緊迫の道中
「とりあえず、洞窟に着いたら僕が先行するからカレンちゃんは退却路の確保と周囲の警戒を頼むね」
「了解した。ショーマとミリアは――」
俺達四人は、あの後一通り準備を済ませ、アース達が用意していた馬車に乗り街を発った。
今回の依頼は、ギルドからの依頼なので馬車と御者はギルドが用意してくれた。
なので、俺達四人は馬車の中にいる。
だから、今は馬車の中でSランク冒険者のアースとカレンを中心にこれからの行動について話し合いが行われている。
ちなみにクロはお決まりの如く、昼寝中だ。
こうやって街を出た訳だが、もちろん会議室を出た後に、クレイにはアースの依頼に俺とカレンが同行する事を伝えている。
その際に話を聞いたクレイは何度もカレンに、
「本当に行くのですか?」
「本当に行くのか?」
「本当の本当に行くのか!?」
と、最初は穏やかに説得しようとしていたけど、最後は何が何でも止めようと必死だった。
でも、その説得にカレンが言う通りに同行を諦める事はなく、クレイは項垂れた。
そんなクレイにアースが「大丈夫! 無事に解決してくるから!」とクレイが悩んでいる事と見当違いな励ましをして、クレイは天を仰いだ。
俺はそんなクレイに同情の視線を送ったけど、クレイが気づいたかどうかは分からない。
とりあえず言える事は、クレイの心労がまた一つ増えたという事だ。
俺もクレイをからかったりしてるしあれだけど、あいつストレスで倒れたりしないだろうか?
ちなみに、もちろんセシリーにも同行する事を伝えた。
セシリーも行くと言っていたけど、今回の調査は危険が大きいと説得すると、渋々ながらも納得してくれ、最後には「気をつけてくださいね」と見送ってくれた。
まぁそんなこんなで、結局俺も同行し、馬車に揺られながら目的地に向かって移動している。
「……ショーマ君、アース君浮気したりしないですよね?」
アースとカレンが今後の行動について話していると、その光景を無言で眺めていたミリアが俺に低い声で呟く。
その目は据わっており、目からは生気を感じない。
見た目の可愛さと裏腹にその目には闇が潜んでいて、天使のような悪魔の二つ名にふさわしい感じだ。
こわい……こわすぎるっ!!
「あ、あぁ、大丈夫だろ! アースはそんな男じゃないさ!!」
普段は……いや、今までに一度もアースに対して肯定的な事は言わなかった俺だけど、今だけはこうやってアースを持ち上げないと、とんでもない事になりそうで、自然とアースを良く言う言葉を口にする。
アース、ミリアも構ってやれっ!!
「……そうですよね、アース君は私のものですもんねっ!!」
さっきの暗い表情から一転、ミリアは満面の笑みを浮かべる。
……ヤバイ、こいつ『私のもの』って、ヤンデレって奴か!?
アースが被害に遭うのは自業自得だけど、俺を巻き添えにしないでくれぇぇぇえええええ!!!!
俺は変な緊張感を持って馬車に揺られる事になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあここからは僕が先行するから。ショーマ君とミリアは中団、カレンちゃんは後方で周囲の警戒をよろしくね」
道中、ミリアに気を遣いながらも何とか目的地である森へとたどり着いた。
でも、俺が気を遣いながら道中を過ごしていたのに、目的地に着く直前にアースがミリアに「今回は少し危険だと思うけど、ミリアの事は絶対僕が必ず守るからね」と言うと、満面の笑みを浮かべ、さっきまでの低い声とは違う高い声で「はい! アース君の事、信用してます! 守ってくださいね!」と言った。
それを見た俺は女性の裏と表を見た気がして、何とも言えない気持ちになった。
それにミリアの『守ってください』という言葉はアースの言葉の返事としておかしくはないけど、その前の『信用している』ってのは何か違う気がするし、別の意味が込められていそうな気がして、それに戦慄を覚えていると、ミリアが俺の方を見てニコリとしたので、この件に関してはそれ以上考えないようにした。
それにしてもアースの奴はよくやるよな。
天然で地雷をうまい事回避しているし。
俺だったら……もし、セシリーと付き合えたらその辺り気を付けないとな。
まぁセシリーはそんな女性であるはずが……ないと願う。
そんなこんなで依頼とは違ったところで疲れたけど、ようやく目的地に着き、変な威圧感から解放されたのだ。
「それはいいけど、肝心の魔剣ティルフィングのところに着いたらどうするんだ?」
今回の依頼は魔剣ティルフィングの調査って言ってたけど、どこまでどう調査するのか、その辺をはっきりさせとかないとな。
「それなんだけどね、ギルドからは危険性がなければ持ち帰って来てほしい。もし、危険があるなら結界を張ってきて欲しいって事なんだ」
「結界?」
「そう、結界。危険だとなったら、洞窟全体を結界で覆って立ち入れなくするのさ。もしそうなったミリアがやってくれるから大丈夫だよ」
アースがそう言うとミリアはない胸を張る。
そんなにない胸を張らなくても。
それに能力はあっても道に迷うし。
「ショーマ、何か考えてないか?」
「い、いや、魔剣ティルフィングってどんなものだろうな~って考えてただけだって!」
俺はカレンに心を読まれそうになり、必死に誤魔化す。
もし、俺が思った事がミリアに知れたら俺は死ぬかもしれない。
無心無心……。
「まぁそれは行ってみないと分からないよ。あっ、それとショーマ君が来てくれたから、そのグラムの時と一緒かどうかとか見て欲しいんだ」
「まぁそれは俺が同行する意味だしな」
まぁ表向きはな。
もう一つはアースとミリアだけだとカレンが大変だと思ったのと、クレイの心労を考えてだけどな。
それよりも、依頼内容的にはとりあえずは魔剣ティルフィングに近づかないといけないって事か。
何か最近いろんな事があるから嫌な予感もするけど……かと言って放置もできないしな。
とりあえずは警戒するしかないか。
「じゃあ行くよ!」
何となくも嫌な予感を抱きながらも、アースの掛け声で俺達は魔剣ティルフィングがあるという洞窟へと向けて歩き出した。