


「あ、あぁ、まぁ……」


 なんとなく後ろめたさがある為、歯切れの悪い返事をしてしまう。


「……何かあったのですか?」


 そう言ってセシリーは顔を覗き込んでくる。


「……いや、実は――」


 何もないと言うと余計変に勘ぐられると思った俺は少し場所を移して、カレンの事ではなく、人を乗っ取る魔剣があった事を話した。

 本来であれば公の任務ではない以上、秘密にしないといけないだろうけど、相手はセシリーで王族だ。

話しても大丈夫だろうと思い、俺の抱えるもう一つの悩みを話すことにした。


 そう言った今までになかった事が頻発している事、そして、そのどれもが今の知識や技術では難しいだろうとギルドが言っている事、何者かが何かを企んでいるんじゃないかと考えている事……セシリーは何を言うまでもなく、ただ黙って聞いてくれた。


「そうですか、そんな事が……。でも、確かにショーマさんの言う通り、今までなかった事が起きていますし、何者かがそれだけの力を持って企んでいるとしたら怖いですね」


 セシリーは俺の意見を肯定的に受け止めてくれる。

 その様子を見て俺はもう一つ聞いてみる事にした。


「魔族がどうのこうのうってちょっと聞こえたけど、セシリーはどう思う?」


 俺はこの際、思い切って魔族の事を聞いてみた。


「魔族ですか……」


 そう言うとセシリーは視線を落とす。

 やっぱり魔族には良い感情なんてないだろうし、疑うだろうな。


「やっぱその線が一番――」


「確かにその可能性はあると思いますが、ちゃんと証拠がないと疑ってはいけないと思います」


「えっ?」


 セシリーの口から魔族を疑う言葉を聞きたくなくて自分で『その線が一番考えられるよな』と言って話を締めようとしたところで、予想外の言葉が返ってきた。



「確かに魔族という存在はいるのは知っていますし、良い話は今まで聞いてきませんでした。でも、私は聞いた話が全て本当だと思い込むのは危険だと思います。現に私は人から聞いた話が違う事を知って、こうやって冒険者をしてますから。それに、種族が違っても仲良くなれる……この前のエルフの村へ行った時に私は体験しました。最初は人間とエルフの仲は良くないと聞いていたので、少し不安だったのですが、話してみると違いました。魔族だってそうかもしれません。私の知る限りでは魔族と人間の争いは今のところありませんし、仲良くなれるかもしれません。話してみるまで分からないと思います」


 そう言ってセシリーはニコリと微笑む。


 セシリー……なんて素晴らしい子なんだろう。

 魔族っていう偏見を持ってもおかしくない相手にも自分で見るまでは偏見を持たないで平等にみようとし、逆に仲良くなる事ができるかもしれないなんて事まで言うなんて。

 セシリーは他人に惑わされずに自分の意思を持っている、それに俺はいつもセシリーにとってはなにげない事で救われている気がする。


 ……やっぱり俺にはセシリーしか考えられないな。

 カレンにはきっちりと言わないと。


「そうだな、ちゃんと話さないとな」


 俺二つの意味を込めて言葉を返す。


 いつもセシリーと話すと救われるな、俺は。

 そんな事を思いながら俺はしばらくセシリーと話を続けた。




























 その日、カレンが街から姿を消した。


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