膝枕が起こす波紋
「アース……」
声のする方を見るとそこにはいつもながら一人空気感の違う男、アースがいた。
そして、その後ろにはミリアとクロもいる。
「ショーマ君、大丈夫かい?」
そんないつもなら鬱陶しく思うところだが、今日の場合はカレンと気まずい感じだったところだし助かった。
こいつに声をかけられて『良かった』って思ったのは初めてじゃないか?
「ん? やっぱりどっか調子が悪い?」
「あ~いや、違う。目が覚めたばっかでボーっとしてた」
その間にクロは俺の元へとやって来て頬ずりすし、しばらくすると俺の頭へと降り立った。
「そっか。じゃあゆっくり休んでて。カレンちゃんは――って大丈夫? 何か顔が赤いけど?」
「えっ!? あぁ私か、だ、大丈夫だ」
「本当に? 何かの副作用とかじゃない? 顔真っ赤だし」
「いやいや、本当にもう大丈夫だ!!」
大丈夫というカレンにアースはしつこく問いかける。
あいつ余計なところでしつこいな……。
「ん?」
そんなやりとりを見ていると視線を感じ、その方を向くと据わった目で俺を見ているミリアがいた。
「な、なんだ?」
「……浮気」
「っ!?」
ミリアの発した単語に俺は少し動揺してビクッとなってしまう。
決して心変わりしたつもりも、やましい事があった訳でもない……はずだ、ただ単に不可抗力でカレンに膝枕されていただけだ。
でも、セシリーの事を考えると、何か後ろめたい気持ちになる部分はある。
「ち、違う!! 俺は何も――」
「そうだ!! 私が勝手に膝枕しただけだ!!」
俺がミリアに誤解を解こうとすると、アースと押し問答していたカレンが話に入ってきた。
いやカレン、それは本当の事だけど言っちゃ余計にややこしくなる気が……。
「……」
「……」
「……」
「……」
俺、ミリア、カレン、アースの四人の間に気まずい沈黙が流れる。
……なんだこれ?
ここはとりあえず愛想笑いでもしておいた方が良いのだろうか……?
「「えぇぇぇえええええーーっ!?!?!?!?!?」」
そんな事を思いながら気まずい沈黙の空気を耐えていると、アースとミリアの声でその沈黙は破られた。
「カレンちゃん、僕とミリアが見回りに言っている間にショーマ君を膝枕したの!?」
「えっ!? なんでですかカレンさんっ!?」
そして、アースとミリアは物凄い勢いでカレンに問い詰める。
アースは知っているかと思ったけど、アースも知らなかったって事か。
見回りに言っている間にカレンは俺を膝枕……なんでだ!?
「そ、それは私がしたかったからだ!!」
「「「っ!?」」」
二人に問い詰められたカレンが叫んだ言葉にアースとミリアに加え、俺も一緒に驚く。
そうしたかったからそうした?
いやいや、さっきは助けたお礼と言ってたと思うけど……ってかお礼でも膝枕はしたいからしたってのは少しおかしくないか!?
そんな事を思っているとアースとミリアがどういう事だと言わんばかりに同時に俺の方を見てきたけど、俺は全力で顔を左右に振る。
いやいや、俺の方がどういう事か知りたい!
「カレンちゃん、膝枕って言うのはどういう相手にするか分かってる?」
「そうです! カレンさん、そんな好きでもない人にしちゃダメです! 相手がつけ上がります!」
こういう事に関してはまっとうな事を言う二人。
俺もその意見に相違はないけど、ミリアの最後の言葉は俺に向けているのか?
何か俺にきつくないか!?
「わ、分かっている! 私だってそれくらいの事は……」
分かっていると言いながらもどんどん声が小さくなるカレン。
「じゃあなんで!?」
「そうです!! こういう事は安請け合いでするといけないです!!」
そんなカレンに二人はさらに問い詰める。
ミリアに至ってはスイッチが入ったのかSランク冒険者で皇女のカレン相手だろうがおかまいなしだ。
「分かっている! 私はショーマだからしたのだ!!」