依頼達成の報告に行きます
「さて、ここがそうか」
俺はクレイから聞いていた孤児院の場所へと辿り着いた。
辿り着いた孤児院は石造りの建物で決して立派な建物と呼べるようなものではない。
「わぁ! お兄ちゃんその可愛いのなにぃ~?」
俺が建物を眺めていると、俺の足元に茶色いおさげの女の子がいた。
見た目は七~八歳くらいか?
着ている服はお世辞にもちゃんとしたものとは言えない。
そこらじゅうに繕ったような跡がある。
きっとこの孤児院の子供だろう。
「これは俺の従魔、ドラゴンの赤ちゃんでクロって言うんだ」
「わぁ可愛い!! 触らせて触らせて!!」
女の子はクロに触ろうとピョンピョンと跳ねている。
でも、俺の肩で寝ているクロには届かない。
クロは試験で疲れたのか、ギルドを出ると俺の肩で寝てしまった。
ここに来る道中にクロに気付いて驚く人や衛兵にも声をかけられたけど、従魔の首輪を見ると落ち着いてくれた。
しばらくはこの調子が続くかもしれないけど、そのうち慣れてくれるだろう。
ならなかったらまたクレイに相談しよう。
「いいけど、気をつけろよ」
どうしようかと迷ったけど、きっと大丈夫だろう。
俺は肩で寝ているクロを手に取って座り、女の子の前に差し出す。
何か俺のキャラじゃない気もするけど、俺もちゃんと人の心を持っていて、純粋無垢な子供の前だと素直に素の自分に戻るんだな。
「わぁ!! 可愛いっっ!!」
女の子はクロの事を撫でたけど、クロは嫌がる素振りも見せずに気持ちよさそうに撫でられて寝ている。
「こら、リリ何してるの?」
女の子の後ろからシスター姿の女性がやってくる。
この子はリリって言うのかな?
「あっ、マリア先生」
女の子は後ろを振り向き、女性を見てマリア先生と言った。
という事はこの人が孤児院の先生なのかもしれない。
「リリが申し訳ありません」
そう言って女性はクロに驚くことなく、俺に頭を下げる。
ドラゴンであるクロに驚く事もせずに、頭を下げるとはできた人っぽいな。
なんかこういう人の前だと俺までかしこまってしまうな。
『我は闇夜の黒騎士だ!』なんて言ってる時とは大違いだ。
「いえいえ、大丈夫です」
「そうですか。ありがとうございます。私はこの孤児院の責任者をしてますマリアと言います」
「俺は冒険者のショーマと言います。あっ、このベビードラゴンのクロを従魔にしているテイマーでもあります」
俺は自己紹介とともに、クロの事も併せて説明した。
きっと内心では気にしているだろうしな。
「そうですか。小さなドラゴンでもドラゴンをテイムしているなんて初めて見ました。それで冒険者様はなぜうちに?」
「えっ、あぁ、あの光明草の依頼を受けて達成できたのでその報告に」
「まぁ!?」
「えっ!? お兄ちゃん光明草採ってきてくれたの!?」
二人はそれぞれ違った反応を見せてくれた。
「えぇ、一つだけですけどなんとか」
「それは申し訳ありませんでした。たいした御もてなしは出来ませんけど、中へどうぞ」
「お兄ちゃんに中に入って私ララを呼んでくる!!」
俺は二人に言われるがままに孤児院の中に入った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お兄ちゃんララを呼んできたよ!!」
「ちょ、ちょっと待って!」
孤児院の中に入ると、マリアさんが何か飲み物を出すと言ってくれたけど、俺は「いえ、大丈夫です」と断った。
この建物を見る限り、お金に余裕がある訳ではなさそうだからだ。
でも、マリアさんが「でも……」と言うから俺は「俺ちょっと子供達と触れ合ってきますわ!」と恰好つけて行ったのが仇になった。
子供たちは3~10歳くらいの子が15人程暮らしているみたいで、最初は警戒していたけど、クロを見るなり飛びついてきた。
そして俺は今、子供達にモミクチャにされている。
クロは子供の声に目を覚まして、どうなるかと思ったけど、子供達と一緒に俺の周りを飛び回って遊んでいる。
どうやら、子供の価値観は種族を超えるようだ。
マリアさんは温かい目で見てくれているけど、どちらかというと少し助けて欲しかった。
でも、自分から言い出した事なので、助けてとは言えずに俺はがむしゃらに遊んだ。
そして、しばらく遊んでいるところでリリが戻ってきた。
どうやら、目が悪いっていうララって子を呼びに行ってたらしい。
他の子らから少し話を聞いたけど、ララはリリと同じくらいに孤児院に来て、生まれつき目が悪かったのか、今ではほとんど目が見えないらしい。
それで最近ではふさぎ込んで部屋から出て来なくなったから、みんなで話し合ってララの目の治療をしようと、大きい子は街で手伝いを探してちょっとしたお金をもらったり寄付を求めたり、小さい子は孤児院の手伝いをしてその間にマリアさんが街で仕事の手伝いをして生活費以外に銀貨一枚貯められたようだ。
ちなみにリリはララを妹のように慕っているみたいだ。
光明草を買おうとしたけど、光明草の値段が上がっていて買えなくてダメ元でギルドに依頼を出したって訳らしい。
「ほら! ララが来たぞ!!」
俺は子供達を制止してリリの元へと向かう。
「お兄ちゃん! ララはリリの妹なんだよぉ!」
リリはそう言ってララを紹介してくれた。
リリより身長は少し小さいくて、リリと一緒の茶髪だ。
それにリリと同じようにおさげになっている。
「こんにちは、初めまして」
「……ララです」
そこには目から光がなくなった少女がいた。




