カレンであってカレンでない
「カレン!?」
そんな聞こえてきた叫び声は聞き覚えのある声だった。
それはカレンの声。
もしかして……?
「おいアース!!」
「うん、行こう!!」
アースも俺と同じ不安を感じたのか、呼びかけるだけで分かってくれた。
そして、俺達はまだ黒い靄が晴れ切らない中、警戒しながらカレンの声の方へと歩く。
もしカレンに何かあれば……ミリアが気を失っているしいろいろまずい状況だ。
そうして、ゆっくりと叫び声のした方へと向かうと靄の奥に人影が見える。
あれはカレンか?
「おい、カレ――っ!?」
カレンに呼びかけようとした時、その人影が動き、俺達に斬りかかってきた。
それを見た俺とアースは後方へと飛び、距離を取る。
まさかカレンの奴!?
「ほう、今のを避けるか。さすが我が認めた強さを持つ者達だ。」
聞こえてきた声はカレンそのものだが、口調や雰囲気は全然違う。
それに決定的に違うのがカレンの目が緋色になっている。
「……おまえはティルフィングか?」
俺の言葉にカレン……いや、ティルフィングは返事を返さないがニヤリと口角を上げ、暗に俺の言葉を肯定する。
まさかカレンが乗っ取られるとは……。
アースはエクスカリバーに守られたって言っていたけど、もしかしてカレンのラグナロクはエクスカリバーを元に作られた剣だから、そこまでの能力がなかったって事か?
それにしてもあのティルフィングはヤバイ。
何とかしないと。
「カレンちゃんを返せ!!」
それを見たアースがティルフィングに向かって叫ぶ。
「それは出来ぬ。我は主の命令通りに力を持って人間を滅ぼすのみ!!」
「っ!?」
ティルフィングはそう言うと左手にティルフィング、右手にラグナロクを持ってミリアを抱えるアースに斬りかかる。
もちろん、それを見たアースは回避行動に移ったが、ティルフィングが乗っ取ったカレンの動きは、ティルフィングの魔力が加わっているせいか、カレンの動きより早く、ミリアを抱えたままのアースは虚をつかれたのと、ミリアを抱えているせいで行動が出遅れ間に合いそうにない。
アースはその動きに歯を食いしばり何とか被害を減らそうと、ミリアを庇う姿勢を取る。
しかし、俺はティルフィングが剣を持つ手に力を入れたところで動き出していた。
「ショーマ君っ!?」
アースとミリアに振るわれたラグナロクを俺はグラムで受け止める。
「おまえはミリアを連れて逃げろ!!」
「いや、そんなのはダメだ!! 僕も戦う!!」
「おまえはミリアを危険な目に遭わせていいのか!? おまえはミリアを守るんだろ!!」
「で、でも――」
「今みたいにミリアを庇いながら戦うのは足手まといだ!! 早く行け!!」
俺は冷たく突き放す言葉を浴びせる。
こいつの場合、これくらい言わないと、絶対に引き下がらないしな。
それに実際のところ、カレンの身体はティルフィングの影響を受けて能力が上がっている。今もこの剣を受け止めているが、その力は想像以上だ。
そんな相手に全力を出せるアースならまだしも、ミリアを庇っているアースは足手まといでしかない。
「くっ……ごめんショーマ君、でもきっと戻ってくるっ!!」
「あぁ、でもミリアが目を覚ますまでは傍にいろよ! ミリアが泣くからな!」
アースは唇を噛みしめるようにして言葉を口にし、俺はそれに言葉を返す。
すると、アースは去り際に「……ショーマ君、ちゃんと生きててよ!」と言って入ってきた入口の方へと走って行った。
あいつはこんな時でもあいつらしいな。
「さて、そういう事でおまえの相手は俺だ!」
アースの姿が見えなくなったところで、俺は魔気を強め、ティルフィングを弾き飛ばして距離を取る。
アースが魔気をを感じるかもしれないけど、さっきからティルフィングが魔気を発しているから俺だとは気づかれないだろう。
それに、こいつ相手に手を抜くのは危険そうだ。
「ほう、まだ力を隠していたのか。しかも、その力……」
ティルフィングはやや驚いた表情を浮かべながらも、動揺は見せずにこちらを見据えている。
魔王ってのまではバレていないだろうけど、これで普通の人間じゃないってのは分かっただろうにその態度って事はあいつの全力はまだまだって事か。
それにしてもカレンの身体が相手だとやりにくいな。
「それはお互い様だろ? さぁ、さっさとおまえを倒してカレンを返してもらうぜ!」
「おもしろい! 来い!!」
そう言葉を交わした次の瞬間、俺とティルフィングの距離は縮まり、双方が剣を振るい、剣を交えた。